帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

新世界へ

「遅くなってしまい申し訳ありません。大規模な魔力を感じ、ようやく場所を特定できました」
「それは、ええっと……今までどこに?」
「脅威が迫っているのを感じてすぐ、前線へ赴きました。戦う力のないものを下がらせ、状況によっては逃げても構わないと伝えるために」


 倒れたシャノンさんを抱きかかえたルナリア様が、こちらへやってくる。近衛の魔法使いも何人か連れてきている。全員がシャノンさん級だとすれば、ここでこの魔物を……。


「時間がありません。シャノンを連れてすぐにロベリアのところへ」
「えっ」
「あなたのこの魔法は確かに強力なものですが、これだけの相手です。いつまでもこの発動が不十分であった魔法でなんとかできるとは思えません」


 俺を一緒に戦わせるつもりはない。俺たちと一緒に逃げるつもりもない。その意思がはっきり伝わる。


「あなたほどではありませんが、これでも私、結構魔法が使えるんですよ?」
「それは、聞いていますが……」
「それに、一人ではありません。なんとかこの魔物を相手にできる魔法も考えてあります。あなた達は万が一の時のために、ロベリアの元へ」


 勝算があると聞き少し安心する。
 いまだに魔物は霧の中から出てこない。魔法は発動され、内部に向け激しい雷が降り注いでいる。しかし、魔物の存在はしっかりと感じ取れている。倒せているわけではない。
 ルナリア様の意思を覆すだけの材料もない以上、必要なことだけ伝えてこの場を離れたほうが良いだろう。


「ルナリア様はこの状況をどこまで?」
「強力な魔物が現れ、北部の戦域はほぼ制圧されている。異常な状況ですので、それ相応の対応が必要と考えていますが、それ以上はわかっていません」
「手短にお伝えします。ギルディア王子の兵士団が暴走。ベイルの騎士団とぶつかりあい、北部は壊滅。ギルディア王子が亡くなりました」
「そうですか……」


 一瞬、悲しそうに目を伏せたが、そこで気持ちを切り替えた。このあたりに王族としての威厳を感じさせる


「ベイルとロクサスの両王子は寡兵にて国王のもとへ向かっています。この魔物はそちらへ向かうものと考えられていました」
「ええ」
「我々はルナリア様、ロベリア様を連れ、一度聖都への退避という計画です」
「わかりました。ありがとう」


 これを伝えたところで、ルナリア様は付いてこないだろう。


「さすがにそろそろ動きだすでしょう。私たちも魔法の準備にかかります。聖都へは、きっと私が迎えに行きますので」
「わかりました……」


 本当ならここで一緒に戦えたらと思う。


「心配しなくとも、私たちも死ぬつもりで挑むわけではありません。時間を稼ぎ、必要ならば私たちもすぐにあなた方を追いかけます」
「では、聖都で」


 別れを告げる。
 後はもう、信じるしかない。


「これから私たちが使う魔法は、聖魔法と呼ばれるものです。聖都へ行ったらぜひ習得なさってください。このような魔物を相手にするには、うってつけの魔法です」


 最後に心強い言葉を聞けた。
 聖魔法。アンデッドにはまさにうってつけの名前だ。ルナリア様たちの魔法が、あの魔物に有効であることを願う。


 シャノンさんを抱え、ロベリア様の元へ急いだ。


 ‐‐‐


「ん……」
「シャノンさん!」
「あ……私は……」


 あの場をルナリア様に任せ、何とか車を乗り捨てていたところまでシャノンさんを連れていき、車での移動を再開した。


「どこか痛いところは?」


 シャノンさんがあの魔物との衝突の中で、どのような攻撃をされたかがわかっていない。意識が戻ったのは良いが、後遺症になるようなものでなければいいが……。


「だいじょ……うっ」


 大丈夫と言いかけたシャノンさんが腹部を抑える。


「今は休んで」
「あの魔物は……」
「シャノンさんのおかげで距離がとれたから、ルナリア様が相手をしてくれている」
「ルナリア様が……」


 シャノンさんがあの魔物に飛び込んでからの様子を聞かせながら操縦を続ける。


「もうあんな無茶はやめてくれよ……」
「すみません。結果も出せない無謀な挑戦でした」
「勘違いしないでほしいんだけど、結果を出せるか出せないかは関係ないからな」
「ですが、ああでもしなければ逆にソラ様が飛びこまれていたのではないですか?」


 直前、頭によぎっていただけに否定しづらいところがある……。俺はそれでも、一応踏みとどまったはずだ。


「お互い、残ったやつに迷惑かけるのはなしにするってことで」
「はい。申し訳ありません……」


 きつい言い方になるが、このくらい言っておかないとシャノンさんはまた何かやらかすだろう。この言葉には自戒も多分に込められているが……。


「ルナリア陣営とうちは近かったはずだよな」
「そうですね。もうすぐのはずです」


 これまでの戦場を思い出す。
 暴走した兵士団、強化された魔物、蘇った味方……。それらに蹂躙され、為す術もなく死んでいく味方だった兵士たち。
 今から向かう場所は、これまでとは違う。


「無事だと良いけど……」
「ロベリア様は大丈夫でしょう。最後に見た時の強さは、ロベルト様のようなレベルであると」
「そんなに?」


 国内で最大戦力の一つだったギルディア兵士団。その第一騎士であるロベルトさんと並ぶほど……。


「あの雷を纏った剣二は、それだけの力があります」
「あれは確かにすごかったけど……」


 雷の有用性はここまで何度かテンペストと名付けた新技で実感している。
 あの魔物の真意こそわからないが、結果的にかなりの時間をあの魔法で閉じ込められた。


「無事を信じるしかありません」


 もちろん、ロベリア様やミュリのような人物は、絶対に救い出さなくてはいけない。
 だが、新世界はまがいなりにも自分の領地だ。他の陣営とは異なり、住民はすべて先頭区域内にいた。彼らが無事でいるかが……。


「ソラ様」
「ん?」
「新世界の住民については、諦めてください」


 絶句する。できるはずがない。彼らは……。


「彼らは、大切な領民であり、戦力であり、気のいい仲間です」
「そうだろ?だから」
「だから、その情に流され、これまでの目的を見失ってはいけません」


 状況は分かっている。
 これまでだって、犠牲になるとわかって置いてきた人たちがたくさんいた。
 それは全部、ロベリア様の救出のためだ。


「全部守らざるを得ないような状況に、ならないかなぁ」
「そうなってしまった時は、仕方ないですね」


 最悪の想像だ。守るべき領地を背に、あの魔物と相対するなんて。
 それでも、そうであってほしいと思うくらい、彼らを見捨てることは耐えがたい苦痛だった。


「ここで、覚悟を決めておいてください。彼らはあきらめ、ロベリア様だけの奪還にすべてを注ぎます」


 もうこうなれば、ミュリのためであっても彼女のために戦場を駆け回ることはできない。
 せめてロベリア様の近くにいてくれれば、ミュリくらいはこの車に乗せられる。ロベリア様の膨大な魔力をシャノンさんが使えば、移動に困ることはない。


「とにかく、行こう」


 シャノンさんに求められた覚悟は、まだできないまま、新世界へと入った。


 ‐‐‐


「なんだ?」


 やっとついた新世界は、拍子抜けするほどに平穏そのものだった。


「これは……予想外ですね」


 戸惑う二人に探し人の声がかかる。


「あら、遅かったじゃない。こっちは見ての通り、これ以上ないほどの戦果よ」


 久しぶりに見たロベリア様は、胸を張ってそう、報告してくれた。


「これでもう大丈夫ですよ」


 居合わせたミュリによって、シャノンさんの傷が癒される。回復魔法は初めて見たが、まるで時間を巻き戻すような魔法だ。


「やっと私の魔法が役に立ったね。どう?結構役に立つ女でしょ?」
「ああ……すごいな」


 素直に褒める。相変わらずのミュリの様子にも安心するが、のんびりしている場合ではなかった。


「俺が説明する。シャノンさんは領地にいる人たちに避難勧告を。俺たちが守ることはできないけれど、せめて戦地を逃れてほしい」
「わかりました」


 シャノンさんと役割分担をし、二人に向き合う。
 すでに今の会話で状況を察した二人は、もうすでに気持ちを切り替え、表情を引き締めていた。


「悪いニュースしかない」
「何となくわかるわ。逃げるのでしょう?必要なものを用意しながら話しましょう」


 本来であればそんな余裕もなかっただろうが、領民への避難勧告を行う間にすませよう。


「今のところ一番の脅威は、俺とシャノンさんで歯が立ちそうにない魔物がこちらへ向けて動き出してる」
「ええ?!」


 ミュリが驚愕する。


「それって、もう誰にも勝てないんじゃ……」
「弱点をつけそうなルナリア様が相手を引き受けてくれたからここまで来れたけど、もうすでにルナリア陣営のところまで来ている。時間がない」
「お兄様たちは?」
「ベイルとロクサスは国王の無事を確認するために王都へ」
「そう……。こちらへその魔物が来たのは想定外だったのかしら?」


 最大戦力であるベイルが魔物の相手に割り当てられていない。そこに違和感はあるだろう。


「その通り。たちの悪いことに、倒した相手が蘇ったり、普段より強い魔物も現れてる」
「そうなのね……」


 この地の戦況とはかけ離れた各地の惨状に、ミュリは青ざめる。
 ロベリア様は冷静に話を聞いているが、思うところはあるだろう。


「最初に異変を感じた時の動きは、ギルディア王子の兵士団の暴走だった」
「暴走?」
「ギルディア王子は、魔物の力を兵士に流用できないかという実験を行っていた。その負担に耐え切れず暴走した兵士団と、ベイルの騎士団がぶつかった。例の魔物もいた結果、それぞれの兵は壊滅。ギルディア王子は亡くなった」
「そんな……」


 ギルディア王子はミュリにとっても見知った顔だった。ショックも受けるだろう。


「すでに王子を一人失っている。例の魔物の狙いは王国本土にも及ぶと考えられている。王家の血脈を保護するために、ロベリア様は一度国外へ出てもらいたい」
「行き先は?」
「聖都へ」
「そう……。それは、ベイルお兄様が?」
「そうだ」


 立て続けに寄せられる信じがたいであろう事実にも動揺を見せず、冷静な受け答えをする。


「わかったわ。ミュリも連れていくでしょう?他の者たちは……無事を願うしかないわね」
「待って、そんなあっさり!」


 ミュリが食い下がる。


「ミュリ、あなたも貴族なら、義務を果たしなさい。ここで領民を守ろうとしたって、犬死になる。生きてこの場を離れるわ」
「それじゃあここにいる人たちは!」
「シャノンもソラも勝てない相手に、今すぐに何かできると言うのっ?!」


 ついに堪え切れずロベリア様が声を上げる。冷静に見せていたって、余裕がないのは同じだったようだ。


「ごめん……」
「私も熱くなったわ……。落ち着いたのなら、すぐに出る準備を」
「わかった……」


 ミュリの気持ちも痛いほどわかる。俺だって迷いがある。
 だが、こういう時にどうするべきかは、この世界の、この国で、覚悟をもって臨む者たちの意志を尊重するべきだと、俺は思う。
 ベイルが方向性を打ち出し、ロベリア様がそれに従うというのなら、俺はそれをサポートしよう。


「あなた、なかなか帰れなくなったじゃない」


 不意に、ロベリア様に声をかけられる。


「え?」
「私を王にするまで帰らないんでしょ?大変ね。これから」


 そうか。そうだな。
 帰るつもりはずっとなかったんだ。何も変わらない。
 だが、あえてロベリア様がこの言葉を投げかけてきたということは。


「いつまでもお供させてもらうさ」
「まずはこの状況、しっかり私を守ってもらうわね」


 こんな状況だというのに、いや、こんな状況だからか。ロベリア様は明るく振る舞う。


 帰らせたがりの王女様に、少しだけ認められたような、そんな言葉だった。



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