帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

ギルディア

「それにしても、あの新技はすごいねえ。さすがは新世界の化物だ」
「俺としてはあんな戦いしてる中でそれだけの情報を聞きだしてるお前の方が化物だよ……」


 互いに化物をなすりつけ合う二人に呆れたようにシャノンさんが苦笑している。
  
 ロベルトを倒し、すぐに歩みを再開したが、流石のベイルも無傷とはいかなかったようで、どうしてもスピードが落ちた。
 そのおかげで色々と話をすることができたのだが……。驚いたことにベイルは、あの戦いの中でロベルトから多くの情報を聞き出していた。
  
「まず敵の戦力だけど、もうほとんどいないと思っていいみたいだよ。ロベルトが到着するまでにほとんどが騎士団にやられていていたみたいだからね」
「それはいいが、てことはまとまってた騎士団は……」
「ほとんどはダメだろうね……。ただ、副団長の二人はあそこにいなかったし、そっちに期待かな」
  
 いつもどおりの飄々とした口調だが、その表情は険しい。自身も先ほどの戦闘で傷つき、部下だった騎士団が壊滅している状況だ。当然だろう。
  
 ロベルトから聞き出した情報は多岐に渡る。驚いたことに魔物となった自分の弱点まで教えてくれていたそうだ。
  
「ソラの言っていたとおり、火の魔法や物理的に身体の大部分を一度に破壊されれば、再生できないらしい。再生能力が魔物としての強さであり、個体差がある。その辺の兵士なら半分も吹き飛ばせば戻らないって言っていたよ」
  
 この他、この地でどんなことがあったか、誰がどのような最期を遂げたかといった話をいくつも聞いたようだ。
  
「一人一人のことも大切だけど、残念ながら今はどうすることもできないからね。大切な情報はこれだけだろう」
  
 ギルディア王子の生存確認と、居場所を聞き出すことに成功していた。
  
「とはいえ簡単な内容だよ。兄の場所はここからさらに東、森の奥へ進めばわかるとだけ言われている」
  
 信じるかどうかは悩ましいところだが、どちらにしても被害状況の確認に東へは向かわないといけない。
 今も魔物、騎士団、ギルディア王子の兵士団だったものたちの亡骸がところかしこに転がっている。如何に広範囲で戦闘が繰り広げられていたかわかる。
 ロベルトは魔物も騎士団も等しくなで斬りにしていったと語ったそうで、ここら一帯はほとんど彼一人の手によって行われたものだろう。
  
「兄の兵士団にロベルト以上の騎士はいない。兄自身、戦うことに長けているわけではなかったし、これ以上大きな戦闘はないさ」
「だといいけどなあ……」
  
 実はギルディア王子がめちゃくちゃ強かったり、一人だけ変身して化物になっていったりというのはありがちなパターンだ。もしそうなれば、怪我を負ったベイルよりも俺が前に出る必要もでてくるだろう。
  
  
  




  
「なるほど……。これは確かに、わかりやすいね」
  
 森の奥深く、忽然と現れたのは、豪華な建造物だった。
  
「こんなところに、どうして?」
「魔物の中には群れを作るものもあったけど、ここまでのものを作ったのか……?」
「全部聞こう。中にいるはずの兄にね」
  
 場違いな建物は、周りに何もない広大な土地を生かし、一階だけで構成されている。王族や貴族が住むのに使われていそうな、意匠をこらした装飾の見られる柱や壁がより一層この場とのミスマッチ感を際立たせる。
 建物の中央をまっすぐ進むと、巨大な扉にぶつかる。全員が予感を持って扉を開いた。
 果たしてそこには、ルズベリー王国第一王子、ギルディア=ルズベリーがいた。
  
「兄さん……」
  
 ギルディア王子は部屋の隅で座り込んでいる。
 その周りに無数の魔物……。騎士団の姿もある。
 魔物は血を流さない。そう考えれば、ギルディア王子の身体に付着した血の量は……。
  
「ああ、来たのか」
  
 ギルディア王子が瀕死の状態にあることは一目瞭然だ。
  
「色々と話をしたいのは、余もお主らも同じじゃろう」
「まずは治療を!」
「良い。もはや手遅れなことは余が一番わかっておる。その上、このような姿になってまで生き永らえたいとは思っておらぬ」
  
 両手を広げたギルディア王子の身体は、もう人間のそれではなかった。
  
「さて、積もる話もあるが、時間はない。お主らは逃げねばならぬ」
「逃げる……?」
「龍の怒りを買った。ソラ殿には悪いが、もうあの領地は諦めてもらわねばならぬ……」
「兄さん……?」
  
 ギルディア王子の言葉に全員が戸惑っていた。
 聞きたいことは山ほどあった。問いたださなければならないことも多い。だが、ただ事ではない様子で「逃げろ」と伝えるギルディア王子を前に、誰も何も言えなくなる。
  
「色々と話を……」
「言ったように、時間がない。だが、お主らが動くだけの理由を説明する必要はあるじゃろうな」
  
 ギルディア王子の話が始まる。
  
「余は、この不死の魔物の研究をしておった」
「死者を操るため……?」
「ああ、そのように理解されておったのであったな」
  
 王子は想定外の言葉を告げる。
  
「余は別にそれにこだわってはおらぬ」
「じゃあ……」
  
 どうしてだ。今までの話の根底が崩れる。
  
「この魔物が、ベイルに勝ったことがあるというのは知っておるな」
「ああ……」
「余が着目したのは、その強さじゃ」
  
 ベイルが敗れたあの日、ギルディアは国の危機を感じていた。
 ルズベリー王国にとって、森は狩り場でしかなかった。一方的に攻め入り、一方的に領地を拡大する。
 確かに魔物が町まで繰り出す危険をはらんだ立地ではあるが、たいした脅威ではない。無限に土地を得られるという大きな利益の源としてしか、この森を認識していなかった。
  
「じゃが、ベイルが敗れたとなれば話は変わる」
  
 そのような魔物が存在するとなれば、森は明確な脅威となる。ましてそのベイルを救ったのは龍と言う。もはや人の手に負える森ではないと、このときようやく思い至った。
  
「王国を支えるには、軍事力が足りんかった」
  
 ベイルは騎士団長として国王軍をまとめ、また個としても圧倒的な武勇を示す国内の柱となった。
 だが、それだけでは足りない。
  
「ベイルがおらねば国が守れぬというのでは、まずい。余はすぐに兵を増やした。もはや身分は気にせぬ。国のため、力あるもの全てにその機会を与えた」
  
 結果、スラムから集められた子どもであっても、兵士団として活動することが出来るようになる。
  
「同時に、森の調査を独自に行った」
  
 少数先鋭部隊で、森の魔物に動きがないか、またあの恐るべき脅威が動き出さないかと逐一調査を行わせた。
 任務につくスラム出身のものは、度々任務中に姿を消した。道中裕福なものに拾われたり、冒険者として生計を立てることを決めたり。基本的にギルディア王子は来るものも拒まず、去るものも追わなかった。
  
「調査中に命を落としたものはおらんかったが、そのような理由で姿を消すものはおった」
  
 ギルディア王子の話は一応筋は通っているように思える。これでスラム街の子どもが度々いなくなっていたことは説明がつくが……。
  
「魔物の調査をするたび、わかってきたことがある」
  
 度々独自に遠征を行ってきた兵士団は、魔物たちに核と呼ばれる部分があることを知る。
  
「不死の魔物であっても、核を失えば終わりじゃ。一般の魔物は心臓に核がある。無意識のうちにそこを狙っておったじゃろう」
  
 確かに、狼男など、人型であればあるほどに狙うべきポイントは人と一致する。その際たるものが心臓部であり、ここを突けば必ず絶命させることができていた。
  
「不死の魔物はこの核が非常に小さく、またどこにあるかも決まっておらぬ」
「それで全身を一度に吹き飛ばす必要が出てきていたわけか……」
「そうじゃな。余はまずこの核を持ち帰り、その場所を見抜く魔道具を作ろうとした」
  
 確かにそれが実現すれば、この魔物の脅威度は格段に下がる。
  
「その実験中、偶然にもこの核は、人と適合することがわかった」
  
 ここからギルディア王子の歯車は狂い始めた。
  
「魔物の核を取り込み、適合したものには、その魔物の能力が付与された」
「それが、その……」
「結果じゃ。見てのとおり、まともではない。ほとんどのものは暴走までした。今回のこの騒動、すべて余の責任じゃ」
  
 ギルディア王子の実験は、兵士団すべてにあのときの魔物に匹敵する力を持たせるところまでは成功した。
 だが、そこからは俺たちが見てきたものが、この実験の結末だった。
  
「余は、最初の実験台となった。思えばそのせいで、このような馬鹿げた結末を迎えるまで、自分自身を抑えることができなくなっておったのじゃろう」
  
 俺がギルディア王子に会ったとき、すでに王子は魔物の力を身に宿していた。
  
「人としての倫理感は失われ、時には記憶も抜け落ちた……。今になってようやく、その剣のことも思い出した」
  
 俺の持つ、元はベイルが持っていたという剣に目を向ける。
  
「全てはあの日から始まったというのに、余はそのことすら忘れておったのじゃな……」
  
 かける言葉が見つからない。
 ギルディア王子はあくまでも国のために動いていた。
  
「さて、逃げよと言ったな」
「まだ何か脅威があるのか?」
  
 ロベルトを倒し、魔物も騎士団も、魔物と化した兵士団もすでに壊滅状態だ。これ以上どこに危険があるというのか。
  
「余の兵士団は、領地にも残してある」
「あ……」
  
 暴走した兵士団は、ベイルと共にあった騎士団では抑え切れなかった。
  
「数は」
「3000じゃ」
「残してきた騎士団では……」
  
 ベイルの顔は苦悶の表情で歪む。
  
「いや、その数なら逃げろではなくすぐに王都へ向かえとなるのでは……」
「そうじゃ。問題は別にある」
  
 どこまで話は悪い方向へ転がるのか……。
  
「ベイルを倒した魔物が、すでに動き出しておる」
「それは……あの時と同じ個体という意味で」
「そうじゃ」
  
 魔物は普通、種族での認識はするが、個体として認識しない。もしその個体が何らかの理由で他の個体と識別できるのであれば、それはもう種族を超えたユニークモンスターである。
  
「龍の怒りを買ったと言ったな?あれは、龍の怒りを体現した魔物じゃ」
  
 ここにあるほとんどの亡骸は、その魔物によって築かれたものであった。
  
「あれは、もう人の手に負えるものではない。その怒りの矛先はすでに本国へと向いておる。聖都まで逃げよ」
「聖都……?」
「王国は、魔物の森から聖都を守るような位置にあります。王都を越えさらに西へ向かえば聖都と呼ばれる皇国があります」
  
 シャノンさんが説明してくれる。
  
「国を捨てるというのか!」
  
 ベイルがギルディア王子に詰め寄る。
  
「龍を相手に、戦うというのか?」
  
 その言葉に、ベイルは何も返せずただ肩を落とした。
  
「龍に目をつけられたとなれば、国は諦めざるを得まい……。じゃが、ルズベリーは王国だ。その血脈を経たぬ限り、再起も図れる」
  
 絶望した一同に変化をもたらす言葉だった。
  
「ロクサスはまだ生きておるな?」
「ああ、ここに来る前に確認している」
「来る前、か……。あの魔物は西へ向かった。期待は出来ぬが、やつも生き残っておれば連れて行ってやってほしい。王の器ではないかも知れぬが、あれはあれで努力も見られる」
  
 ロクサスはプライドの高い見るからに王族、貴族といった人物であった。一方で彼の指揮する騎士団は、間違いなく強かった。領地の民からの信もある。
 国をまとめるにはまだ器がなっていないが、王族として傲慢に振舞う分以上に、持てるものとしての義務を果たそうとする姿勢が垣間見れる。
 これがギルディア王子の考えるロクサスの姿だ。
  
「それから、ルナリアとロベリアじゃな」
  
 ルナリア様は現時点で十分に王の器を示している。これから混乱を迎える国にとって、包容力のあるルナリア様、軍事力で引っ張るベイルの二人は必要不可欠だ。
  
「新世界だったか。あれは、良いところじゃった」
「いつの間にお越しになられたんですか」
「言ったであろう?何度も、ここへは本当に何度も足を運んだのじゃ。当然お主たちの様子も見ておった」
  
 ギルディア王子が目を細め、続ける。
  
「あのような活気ある、勢いを持った街を興せるというのは、これからもっとも必要とされる力じゃろう。何しろ一から国を作り直さねばならんのじゃからな」
  
 ロベリアはまだまだ経験の浅い未熟な王女だ。本人に王になる気はなく、王族として振舞うつもりも感じられない。だが、だからこそこれからルズベリー王国を再建させるには、もっともうってつけかも知れない。
  
「ロベリアを頼む。今となっては優秀な臣下も少ない。国は王だけでは成り立たぬ。このような事態を起こし、このような姿になったが、恥を惜しんで願わせてくれ……ロベリアを、国を、頼む」



「帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く