帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る
これからの話
「領民に混乱はありますが、伝えるべきことは伝え切りました」
「ありがとう。シャノンさん、何か必要なものは?」
「大丈夫です」
新世界、隣のキンズリー領への連絡は、シャノンさんの拡声魔法を応用した魔道具でスムーズに行うことができるようになっている。
「最初で最後の緊急放送になったな……」
「何言ってるの。落ち着いたらまた戻るのよ」
それぞれに思うところがあり、沈んだ表情を浮かべる中、一人だけこちらが驚くほどすっきりした顔を見せるロベリア様が励ます。
「そういや、ロベリア様も領地があるんだよな」
「あそこはほとんど飾りになっていたし、私がこっちに来た時に近くにあった村ごと移動してたはずよ」
「そうだったのか?」
「ロベリア様の領地に残った方々はほとんどいません。立地的にも規模的にも、あえて標的になるようなところではないでしょう」
「ならまあ、いいのか」
そもそもが適当過ぎたわけだが、今回はそれが功を奏したか。
一方領地に関して言えば、どうしても暗い表情になってしまうのがミュリだ。
「お父様……」
キンズリー領は王都を囲む大都市だ。兵士を残してきたギルディア領とも隣接しており、とても楽観視できるところではない。
「貴方はどうするのかしら?」
「私は……」
ミュリは王族ではない。かといって従者でもない。失うもののない俺とも違う。
貴族の娘として縛られることもなく、比較的自由に過ごしてきた。
王女のロベリア様と違い、背負うものも覚悟も薄い。従者であるシャノンさんと違い、導いてくれる拠り所もない。俺と違い、家族や領地など、考えなければいけないことも多い。
こんなわずかな時間で結論を急くことは、非常に酷な話だった。
「もしも領地に戻りたいというのなら、考えないといけないけれど」
だからこそ、その役目をロベリア様は引き受けてくれたんだろう。
誰よりも、この状況に対して覚悟を決めて臨んでいる。
俺はまだ、なんの覚悟も背負えていない。この地に残していく多くの人々に対して、整理しきれない想いがある。
だからこそ、今声をかけるべきなのは、俺だと思った。
「ミュリ」
「ソラ……。私、どうしたらいいのかわからなくなっちゃったよ……」
ミュリはあの魔物をまだ知らない。だからこそ、頭の中が混乱している。
「取れる選択肢は二つだけだ」
「二つ?」
「一つは、俺たちと一緒に聖都まで逃げる。もう一つは、キンズリー領の近くで俺たちとは別れて、家に戻る」
ここに留まるような選択肢がないことは、すでにミュリだって納得済みだ。
「ただし、二つ目の場合は、そんなに近くまではいけない。あそこは王都に近すぎる」
「そっか。そうだよね……」
「いいか?こっからが大事だぞ」
「え?」
「あれだけの大都市、それも商人の町で、これだけの情報を得ていないとも思えない」
「それは確かに……」
「俺は、ミュリの父親が、この状況で何も手を打たないとは思わない」
「あ……」
話を聞いてからずっと下を向いていたミュリが、ようやく顔を上げる。
「ミュリが俺たちと逃げていれば、その情報は必ず掴む」
「お父さんなら、そのくらいはするはず……」
「だから、一緒に行こう」
気休めかもしれない。何の保証もない。
そもそも、これから逃げる旅そのものが危険が伴うものだ。
それでも、ミュリを少しでも危険な目に合わせたくない。
願わくば、俺が守れる範囲にいてほしかった。
もう、ここで一緒に街をつくってきた仲間を守ることはできない。それは仕方ない。
でもここで、頼る先も遠く、かといって見捨てることも出来ないミュリの背中を押して、その身を守るくらいのことは、していきたい。
「話はまとまったわね。もう時間もないでしょ?」
「準備はできています。すぐにでも」
二人が促す。
俺はもう一度ミュリに……。
「よしっ!行こう!私がいればみんな怪我したってすぐ治しちゃうからね!」
何も言うまでもなく、彼女自身でしっかり気持ちを切り替えていた。
「そもそも怪我しないで済むのが一番なんだけどな……」
慣れ親しんだ新世界。自分たちが作った街を捨て、聖都への旅が始まった。
「ありがとう。シャノンさん、何か必要なものは?」
「大丈夫です」
新世界、隣のキンズリー領への連絡は、シャノンさんの拡声魔法を応用した魔道具でスムーズに行うことができるようになっている。
「最初で最後の緊急放送になったな……」
「何言ってるの。落ち着いたらまた戻るのよ」
それぞれに思うところがあり、沈んだ表情を浮かべる中、一人だけこちらが驚くほどすっきりした顔を見せるロベリア様が励ます。
「そういや、ロベリア様も領地があるんだよな」
「あそこはほとんど飾りになっていたし、私がこっちに来た時に近くにあった村ごと移動してたはずよ」
「そうだったのか?」
「ロベリア様の領地に残った方々はほとんどいません。立地的にも規模的にも、あえて標的になるようなところではないでしょう」
「ならまあ、いいのか」
そもそもが適当過ぎたわけだが、今回はそれが功を奏したか。
一方領地に関して言えば、どうしても暗い表情になってしまうのがミュリだ。
「お父様……」
キンズリー領は王都を囲む大都市だ。兵士を残してきたギルディア領とも隣接しており、とても楽観視できるところではない。
「貴方はどうするのかしら?」
「私は……」
ミュリは王族ではない。かといって従者でもない。失うもののない俺とも違う。
貴族の娘として縛られることもなく、比較的自由に過ごしてきた。
王女のロベリア様と違い、背負うものも覚悟も薄い。従者であるシャノンさんと違い、導いてくれる拠り所もない。俺と違い、家族や領地など、考えなければいけないことも多い。
こんなわずかな時間で結論を急くことは、非常に酷な話だった。
「もしも領地に戻りたいというのなら、考えないといけないけれど」
だからこそ、その役目をロベリア様は引き受けてくれたんだろう。
誰よりも、この状況に対して覚悟を決めて臨んでいる。
俺はまだ、なんの覚悟も背負えていない。この地に残していく多くの人々に対して、整理しきれない想いがある。
だからこそ、今声をかけるべきなのは、俺だと思った。
「ミュリ」
「ソラ……。私、どうしたらいいのかわからなくなっちゃったよ……」
ミュリはあの魔物をまだ知らない。だからこそ、頭の中が混乱している。
「取れる選択肢は二つだけだ」
「二つ?」
「一つは、俺たちと一緒に聖都まで逃げる。もう一つは、キンズリー領の近くで俺たちとは別れて、家に戻る」
ここに留まるような選択肢がないことは、すでにミュリだって納得済みだ。
「ただし、二つ目の場合は、そんなに近くまではいけない。あそこは王都に近すぎる」
「そっか。そうだよね……」
「いいか?こっからが大事だぞ」
「え?」
「あれだけの大都市、それも商人の町で、これだけの情報を得ていないとも思えない」
「それは確かに……」
「俺は、ミュリの父親が、この状況で何も手を打たないとは思わない」
「あ……」
話を聞いてからずっと下を向いていたミュリが、ようやく顔を上げる。
「ミュリが俺たちと逃げていれば、その情報は必ず掴む」
「お父さんなら、そのくらいはするはず……」
「だから、一緒に行こう」
気休めかもしれない。何の保証もない。
そもそも、これから逃げる旅そのものが危険が伴うものだ。
それでも、ミュリを少しでも危険な目に合わせたくない。
願わくば、俺が守れる範囲にいてほしかった。
もう、ここで一緒に街をつくってきた仲間を守ることはできない。それは仕方ない。
でもここで、頼る先も遠く、かといって見捨てることも出来ないミュリの背中を押して、その身を守るくらいのことは、していきたい。
「話はまとまったわね。もう時間もないでしょ?」
「準備はできています。すぐにでも」
二人が促す。
俺はもう一度ミュリに……。
「よしっ!行こう!私がいればみんな怪我したってすぐ治しちゃうからね!」
何も言うまでもなく、彼女自身でしっかり気持ちを切り替えていた。
「そもそも怪我しないで済むのが一番なんだけどな……」
慣れ親しんだ新世界。自分たちが作った街を捨て、聖都への旅が始まった。
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