帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

王子たちの覚悟

「まずは、ロクサスのところに戻ろうか」
  
 ギルディア王子との話を終え、ベイルが次の方針を決める。
 ギルディア王子は頑としてあの場を離れず、あそこで最期を迎えることを望んだ。あの建物は遠征の時に使用するために建てたものらしい。魔物の森で死ぬよりは、人間らしい最期かもしれない。
  
「その魔物は西に向かったんだよな?ロクサスたちの方に …… 」
「あそこは一応身を隠せる場所だった。そのまま居てくれればなんとかなると思うけれど …… 」
  
 ロクサスたちの戦力は全員でうまく連携が取れたとしても、ベイルを倒した魔物には勝てないだろう。
 ギルディア王子の話ではベイルと同じようにあれから成長してきたようだ。
  
「ギルディア王子、なんでその魔物を見てあそこで無事で居たり、龍のことにあれだけ詳しかったんだろうな」
「その辺は、彼が魔物であったことが幸いしたんだろうね。魔物は魔物を襲わない。基本的にはね」
  
 すでに味方として認識されて居たということか。だとすれば、戦闘能力の乏しいギルディア王子があれだけの魔物に囲まれ生き延びたことにも説明もつくか。
  
「まるで龍と話したかのように龍の怒りに触れたと話されていましたが …… 」
  
 シャノンさんからも疑問の声が上がる。
  
「それについてはなんというか、説明しづらいんだけど私も理解できるところがあるよ」
「どういうことだ?」
「一度龍に触れたものは、この森で龍の意思を感じ取ることができるようでね。私はもちろん、兄も何度もここに足を運ぶうちに、そういう機会があったか、今回のことで直接龍に触れたかだろうね」
「龍ってそんなほいほい見つかるもんなのか …… 」
「今回はもう、その魔物が龍の意思だとすれば、出てこないと思うけれどね」
  
 なら、今後の方針はその魔物を倒すことになるのだろうか。
 どうもギルディア王子にもベイルにもそのつもりがなさそうなことが気になる。
  
「話を聞く限り、その魔物さえ倒せばもう龍が新たに魔物を送り込んできたり、本人が登場したりってことはなさそうなんだけど?」
「そうだね。だけど逆に、あの龍がこれで大丈夫だと判断して送り込んできたのが今の魔物なんだ。私としては、その龍の判断を疑って被害を増やすのはどうかと思う」
  
 一度龍に触れるとこうなるのだろうか。そこまで龍の存在は大きいのか …… 。
  
「まあ、王子二人が国を捨てる決意を固めるくらいなんだから、そういうものなのか …… 」
「ああ、言ってなかったかい?私は国に戻るよ?」
「は?」
「兄がああなった以上、実質次期国王は私だ」
「だからこそ逃げるって話だろ」
「王は、責任をとってこそ王だ」
  
 ベイルを説得することは難しそうだった。
  
「なら、俺も残ったほうが勝率は上がるだろう?」
「確かに、ソラの存在だけは龍にとって誤算だろう」
「なら」
「だからこそ、ソラはロベリアを守るべきだ」
  
 龍がその気であれば、ここにいる全員と本国をどちらも相手取るだけの戦力を用意してきたと考えるべきだと言う。
  
「イレギュラーであるソラは、絶対に他の王族を守るための駒になるべきだ」
  
 正直、龍に直接かかわりのない俺からすれば、なんとかなるのではないかという思いもある。だが、ギルディア王子とベイルが決死の覚悟で臨んでいるこの状況に、水を差すべきでないこともわかる。
  
「国王は、どうしてるんだ?」
  
 これまで王子たちしか見ることはなかったが、この状況で国王が、王都がどうなっているのかが気になる。
  
「王は遠征の度に警戒態勢を取っている。特に今回は騎士団の半数以上を連れ出している。すでに情報は伝え、避難するよう伝えている」
「ベイルの目的は、王の救出になるのか?」
「そうだね」
  
 決して死ぬために国へ戻るという話ではないそうだが、実際は絶望的な状況であることは表情を見ればわかる。
  
「王は無事だと思うか?」
「これから向かう私としては、それを信じるしかないところだけど」


 正直、かなり厳しいんじゃないのかと思う……。
「どうしても行くのか」
「ああ。そもそも私はこれでも一応、騎士団長だからね。戻らないというわけにもいかないんだよ」
  
 茶化したように笑うベイルに、それ以上何も言えなくなった。






 ロクサス達のところへは、スムーズに辿り着いた。もはやこの森に魔物はいないのではないかと思うほど、あたりに気配はなくなっていた。


「良かった、無事だったね」


 こちらで起こったことを簡単に説明する。
 ロクサス達の方でも、特に動きはなかったらしい。


「その魔物はあそこから西に向かったんじゃないのか?ここまでそんなのに出会うこともなかったよな……」
「そうだね……。道なんてあってないようなものだし、たまたまここを通らなかったか」
「途中で追い抜いたか、だな」


 議論を交わす余裕などないとあざ笑うかのように、森に大きな変化が訪れた。


「?!」
「なんだ?!」


 森が揺れる。
 そして、悪夢のような光景が、目の前に広がった。


「うそ……」


 倒したはずの魔物と、そこに横たわっていた人間、その全てが、一斉に起き上がってこちらを向いていた。


 手を前に突き出す。
 魔法を放つ時には、できるだけこういうイメージにつながりやすい動作をとることにしている。だが、魔法は放たれる前にベイルに止められた。


「ソラはロベリアたちのために、できる限り魔力を温存しておいたほうがいい」
「でも……」


 これだけの量の敵だ。


「伊達に最強と祀り上げられてきたわけじゃないんだ。ソラとシャノンは、すぐにロベリアのところへ」
「ルナリア様は」
「状況だけは伝えて通りぬけてくれ。この状況ならもう、ソラたちはロベリアのために全力を注ぐべきだ」
「でも、それじゃあ」


 納得のいかない俺にロクサスから声がかかる。


「少し、我々を見くびってはいないか?」
「見くびる……?」
「まるでソラ、お主の力なしでは何もできぬようではないか?」
「そんなことは」
「この状況を引き起こした兄は、確かに責任を取りきれぬまま最期を迎えた。そうなれば、次に誰が責任を取る?それはソラ、お主らではない」


 ロクサスの言葉は重みをもって響く。


「それぞれが為すべきことを為さねばならない。私は、王家の人間としてこの状況を看過できぬ」
「ロクサスならそういうと思っていたからね。ここでお別れだ。ソラ」


 二人の王子の意思はすでに固い。なら俺も、やるべきことをやるべきなんだろう。
 今生き残っている人間が全員助かる未来はないのか。今生きている人間でこの状況を何とかできる手はないのか……。
 未練はある。だがこの国を支える王子たちがこう言っているのだ。それを遮って何かする力も、権利もない。


「俺たちは、聖都ってとこに行けばいいんだな?」
「ああ、こちらが落ち着いたら戻ってきてくれれば良いよ」
「お使いに行って帰ってくるくらいの軽さだな」
「そのくらい簡単に片付けばいいのだけどね。もしもの時は王を連れて私がそっちへ向かうさ」
「お前が行くんだから、すぐ落ち着くだろ」
「そうなるよう、祈っていてほしいね」


 こんな状況だからこそ、あえて余裕を見せよう。笑いあって、この場を後にすることを決めた。


「私の魔力はロベリア様と合流できれば回復できますので」


 そういって一直線に火の魔法を放ち、道を開けるシャノンさん。ロクサスの騎士たちはその光景に唖然としていたあたり、やっぱりシャノンさんの魔法はけた違いだということを再認識する。これまで一緒にいたベイルも俺も、やり方は異なるが、同じ結果は出せる。狂っていた感覚が少し戻ったように思えた。


 運転に必要な魔力供給もシャノンさんが担当してくれる。
 俺は何をすれば……。


「ソラの魔法がいつでも使える状態で温存されていることが、何よりも大きいんだ。ロベリアを頼んだ」
「さっさといけ。いつまでも道を開けてくれているとは限らんぞ」


 二人の声を最後に、その場に残っていたロクサスの騎士たちへの挨拶もそこそこに、その場を離れた。










「あまり魔力を消費しない程度に、障害になりそうな魔物だけは処理していただければ助かります」
「ああ!任せろ!」


 役割を持てたことがうれしく、つい勢いよくなってしまう。


「お願いですから、しっかりコントロールして魔力の消費を抑えてくださいね……」


 シャノンさんの言葉で初めて意識したが、魔力の限界のイメージがあまりないな……。どの魔法がどれだけ消費しているかなんて、ほとんど意識したこともなかった。


「ソラ様の場合は、マジックよりも四属性魔法を相手に合わせて最小限に放つほうが良いと思います」
「意識すると難しいな……」
「これだけの数ですので、ルナリア様のところへたどりつく頃には慣れてくるでしょうね……」
「嬉しくない話だな」


 倒してきた魔物や、倒された味方がすべて魔物として蘇っている。この辺はベイルとギルディア王子の兵士団が戦っていた場所でもある。
 ここにきてようやく、ベイルたちの心配ばかりしている場合でもないことを思い知る。


「これを全部相手にしながら、敵の本拠地に向かって行くのか。ベイルは」
「ベイル王子の目的は本国の救出ですので、脅威となる魔物はすべて相手するでしょうね」
「“気”にもやっぱ、魔力と同じように限界があるよな……?」
「信じるしかないでしょう。そして私たちも、これをなるべく相手にしないよう、聖都まで逃げ伸びますが……しばらくは戦闘が続くでしょうね……」


 ルナリア陣営の領地に着くまでに、どれだけの魔物を相手にすることになるのか……。
 終わりの見えない戦いが始まったことを、実感を伴って思い知らせてくれる魔物たちの相手をしながら、ロベリア様の元へと急いだ。



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