帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

第一王子

  ギルディア領は一つの国のようなつくりになっている。
 領地に入った瞬間から見える小高い丘の上に、立派な城が建っている。その周りを一周、外壁が囲む。周囲には豪華な城のような住居が立ち並び、その周りにもまた外壁が並んでいる。次の外壁は領地に入る時に通るこの壁である。一番上が王子の城だろう。その周りは貴族街のような印象だ。今いる一番外側が、商店街や住居の立ち並ぶ地域。何を祭っているのかわからないが教会のようなものも見られた。
 ギルディア領に入るには一番外の外壁にある門を通る必要がある。門番に用件を伝え、ギルディア王子の招待状を見せたらしばらく待つように言われる。言われたとおりにしていると立派な馬車がやってきた。目的地ははっきり見えているので一人でも迷うことはなかっただろうが、あれよあれよという間に城のふもとまで運ばれ、あっという間にギルディア王子との謁見に至った。
  
「よく参られた。そなたのうわさは国内でもっとも遠くにある我が領地にまで聞き及んでおる。ぜひ話を聞かせてもらいたいと思ったのだ」
  
 勢いに押されるがままに食事を取り、聞かれたことに何とか返事をする形で会話を続ける。緊張して何をしゃべったか覚えていないが、ミュリに言われていた通り小さなことで怒るような王子ではなかったらしい。酒の力も借りてだいぶこちらも慣れてきたころに、こんな提案を受けた。
  
「時に、ソラ殿は男性にして魔法使いであると聞くが、余の見立てでは、気の扱いも可能じゃろう。これまで試したことは?」
「いえ、一度もありません」
  
 魔法が使えるということは気は使えないものだと勝手に思っていたところがあった。もう一つ言えば、魔法が便利すぎて気を使おうなんて考えたこともなかった面がある。だが、使えるものなら使いたい。気を使えるなら、今の魔法とあわせて魔法剣士みたいなこともできるんじゃないか?魔法剣士……実にロマンのある響きだ。
  
「少し試しても良いかな?」
「試す……?」
「簡単じゃ。少しここで稽古をしていけば良い」
「良いんですか?そんな……」
  
 魅力的な提案だが、違和感もある。俺がロベリア様の配下であることは当然知っているはずだ。知った上で鍛える……。第一王子にとってロベリア様の陣営が多少力をつけたところでたいした影響はないということだろうか。
  
「そんなに深く考えるでない。そなたはすでに国の宝じゃ。今でこそ互いの立場があるが、いずれは手を取り合う仲間といえると、余は考えておる」
  
 こちらの考えはすっかり見透かされていた。
  
「何、こちらとしても兵たちを鍛えなおす良い機会じゃという思惑もある。魔法は使ってもかまわぬが、戦いの中で気の運用を肌で感じ取れれば、そなたにとって良い結果となると考える。もちろんけがも伴うだろう、無理とは言わぬが」
「私に気が使いこなせるかもしれないと、ギルディア王子はおっしゃるのですね」
「かもしれない、程度ではないな。必ず使いこなせると考えておる。余は戦うことには長けておらぬが、人を見る目には長けておると自負しておる。ソラ殿は魔法使いとしての天性の才能が認められるのも確かじゃが、ならばかえって男なのに気が使えぬというのもおかしな話じゃろう?」
  
 自分の魔法使いとしての才能があることはここまでの異世界生活の中でさすがに自覚していた。四属性魔法を使いこなし、マジックを新たに生み出すことの異常性については、しばらく生活する中で十分にわかったのだ。
 普通の魔法使いは、王族お抱えのものであっても、せいぜい2,3種類のマジックが使える程度だ。戦闘に向いたもの、サポートに向いたもの、生活に向いたものなど、それぞれの魔法使いが分担して王家や貴族を支えるのが一般的な形だった。
 四属性属性の使い手などほとんどいないのも無理のない話だった。というかこのレベルで魔法を使いこなすシャノンさんをはじめとした大魔法使いと呼ばれる人たちは、間違いなく全員変態だ。マジックで十分便利なのに、その原理を理解し、実践しようとしている人たち、前の世界で言うならこだわりを持って自作PCを作っている人たちってところだろうか?いやそもそも魔法使いの数が少ないことを考えると、もっとマニアックな感じだろう。シャノンさんは変態だ。なんかちょっと、ぐっとくるものがあるな?
  
「可能性があるのなら、どなたかに教えを乞いたいと思います」
「ふむ。余の配下にはこういうときまず兵士の中に飛び込んでいく者が多いが、まずは理解しようという姿勢、さすがは大魔法使いの一角じゃな」
  
 ギルディア王子の配下たち、脳筋の集まりか。そしてさっきの言葉が一瞬でブーメランになって返ってきた気がするが……気にしないでおこう。
  
「であれば、我が騎士を一人つけよう。この領地におる間、その安全と生活は保障する。存分に力をつけるとよい」
「ありがとうございます」
「もっとも、訓練で多少の怪我はするじゃろう。出来る限りの治療は行うが、その点は保障の範囲外じゃ。良いかな?」
  
 強くなれる可能性にわくわくしていた俺は、二つ返事で了承する。ロベリア様とミュリのところに、少し帰りが遅れるという手紙を出してもらい、その日から修行を始めた。
  
「ソラ様、魔法を体内で爆発させるイメージです」
  
 王子に紹介された棋士は、ロベルトと言った。騎士は一応爵位になるので、この人も貴族だ。最もロベルト=カルメンの実家、カルメン家は代々気の扱いに長けた人物を輩出する名門貴族であり、実質彼は侯爵くらいの立ち位置にはなっている。
  
「俺の場合それをやると本当に爆発しそうで怖いんだけど……」
「ふむ……我々は魔法を使えませんし、大魔法使い様がそうおっしゃられるのであれば……剣を持ってみるのはいかがですか?」
「おお、いいな、剣!それっぽいな!」
「では、我ら騎士団の入門生に与えられる簡易の剣ではありますが、これをお使いください」
「おお……」
「どうですかな?」
「テンションが上がる」
「はぁ……それで、使い勝手のほうは」
「ああ、えっと、剣なんか生まれてこの方持ったことなかったから持ち方も振り方もわからないけど、この剣に魔法を乗せることはできると思う」
「なんと」
  
 聞くところによれば本来、気は体内で身体能力を向上させるのに使う。身体の中心から離れれば離れるほど活用するのは難しく、多くの兵士は体幹を鍛える程度、出来ても腕力の向上に留まるらしい。腕まで力が回れば計り知れないパワーを得るし、脚力を強化できれば移動速度が飛躍的に向上する。
 魔法とは違い、体外へ出た瞬間その力は失われる。この“気”の応用術として究極とされるものが、剣や拳に乗せて相手に放つ技らしい。
  
「一度やってみるけど」
  
 飛ぶ斬撃をイメージする。イメージトレーニングはばっちりだ。薄れつつある元の世界の漫画のワンシーンを思い出す。
 一閃。と呼べるほどかっこいいものではないが、居合のような斜め下から振り上げるように剣を振ると、少し遠くに置いた的が真っ二つに切れた。
  
「お見事……さすがは大魔法使い様……」
「これ、ただ剣を起点に魔法をはなっただけじゃないの?」
「いえ、確かに気は練られておりました。このイメージを体内で行う練習ができれば、ソラ様は剣士としても国内に名を轟かせるでしょう」
「そんな大げさな」
  
 斬撃が飛ぶだけなら魔法でいいんだ。必要ない。剣士としてはまず剣の振り方から教えてもらわないといけないし、体内で気を活用する方法もしっかり身につける必要がある。しばらくここで鍛えてもらっても、剣だけでロベルトさんに勝てるようにはならないだろう。
  
「うまくいっておるようだな」
「ギルディア様!」
  
 慌てて最敬礼の姿勢に移るロベルト。
  
「良い良い。堅くなるな。して、やはり剣士としての才もあったようだな、ソラ殿」
「ロベルトさんの教えが良かったおかげで」
「ほっほ、ならばロベルトにはあとで褒美を与える。だがその前に、ソラ殿にはこれを授けようと思うてな」
  
 王子につき従っていた従者の一人が、一振りの立派な剣を掲げる。
  
「竜を討ったとも、または竜の鱗で、爪で、牙で、角で創ったともされる。我が国の宝剣じゃ」
「そんな貴重なものを」
「今言ったとおり、由来も何もよくわからん剣じゃ。それに剣は使わねば錆びる。もっとも、使ってもその剣を錆びつかせる使い手は多くおるが、ソラ殿ならば持つにふさわしい。長らく余が所有していた宝剣を持って活躍したとなれば、余の名にも箔がつく。そういった魂胆もあるのじゃ。遠慮なく受け取るが良い」
  
 素人の俺でも手にした瞬間にさっきの剣とは違うことが分かる。軽い、なのに絶対に壊れそうにない。柄の部分の装飾も、一見意味がないように思えていたが魔法石だった。これは確かに、剣を振るだけでなく、魔法が使える人間が使うべきだ。
  
「ギルディア王子のご期待に添えるよう、精進します」
「ひとまずはここでロベルトに教わるとよい。ソラ殿の滞在を歓迎しよう」
  
 それからしばらくロベルトさんに剣の基礎を学んだ。ルズベリー王国にとって仮想的は魔物である。故に、一対一の対人を想定したような訓練は行われない。
 乱戦の中での連携を取る訓練として、何人かの兵士たちが一人の上級兵士を囲んで模擬戦を行っていた。
 魔物は身体の構造も使用する魔術も、何もかもが予想しきれない。よって複数の攻撃を一度に捌く練習をして対応力を高めているらしい。
 何人かで組んで魔法使いとして参戦したりもした。治癒魔法は存在しない。身体欠損まで回復するほどの薬草や薬があるそうだが、高価なものだ。エクスプロージョンのような大技は封印せざるを得ない。水を球状に固めて、それをぶつけることが勝利条件になった。
 連携は思っているより難しい。基本的に俺の役目はとどめとして水魔法をぶつけることだが、風魔法や土魔法で相手の動きを阻害したりといったサポートもしていた。魔法は敵味方関係なく影響を及ぼすので、最初のうちは足を引っ張るだけになっていた。
 ここにきて実感する。今までは何の苦労もなく得た力を振りかざしていただけであったと。技術や経験はこの国の兵士たちに大きく劣る。ここで気付き、同時に鍛えることができたのは幸運だった。
  
「大分、動きに慣れが出てきましたな」
  
 朝から晩まで動き続ける日々を数日続けた。今まで何も知らなかった俺の身体は、みるみる新たな技術を吸収していった。成長が実感できるのは気持ちいい。気の扱いも何となく理解できるようになり、ほんの少しだが身体能力を向上させることもできるようになった。言うまでもなくこれは魔法使いとしての戦いでも大いに生かされた。
  
「剣士としての種が根付きましたな。ここから先は経験を重ねることです。そしてその経験は、おそらくここにいるより領地に帰られた方が得られるでしょう」
  
 ロベルトさんのこの言葉で、俺の修行は終わりを告げた。
  
「大魔法に頼らずとも魔法をコントロールし、相手を翻弄する術も身につけられました。魔法使いとしては最強の近接戦闘能力を誇るようになりましたな」
  
 ここにいる間に知り合った先輩兵士たちにも褒められる。
  
「これ以上をここで習得しようとすれば、さらに長い時を要することになります。何、必要とあればいつでもお相手致しますが、いったん領地へお帰りになられるのがよろしいかと」
  
 そうか、なんだかんだ一週間近くここにいた。部活に入ったばかりの中学生のような、朝から晩まで新たなことを吸収するのが楽しくて仕方ない日々だった。まだまだ教えてもらいたいこと、実践したいことはたくさんあるが、成長した姿を第一の師匠に見せたいという気持ちも湧いて来る。
  
「何かあれば余を頼るが良い。妹を頼むぞ、ソラ殿」
  
 思いの他長い滞在になったギルディア領と別れを告げる。最後までギルディア王子は良い人だった。宝剣をはじめ、ここで得たものは今後大きな意味を持ってくるだろう。様々なものをもらった。いつか恩返しをしなければならない。
 ロベリア様自身、王位に執着はないようだったので、場合によってはこの人が王になるのはありじゃないかと思う。
 そんな思いを胸に、キンズリー領への帰路へとついた。

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