帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

始まった戦い

「集まったな。いよいよ実践になる。とはいえ、君たちはこれまで何度も実践を繰り返し、鍛え上げられてきた」
  
 シャノンさんが集められた兵士に呼びかけを行っている。
 ロベリア様の私兵団として育てられたのは300名だった。他にも戦力はいるが、仕事がない時期まで雇っておくのはこの人数が限界であった。
  
「他の領地の兵士団とは異なり、実際の魔物を相手に訓練を繰り返してきた。故に、諸君らは強い!」
  
 兵士の質という点でいえば、ギルディア王子のところの兵士と同じか、対魔物に関しては経験値を考えるとうちのほうが上だ。
  
「今回は国王軍の騎士団がやってくる。これまでの遠征とは異なり、見たことのない魔物と遭遇するまで戦いが続くかもしれぬ!」
  
 兵士たちに戸惑いがひろがる。
  
「だが、これまでを思い出せ!どんな相手も最初は見たことのない魔物だ!諸君らはそれらをことごとく打ち破り、ここにいる!やることはいつも通りだ。動揺するな。大きな遠征だ。ここで活躍すれば、王国中の注目を集める!」
  
 兵士たちの戸惑いが消え、代わりに強い意志が芽生える。生きて帰れるかという不安な気持から、いかにして活躍するかという前向きな勇気が芽生えた瞬間だった。
  
「何、いつもと違うことは」
  
 思いっきり悪い顔でシャノンさんがほほ笑み、ためをつくる。美人は何やっても美人だなあ。
  
「少々やりすぎても良いということだけだ!みてみろ!この大地を!一人の魔法使いがこれだけ暴れても褒められるのが遠征だ!この戦いは、諸君らの名を国内外へ轟かせる最大のチャンスだ!存分に暴れよ!」
  
 最後にオチに使われた気もしないではないが、兵士の士気は最高潮にあがった。さて、この仕事をシャノンさんに任せる代わりに、俺も仕事が与えられている。
  
「まずは先陣を切り、“新世界”ソラ=サクライが道を拓く。各々身を固めて被害を防げ。そして目に焼き付けろ!国内最高の魔法を!」
「相変わらず大げさに宣伝しすぎでしょ」
「このくらいがちょうどいいのです。さて、宣言通り思う存分暴れてください」
「はいよ」
  
 あらかじめ打ち合わせしてあった地点には準備をしてある。今回攻め込む範囲には、少し小高い崖のようになった地系も存在する。ここはシャノンさんの水魔法ですでに細工されている。
  
「エクスプロージョン!」
  
 前回の反省を生かし、爆風を前方にだけ向かわせるように、なおかつこちらに爆風が届かないような地点で、という二重の安全策をとって魔法を発動する。結果は前回同様、見渡す限りを荒野にする凄まじいものになったが。
  
「おお……」
「これが大魔法使いの魔法……」
「これ、俺たちの仕事あるのか?」
  
 口々に聞こえてくる兵士たちの声。シャノンさんの細工も功を奏し、地形を丸ごと崩し、前方の土地は鬱蒼とした森の姿をすっかり失っていた。
  
「流石ですね、ソラ様。もう私よりも出力が上がっています」
「前準備がなきゃ撃てないよ。こんな魔法」
「お気づきではないのですか?気をコントロールされるようになってから、出力もかなりあがっていますよ?」
  
 言われてみればそんな気がしてきた。気が高めるのは身体能力。気と魔力は別物。勝手にこんなことを意識していた。だが、気をコントロールし、身体能力を向上させれば、確かにその分だけ魔力の扱いも楽になっていた。
  
「そうか、俺、成長してたんだな」
「何年もかけて魔法を覚えた私が馬鹿みたいです」
  
 シャノンさんが口をとがらせ、珍しく拗ねるような表情を浮かべる。
  
「美人は何をやっても美人だなあ」
「突然何を言い出すんですかっ?!」
  
 つい口から本音が漏れていたが、さらに珍しいシャノンさんの照れ顔を見られたのでこれも良しとしよう。
  
「さあ、先陣は切った!あとは任せたぞ!」
  
 兵士たちを鼓舞するために声を出す。シャノンさんから教わった拡声魔法をさっそく使う機会が来た。兵士たちに向けたこの言葉は思わぬところから返事を受けることになる。
  
「任されたわ!」
  
 誰より早く崩れた森に踏み込んだのは、あろうことかロベリア様だった。
  
「なんでロベリア様があそこにいるんだよ?!」
  
 打ち合わせではしばらく新世界でミュリと一緒にいる予定だった。
  
「ごめん、どうしてもって言って、飛び出しちゃったんだよ」
  
 追い付いてきたミュリが謝る。まあロベリア様が行くと言ったら止められない。ミュリは責められないだろう。
  
「でも、ロベリア様ってこんなに強かったっけ?」
  
 見ると、すでに魔物とぶつかっていた。破壊された森に動揺しながらも、こちらへ向かってきた狼男を圧倒していた。
  
「流石ロベリア様だな……」
  
 素直に感心する。魔力を利用した身体能力の向上、魔法剣の使用に、ロベリア様は申し分なく成功していた。
  
「あれを教えたのはソラ様ですか?」
「一応言っておくと、先陣を切って戦うためじゃなく、護身のために教えたんだけどな……」
  
 シャノンさんの責めるような、褒めるような複雑な声音に気を配りながら返事をする。
  
「いえ、しかし、流石ですね……」
「そうだな。ロベリア様はすごい」
「いえ、私が言ったのはソラ様です」
「はい?」
「あの魔力の利用方法は、私では考えられません。いえ、この世界で育ってきた人間にとって、魔力はあくまでもマジックのために、あるいは飛び道具のために使うものでした。あのように気と同じようにあえて使おうなど、思いもしませんでした」
  
 魔法はイメージだ。ある意味、イメージさえ出来れば何でも出来そうな雰囲気さえある。俺の稚拙な科学知識があるだけでも、そのイメージの支えになる。結果、あの大魔法だ。魔法が当たり前に存在してきたシャノンさんたちに比べ、魔法に対する常識という先入観が薄い分、いろいろなことをイメージできるのは、強みになりそうだ。
 もっとも、この場合その先入観を持っているはずなのにこの短期間でそれを壊し、イメージを再構築させたロベリア様は異常だ。俺が呼ばれてから今まで、耳にすることすらない“召喚魔法”をやってのけたことも、思えばロベリア様の常識破りという強みが大いに貢献したのだろう。
  
「はあっ!」
  
 電気をまとった剣を数体の魔物にまとめてたたきつける。
  
「待て、電気?!シャノンさん、魔法って電気扱えるの?」
「水魔法を応用すれば使えると聞いたことはありますが、私は使ったことはありません」
「ロベリア様も大概めちゃくちゃだな……」
「ソラ様にだけは言われたくないと思いますけどね……」
  
 その後もシャノンさんの細かなコントロールを生かした魔法、俺の大雑把な大魔法、ロベリア様の原理のわからない雷の剣を中心に、鍛えていた兵士も存分に力を発揮し魔物の森を進んでいった。
 南部の戦況はこれでいったん落ち着いたといえるだろう。ミュリを中心とする後方支援部隊は、けが人がほとんど出ないことから暇をもてあまし、早くも魔物のいなくなった土地の開拓を行っていた。
  
「北部が気になるな」
「ここから見える範囲だと、お姉さまも優位に戦いを進めてるというところまでしか見えないわね」
「ロベリア様、もしかして視力もめちゃくちゃ上がってる?」
「これはもともとよ」
  
 俺の目に映るのは新世界の兵士が魔物を囲み、圧倒している風景。吹き飛ばされた木々をまとめ、利用できる土地として開拓を進める風景しか見えない。
  
「ルナリア様は確かに隣に陣を敷いていましたが、私では全く見えませんね」
「進行度は私たちの半分くらいね、どうする?このまま北に攻めれば挟み撃ちにできるけど」
「苦戦している様子は?」
「ないわね」
「じゃあ挟み撃ちはいいだろ。ベイルたちは見えるか?」
「さすがにそこまでは見えないけど、むしろその距離ならソラのほうがわかるんじゃないの?」
「なんで?」
「え、魔法って離れたところでも気配がわかるんでしょ?」
  
 初耳だ。試してみるか。
  
「ああ、確かになんとなくエネルギーがぶつかり合うのはわかるな」
「えっと……一応言っておきますがそんな気軽に使いこなせる技術ではないですからね」
  
 シャノンさんが呆れたような諦めたような表情をしている。
 そうか、難しい技術だったんだな。聞く前に試してよかった。誰にでも出来るくらいの気軽さを意識したからこそあっさり成功した気がする。
  
「あれ?おかしいぞ」
「どうしましたか?」
「シャノンさんも確認してほしい、ベイルたちの騎士団の進行方向、おかしくないか?」
「待ってください。その距離になるとすぐには……」
  
 いつの間にかこのマジックに関してはシャノンさんより遠くを見られるようになっていたらしい。
  
「本当ですね。北部に向けて進行、それも、戦闘中です」
「相手は?」
「わかりませんが、数がものすごく多いです」
「どういうこと?」
  
 一人見えないロベリア様を置いてけぼりにしていた。
  
「この戦い、本来なら東にしか進みようがない。うちは南が空いているけど、他の各陣営は北にも南にも味方がいるはずなんだ」
「そうね」
「その北に向けてベイルが動いている。ベイルの北は、ギルディア王子とロクサスの連合軍だ」
  
 ロクサスは前回同様、騎士 7 人を中心に 1400 の兵士を連れてきた。しかし、ギルディア王子が 1 万の兵士をすべて連れてきたことにより前回のような圧倒的戦力、という形にはならず、むしろ訓練された兵士たちはまとまって運用したほうが戦果が期待できるとしてギルディア王子の兵士団と合併する形で軍を敷くことになっている。
 場所が近いだけで完全にごちゃまぜというわけではないが、一部では連携も取りながらうまくやっていたはずだ。
  
「ベイル様が北へ向かい、そこに多数の相手がいるということは」
「普通に考えるならギルディア王子たちを破って進行してきた魔物がいる」
「もう一つの可能性は、ベイル第二王子と、ギルディア第一王子の仲違いでしょうね」
  
 沈黙が生まれた。ギルディア王子に対して不信感を募らせていたベイルだ。何かあればそういうことに発展する可能性もあっただろう。
  
「どちらにしても、行かなきゃだな」
「ソラ、あの車でシャノンを連れて行きなさい」
「ロベリア様は?」
「ここを指揮する人間も必要でしょ。お姉さまにも連絡を取るわ」
  
 兵力は当てにならない。もしギルディア王子の兵士とベイルが戦っているのであれば、その数は数千の単位だ、ここからその数を引き連れて行くには時間がかかりすぎるし、ここの戦力が足りなくなる。気持ち程度に数百人連れて行くよりも、俺とシャノンさんが早く現場に着くことが先決だろう。
  
「操縦は私が行います。ソラ様は魔法で道を切り開いてください」
「了解」


 あっという間に車を用意したシャノンさんに連れられ、新世界を離れる。ベイルとギルディア王子の間に何があったのか……。焦りが生まれる。この世界ではシャノンさんの発明した車は破格の速度だ。それでももどかしさを感じながら、そのもどかしさを魔力に込め、魔物の森を北へ向けて駆け抜けていった。

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