帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

予期せぬ実戦

 キンズリー領とギルディア領は、土魔法を駆使して敷かれた一本の街道でつながっている。二つの領地を隔てる山脈は、越えられないこともないという範囲の大きさだが、わざわざ越える意味もないのでほとんどの場合この街道が唯一の通路となる。そして、お約束というかなんというか、こういうところにはどうしても出るらしい。
  
「高そうなもん持ってんじゃねえか。残らず置いていけ。それで命は見逃してやる」
「べただな……」
  
 木々に囲まれた街道で、いつの間にか強面の屈強な男たちに囲まれていた。
 いかにも悪さをしますといった風貌の男たちだ。男しかいないなら、魔法はない。遠距離の不意打ちに注意しないでいいのは大きい。
  
「おっと、この人数を相手に勝てると思うな。命より大事なものなんざねえだろう?」
「よくこんな、王家のお膝元で山賊なんかできるな」
「口のきき方に気をつけろ。王家がなんだ。俺たちの中には元兵士もいる、お前がどんな使い手だったとしても、5人を超える相手に囲まれたら無事じゃ済まねえだろう?」
「はぁ……」
「一人でこんなところにのこのこ出てきたことを後悔するんだな」
  
 相手が動き出すより先に動く。背後に敵がいると厄介だ。風魔法を全力で放ち、後ろにいたと思われる10人近くの男たちを横凪に吹き飛ばす。
  
「てめえ!なにしやがった!?」
「上等だぁ!やっちまえ!」
  
 剣を抜き襲いかかってくる相手は20人程度、だが、連携も取れず数だけ揃えたところで、ギルディア様のところにいた兵士3人の力にも及ばない。小規模の爆発や火の魔法で牽制しながら、剣で応戦する。基本的には剣を使って身を守りながら、水の塊を作り、風魔法で相手にぶつけていく。気絶する程度に調整しているが、無事かどうかはわからない。出来れば殺したくないが、自分の命のほうが大切だ。
  
「なんなんだこいつ …… !なんで男のくせに魔法なんざ使いやがる!?」
「気も扱ってやがる?!どうなってんだ」
「くそ!引け!こいつは無理だ、手に負えねえ!」
  
 逃げることにも慣れているらしく、合図とともに蜘蛛の子を散らすように数を減らした。が、それを逃してやるほどお人よしではない。
  
「がっ……」
  
 同時に複数をコントロールできるようになった水球を、逃げる山賊たちに丁寧にぶつけていく。そして、リーダーと思われる人間を土魔法で拘束した。
  
「くっ……殺せ」
「その台詞は美少女騎士に生まれ変わってから言ってくれ …… 」
「くそ …… つくづくわけわかんねえやつだ!男が魔法を使える! 気の扱いもそこらの兵士とは段違い! よくよく考えりゃその剣も一人の人間が持つにはいきすぎた代物だ!お前いったい何なんだ!」
「 “ 新世界 ” のソラ、で通ってるらしいんだけど、伝わるのか?」
「な……お前が……」
「伝わるのか、すごいな。さて、聞きたいことがある。お前がリーダーで間違いないか?」
「ああそうだよ、なんだ、国へ突き出すか?大した金にはならねえぞ」
「賞金首かなんかなのか?」
「知らねえよ。だがこの国は犯罪者を突き出せば相応の報酬をもらえる。そのくらいは知ってんだろう? “ 新世界 ” さんよぉ」
「いや、知らんかった …… 教えてくれてありがとう」
「お、おう……なんだ調子狂うやつだな……」
  
 さて、この山賊たち、どうするべきか。
 狙われたのが俺だから良かったものの、このまま野放しにするのもどうかと思うが……。
  
「扱いに困っているなら引き取ってもかまわない。もちろん報酬は出そう」
「誰だっ?!」
  
 突然真後ろから声が届く。兵士たちとの訓練でそれなりに人の気配なんかがわかるようになったはずなのに、全く気付くことが出来なかった。
 馬と言うには大きすぎる動物に乗り、全身を黒を基調とした鎧で覆っている。顔すら良くわからない。乗っている動物ももしかしたら魔物かもしれない……。武器もこの世界では始めてみる槍を持っていて、どう対応すべきかわからない。この状況から戦うのは得策とは言えなかった。
  
「すまない、驚かせるつもりはなかったが……。その男、私が引き受けても構わない。ソラ殿の領地に連れていくには、あまりに遠すぎるだろう?」
「俺のこと、知ってるのか……」
「国中に名を轟かせる有名人だ。一目でわかる。わからないのはよほどの間抜けだ。そこの彼のようにね」
「けっ …… 」
  
 山賊はおもしろくなさそうにしている。一方の男は、敵意こそ感じないものの得体が知れなすぎた。
  
「お前の目的や正体も分からず、はいそうですかとはいえない」
「おっと、そうだな……。だが、ここで正体を明かすのも面白くない」
「何だそれ……」
「どうだい?一つ勝負をしないか?」
「勝負?」
「単純な話だ。君が私に勝てば望み通り正体を明かそう。だが、私が勝った時は何も言わずに引き渡してくれ。もちろんその場合も報酬は支払おう」
「なんであんたと勝負なんかしないといけないんだ」
「ふむ……ではこう言い変えよう。力づくでその男を引き渡してもらおうか」
  
 言うが早いか、一閃、さっきまで俺がいた地面を槍がえぐっていた。
  
「エクスプロージョン!」
  
 乗っていた馬のような動物をまず仕留める。狼男を三人は同時に吹き飛ばせる威力を込めて魔法を放った。
  
「おっと、これでも大切な相棒だ、やらせるわけにはいかないね」
  
 見えないはずの魔法の準備段階、水素を集めた区画を、槍が五月雨突きで打ち払う。
  
「何を……」
「魔術を扱う魔物と戦い続けてきた国にいて、魔法に対策がなされていないというのもおかしな話だろう?」
「くっ……」
  
 魔法が使えないなら剣で応戦するしかない。付け焼刃の剣術だが、宝剣の力に存分に甘えよう。
 剣に炎をまとわせる。
  
「面白い。すでにその剣を使いこなすか」
「残念ながら使いこなすには至ってねえよ!剣に使われてる状況だ!」
「だが君は、すでにその魔法剣としての性質を引き出している」
  
 これを見ても驚きもしない様子を見ると、俺の手札で勝てる気はしない……。
 ならせめて、今できる全力をぶつけさせてもらおう。
  
 上段に構えた剣にありったけの魔力を込める。避ける素振りも見せない相手にいら立ちと不安を抱えながらも、思い切り振りおろした。
 魔法を乗せた剣撃。この世界で俺にしかできない技だ。ただの気を使った飛ぶ斬撃と、魔法を乗せたそれの威力の違いはロベルトさんが保証してくれている。
   だが……。
  
「面白い攻撃だったね …… 」
「これでも、ダメなのか …… 」
  
 激しい音と光を放ち、およそ通り道に人がいれば無事では済まされない威力で放ったそれは、いとも容易くその男の槍にかき消されていた。
  
「君の強みはまだ剣ではないんじゃあないのかい?なのに剣に頼った。それが君の敗因だ」
  
 あまりの力量の差に呆然とした隙をつかれ、気づいたときには首元に槍の穂先をあてられていた。
  
 完敗だ。
  
「魔法を放てばわからなかった。ここら一帯を吹き飛ばすほどの魔法であれば私でも対処できるかはわからない。いやきっと君の魔法ならば、防ぎきれなかっただろう」
「そんなこと、できるか」
「そうだね。色々と問題があった。少なくともそこで転がっている男たちは皆、巻き込まれて死んだだろうね」
「だから」
「だから、だ。強くなれ、ソラ」
「……」
「私はベイルだ。詳しいことは君の仲間に聞くと良い。彼らの身柄はこちらで拘束させてもらう」
「わかった」
  
 負けは負けだ。大人しく引き下がるしかない……。悔しいが、これが俺の実力だ。
 これまで負けるはずのない魔物狩りで自分の力を過信していた。今回の兵士との訓練で少しは自分の未熟さを知ったつもりでいたが、どこかで全力で戦えば勝てるとたかをくくっていたんだ。
  
「悪いようにはしない。これは対価だ。受け取ると良い」
  
 渡されたのは魔法石だった。初めて見る色をしている。どんなマジックが込められているのかはわからない。なにも込められていない、ただの魔力の塊ってこともあるだろう。売れば確かに十分な金になる、立派な報酬だった。
 こんなものをポンと渡せる点でも、名前を言えば俺のまわりの人間がわかるという点でも、この男の正体が何となくわかってきた。
  
「あなたは、何番目の王子ですか」
「おっと……先ほどまでのように接してほしい。そのためにわざわざ剣を交わらせたのだから」
「ですが」
「もう一度勝負しても構わないんだよ?」
「わかりま……わかったよ、変わった王子だな」
「はは、よく言われるよ。本当は黙っていようと思ったが自分で気づいたなら話は別だな」
「それだけヒントを出されたらな……」
「そうか、君にとっては十分なヒントになっちゃったわけだね。質問に答えよう。第二王子、ベイル=ルズベリーだ。おたくの “ 戦闘姫 ” に先んじて、 “ 戦闘鬼 ” と呼ばれるようになっちゃった変わり者だよ」
「本当に変わり者だったのか……」
  
 第二王子、ベイル=ルズベリー。自分で喋っていたが “ 戦闘鬼 ” の異名を持つ。ここ二回の遠征で見かけていなかったのは、諸外国への挨拶めぐりがあったからだそうだ。
  
「まあ、自分がいくとついついやりすぎちゃうからねえ。君も大概やらかしたみたいだから、気が合うんじゃないかと思ってね」
「 “ 戦闘鬼 ” に気が合うかもと思われるほどやらかしたんだな、俺……」
「そりゃあ普段は何千人で戦って勝ち取る土地を、一人で根こそぎ爆発させたんだろう?」
  
 楽しそうに語る様子は、ロベリア様以上に王家の人間には見えなかった。
  
「さて、こいつらは連れて帰るよ。あと、近いうちに第二王子の名で遠征を企画する。次は参加してくれることを祈っているよ。君の領地にも行って、魔物料理も食べてみたいしね」
「わかったよ、ロベリア様にも伝えておく」
「うんうん、じゃあまた …… あ!そうだ、一番大切なことを言い忘れてた」
「ん?」
「兄には気をつけて」
「え?」
  
 一瞬だけ “ 戦闘鬼 ” の表情を覗かせ耳元でそう告げた言葉は、聞き間違いだろうか。
  
「それじゃあ、また近いうちに」
  
 最後に大きな爆弾を残して、第二王子、ベイル=ルズベリーは去っていった。
 

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