帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

ロベルト

「状況を整理しよう」


 ベイルが取り仕切り、話をまとめる。


「ギルディア王子の兵士団はその全てが魔物になったと考えて良い」
「人が魔物になるって、そんなこと今まであったのか?」
「聞いたことがないよ。兄は厄介なことに、研究者としては超一流だったんだろうね。それに各地から実力あるもの達を呼びつけていたわけだし」
  
 ギルディア王子は何を考えて兵士を全て魔物に変えたのか?実験だとすれば少数でいいはずだし、全員が魔物になり、しかも制御しきれていないというのはおかしいのではないか。
 こういう引っかかりは残しておくべきではないだおると判断し、全員に告げる。


「確かに、言われてみるとそうですね」


 シャノンさんが同意してくれる。


「それについてはここで考えてもわからないだろうねえ。何を考えてこんなことをしたのかは、兄しかわからないんだろう……」


 本当にそれで良いのだろうか?ここにきてギルディア王子の思惑を考えないのは危険過ぎる。ギルディア王子の目的はなんだ……。死を操って……。


「ギルディア王子の妻や娘は、城内に保管されてるって話だったよな?」
「そうだけど、突然どうしたんだい?」
「いや、ギルディア王子の思惑はわからないなりには探っておく必要はあるだろう。ベイルはその辺、力押しでなんとかできる分、焦り過ぎな気がするんだ」
「君も似たようなものだと思っていたけど、それだけにソラの言葉には耳を傾ける必要がありそうだね。続けてくれるかい?」


 自分でもまとまっていない話を、喋りながらなんとか自分でも噛み砕いていった。


 まず、ギルディア王子は妻や子供を生き返らせることが目的であるとされていた。だとすれば、ここに来てこれだけ大事になっているなら、その目的に対してすでになんらかのアプローチをしたはずだ。


「つまり、すでに彼女達にも実験を施してあると?」
「もしここまでがギルディア王子の思惑通り進んでいるとすれば、国の端と端にはなれた領地に最終的な目的であった人たちをそのまま残しているとは考えづらくないか?」
「だとすれば、生き返った姫達がどこかに……?」


 ロクサスが疑問を口にする。


「いや、実際に実験が成功したかどうかはわからないだろう?俺としては失敗してヤケクソになってこんな事態になっているっていうのも、考えたけど」
「兄に限ってそれは無いだろう。あれで“死神”に関わること以外では、国のことを第一考えた人物だった」
「では、今の状況はどうしても姫さま達の復活に必要であったか」
「兄様も意図しない事故であったか、だろうな」


 シャノンさんとロクサスが話をまとめる。


「前者だと考えられるような話って、なんかある?悪魔に魂を売ったら願いが叶うみたいな魔法とか」
「いえ、私の知る限り人が魔物になった結果他の人物が生き返るなど……」
「そこを繋げて考えるのは危険ではないか?」
「人を生き返らせようとした点と、他の人間が魔物になっている点を分けるとすれば……」


 しばらく意見を交換したが、明確な結論に至ることはなかった。






「この辺が限界かな?ソラ?」


 ベイルの言葉が、話し合いを終了する合図となった。


「話せてよかったよ。これだけの疑問が出たんだ。兄に会った時にはしっかり説明してもらわなくてはね……」
「魔物の力が人に宿っている原理も聞き出したいところです」


 話しながら移動の準備を手早く済ませるベイルとシャノンさんに、ロクサスの声がかかる。


「すまないが、私はここに残る」


 騎士たちはもう動けそうにない。仕方ないだろう。


「事態が落ち着けば治療班もやってくる、しばらく耐えてくれ」


 ベイルの言葉に頷き、ロクサスはこちらへ身体を向けた。


「まさかこんなところで倒れることはないだろうが、状況が状況だ。私にこれだけ大きな貸しを作ったまま消えることはないように、頼む」


 最後までロクサスらしい偉そうな挨拶でこの場を離れた。彼なりに心配しているのだろう。何よりあの時飛びかかったことがずっと気がかりなんだ。どんな形になるかわからないが、その償いができるような場は、彼のために設ける必要があるんだろう。






「急ぐぞ」


 ベイルを先頭に、再び動き出す。






「魔物の数が多い……」


 しばらく進むと急に魔物の数が増えた、このメンバーで苦戦することこそないが、少し進めばゾンビと出くわすという状況は心理的にダメージがある。


「結構進んだけど、まだお前のところの騎士団を見ないことについてはどう思う」
「正直、いい予感がしていない……」


 見渡す限り魔物しかいないこの状況は、すでに王子の兵士団も、ベイルの騎士団も進軍した後であることを考えれば、これはおかしい。


「騎士団全員がその辺な動物に乗ってるわけじゃないよな?」
「そうだね。行軍速度は歩兵に合わせることになっているよ」
「なら、そろそろ」


 そう言いかけたところで、ようやくベイルの騎士団を発見した。


「そんな……」


 無残な姿で。








 事態は思ったより深刻だった。歩兵が壊滅しているのは確認できるし、指揮官クラスも何人もやられていた。もはや生き残りなどいるのかわからない。


「いったい何が……」


 その解答は、突如現れた魔物によってもたらされた。


「皆様、ようこそ。お待ちしておりました」


 かつてギルディア王子の第一の騎士として剣を振るい、俺に剣と気の扱いを教えてくれた男の変わり果てた姿が、そこにはあった。


「ロベルトさん……」


 全身に帰り血を浴び、もはや人として立っているのは不可能だと断言できるほどに、肉体を失っていた。それでもなお立って会話を成立させているのは。


「我らの王、ギルディア様によって施された秘術です」


 誇らしげに告げる。


「私は魔物になりましたが、これは素晴らしい。どの兵士も、見違えるように強くなりました。もちろん私も」


 明らかに正気ではない。あの優しく、頼りがいのあるロベルトさんは、もういなくなっていた。


「さて、お相手してくださいますかな?お三方とも、いずれは剣を交わらせたいと夢見た戦士です。ここにきてようやく願いがかなう。生にすがりついてみるのも、悪くないものですね」


 魔物になった兵士団は、飛躍的にその戦闘能力が向上していた。元々の強さが頭一つ抜けていたロベルトさんがどれだけ強くなっているかは想像もつかない。


「私が行こう」


 ベイルが前に出る。妥当だろう。というか、ベイルが勝てなかった場合次の手はない。横やりを入れてでも無理やり勝つしかないだろう。


「おや、お一人で構わないのですかな?」
「魔物になった君が信じるに値するかは置いておくとして、後ろの二人をかばいながら戦うのは無理だと思ってね。私がこうして告げた以上、君の攻撃はすべて私に向けられるものと信じているよ」
「魔物になった私に、これほどまでの……。もちろん、約束いたしましょう。あなたを倒すまでは、お二人へ手出しは致しません」


 もちろんその言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。一応剣も扱える俺がシャノンさんの前に立って守る形を取った。


「では……」
「ああ、始めようか」


 死闘が、始まった。


「できればそんな姿になる前にお手合わせ願いたかったよ」
「御冗談を、もしもこの力なしであなたと手合わせする機会があったとしても、5秒と持たなかったでしょう」


 二人の間に隙はない。小回りの効く剣に切り替えたベイルだが、その力は槍を扱う時と差はない。少なくとも、俺の目に映る限り何を持っていても化け物だった。もし戦えと言われても、まず逃げることを最優先にする。
 一方目にもとまらぬ速さで放たれる剣撃を捌き切り、的確に反撃にうつるロベルトさんももはや人間業ではない。人間のころの積み重ねられた技術が、魔物の身体能力を得たことで花開いたようだ。


「シャノンさん、剣士と魔法使いが戦うときって、どんな感じになるの?」
「普通は人と戦うことはありませんので私では何とも……。ですが、これだけ人型の魔物がいるとなると考えておく必要がありそうですね……」


 ベイルにしてもロベルトさんにしても、これまで見てきたどんな戦士よりも速いし強い。これ以上の化け物に出会うことがないことを祈るばかりだが、こんな状況だ。最悪も覚悟して考えておいた方がいいだろう。


「ひとまずはこの戦いを見て思いましたが、魔法使いとしてはもう近付かれる前に対処しきるしかないでしょう」
「やっぱりそうか……」


 とはいえこんな目にもとまらぬ速さで飛び込んでくる相手だ。近寄らせないというだけでもかなり高難度だし、これに魔法をぶつけようなんて無茶苦茶もいいところだった。
 これまでのように風や土を操ったり、水や火をぶつけると言った単純な攻撃では通用しそうにない。


「一撃でダメージが望めるもので、なおかつあのスピードに当たるくらいの……」
「私はとにかく地系を生かした妨害を重ねながら……だめですね、決め手になる大技がありません」
「エクスプロージョンみたいなので全部吹っ飛ばせたらいいんだけどなあ」
「あまりに近くになると自分も危険ですしね、あの技は」


 大技になればなるほど使用できる条件は限られる。


「速さでいえば、なぜかロベリア様が使ってる雷とか操れたらいいんだけどな」


 光は最速で動くし、いくら化け物でも雷を食らえばだいたい倒せるだろう。


「ソラ様の知識でも再現することは難しいのですか?」
「あれやるのって、天候動かすくらいのことだし……あ、待てよ?」


 雷は雲の中で生じた摩擦によって起きるとか言ってた気がする。その辺の原理はわからないし頭が痛くなりそうだから深く聞かなかったが、この世界では都合がいい。なん背俺の中にいま、できそうだという気持ちが生まれた。


「雲は、水滴の集まり……霧で相手を覆い包んで、そこに思いっきり風魔法で嵐のような状況にすれば……?」




「ソラ、埒が明かない。私を巻き込んでも構わないから魔法を使え!」


 タイミング良くベイルの声が届く。正々堂々を謳っていた手前気が引けるが、ロベルトさんも同意しているようだ。こちらが話しこんでいる間に向こうも向こうで話が進んだんだろう。


「ソラ様の魔法、一度はその威力を目の当たりにしたいと思っておりました。ベイル殿の言うとおり、剣士同士ではいつまでも拮抗したまま、ベイル殿の体力が尽きるか、私の限界を迎えるまで戦わなくてはならない。双方にとってこれはあまりよろしくないでしょう」


 こちらにとって時間を取られることは不都合だが、ロベルトさんにとってもなにか都合の悪いことがあるようだ。


「なら遠慮なく、とりあえず今思いついた魔法だから、失敗してもいきなり攻撃とかはなしで」
「構いません。私は今、何よりも限界を見極めたい。最強と謳われたあのベイル殿とここまでの戦いができているのですから、次は最強の魔法使いの力で私の限界を試したい。人であったならば考えもしなかったことですが、やはり私は狂っているのでしょうな」


 ダメ元でお願いしてみたが、ロベルトさんは同意してくれた。どこまで信用するかは微妙なところだが……。
 ロベルトさん、会話が成り立つし、かなり人間の部分を引きずっていることがわかる。さすがに元の姿に戻そうなどと欲を出しはしないが、動物と心を通わせているような、奇妙な気持ちになる。いや、むしろもう、正気になっているのかもしれない……。


「では、少し距離を取りましょう」


 ゆっくりと背を向けて離れていくロベルトさんを、霧で包む。準備はできた。手にエネルギーを集める。


「ひと思いに……」


 ロベルトさんのこの言葉……。やっぱりロベルトさんは……?
 だが、完全に元に戻す方法もない。ここで確実に仕留めることが、お互いのためだ。


「テンペスト!」


 嵐をイメージした。ロベルトさんを囲むだけの小さな空間に、嵐を巻き起こす。水滴は大きくなり、呼吸を止めるほどの勢いで相手に突き刺さる。思惑通り、雷も発生した。霧の範囲さえこちらでコントロールすれば、その空間から外に被害を出すことが防げる。恐ろしいほどにご都合主義で、狙い通りなものになった。この世界の魔法はやっぱり、イメージしたもん勝ちだった。


 ギリギリで人の姿を保っていたロベルトさんにとどめを刺すには、十分な魔法だった。


「彼は、私と戦っている最中に正気を取り戻していたよ」
「やっぱり……」
「気に病むことはない。話すべきことは私がすでに聞いている。この結末も、彼が望んだものだ」
「ベイルがとどめを刺してもよかったんじゃないのか?」
「彼は君の師でもあったんだろう?弟子に超えられて死んでいく。何とも人間らしい欲に素直な最期を、彼は望んだんだよ」







「帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く