帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

少しずつ前へ

 魔物料理、といってもそんなとんでもないものを出すつもりはない。狼男みたいに二足歩行型は殺すのですら躊躇うのだ。食べようなんて発想になりようがない……。


「毎日食べてるんだからあなたたちは別に問題ないでしょう」
「そう考えると、確かにそうですが……」


 若干ひきつった顔のままだったシャノンさんだったが、食べているのは案外普通の動物と変わらないことを思い出したらしい。


「いやいやいや!待って!?普段どんな生活してるのソラたち!?」
「さすがに狼男とかは食べてないから安心してくれ」
「ここで出てくるのが狼男な時点で安心できる要素がないよ!」


 一人だけ状況に追いつけないミュリだったが、もうこれは実際に食べてもらうしかないだろう。


「おいしい……おいしいのね……」


 納得できない表情だったが、おいしかったのは確かなようなので、まあ良しとする。
 実際には動物のような魔物しか食ってない、はずだ。もはやあの料理長なら何を持っていってもおいしく調理してくれる気もするが。
 ちなみにこの世界、俺が求める調味料は大概のものがあった。塩、こしょう、しょうゆなど。マヨネーズは見ていないが、タルタルソースのようなものは確認している。ケチャップだかトマトソースだかという状態だがそういったものもある。
 塩やこしょう、果てはしょうゆまで植物から採れたものらしい。実が塩やこしょうになっている植物があるそうだ。醤油はある植物の実を絞ったものらしい。
 なので、異世界に来て懸念される食糧事情に関しては、大部分問題なく、むしろ快適な生活が送れていた。
 ロベリア様の料理長の腕がよかったのも大きいだろう。




 さて、新世界と勝手に名付けられていたこの都市の今後の方針がある程度決まると同時に、様々なことが起こった。魔物との小競り合いだったり、移民を受け入れたり、私兵団を作る準備をしたり、色々あった。中でも大きな出来事が三つある。
 一つ目、ミュリ以外の貴族がちょこちょこ挨拶に来るようになった。ロベリア様がこの新世界にいるのは周知の事実なので、ここはロベリア様に対する窓口として機能していた。ミュリの時の反省を踏まえ、基本的にはシャノンさんが対応することになっている。信用がない……。必要に応じて俺やロベリア様が呼ばれるが、俺が呼ばれることはほとんどなかった。
 キンズリー家のように今すぐに直接的な関わりを求めるようなものはなかったようだが、次回、ロベリア様が遠征に参加するときには参戦するとのことだった。


 二つ目は、次の遠征の知らせがきたことだ。発案者は第四王子のロクサスである。


「元々このために開発を進めてきたんだし、今回は遠征に参加はせずに都市がうまく機能するか確認しましょう」


 ロベリア様のこの提案に従い、この遠征には参加せずに見守った。遠征提案から実行までの期間が短すぎて、挨拶に来た貴族に声をかけられなそうなことも理由の一つだった。
 遠征そのものは大した戦果をあげてはいないように見えたが、提案者のロクサス以外に王族は参加せず、あとはいくつかの貴族と遠征に乗っかる冒険者がちらほらいるといった人数であったことを考えれば、妥当な戦果だそうだ。
 前回ゆっくり見ることができなかった男性陣の戦い方を良く観察することができた。身体能力が大きく向上しても、二足歩行型の魔物と対面すれば戦い慣れていないものは圧倒されている。魔物独特の身体の使い方や魔術に対抗するためには数を揃えて連携する必要があるようだった。
 魔法使いも基本的には一人で一匹にとどめを刺す力は持っていても、防御力がまるでない。結果的に男性陣を前衛、女性が後衛として、敵を引き付けている間に魔力をためてマジックでとどめを刺したり、援護を行う形で戦っているようだった。
 俺とシャノンさんの場合は連れて行った人たちに壁になってもらうことはあるものの、基本的に視野に入っている魔物程度なら全部一撃で倒してしまうので、こういった戦い方を学ぶ機会はなかった。参考になる。


 ロベリア様の陣営としては今回戦闘を行わないため、都市において、宿屋で利益を上げること、魔物料理を宣伝することが大きな目的となった。


 マジックに支えられた生活なので、生活水準を決めるのは魔法使いの質と量が大事なようだった。ロクサスは何もなかった土地に物見櫓や壁まで築いて、あっとういう間にこちらから中の様子がわからないような拠点を形成していたし、貴族と直属の兵士たちはそれぞれ自分たちのところのほうが居心地がいいだろう。


「兵士は自分のところで仕事をさせるけど、領民は基本的に戦う以外の仕事は与えない。食糧とか寝泊まりする場所は与えるけどね」


 領民たちにマジックを気軽に使えるような人物はいない。結果的にかなり原始的な生活を余儀なくされるのだが、元々貴族でもなければマジックや魔法石にも縁がないものが多く、特に不満の声は上がっていなかった。


「王家や貴族は普段、生活する場所と食費は負担してるんだったよな」
「そうね」
「じゃあその食費だけこちらに回してもらう形で、宿を使ってもらうか」
「それでいいの?」
「団体割引き。オプションで食事を変えたりサービスを変える中でそれぞれ個人でも金を使ってもらえばいいんじゃないか?」
「団体割引きってことは、冒険者は違うのね」
「そっちは通常料金だな。競い合う相手もいないし、自分たちが用意するよりこっちのほうが快適だと思わせればいい」
「なんだかんだ色々考えてはいるのね」
「考えるだけだけどな」


 考えるだけは得意だ。色々なものを調べたり本を読んだりすることは好きだったが、実践するような状況には恵まれたことはない。見よう見まねにも劣るこんな知恵だが、まあ細かい部分は丸投げになるし、言うだけならただだ。
 だが、俺が活躍できた機会はこれが最後になった。丸投げになった理由もそうだが、シャノンさんをはじめロベリア様の従者の皆さんが優秀すぎてやることがなくなったのだ。


「魔族料理を広めるなら、最初は試食として配るような形になるかねえ」
「宿屋に泊った客にはサービスでつまみになるようなものを提供するように指示しています。もちろん、同時にお酒をおすすめしています」


 このように気付いたときにはすでに話が進んでいることが多かった。さすがシャノンさんである。これ以降も簡単な提案は行うもののほとんどまかせっきりになっていた。
 シャノンさんたちがいくら優秀とはいえ、俺もやれることはやろうと思っていたんだが、そうもいかなったのには深い理由がある。どの分野でも特にこれといった手伝いも出来ず本当に一人だけ暇そうにすることになったわけだが、深い深い理由があるんだ。決して役に立たないからではない。ない……はずだ。


「あなたはどうせそのうちいなくなるのだから、なるべく自分がいなくてもなんとかなるようにしておきなさい」
「俺がいてもいなくても変わるほど役に立てるとは思えないんだけど」
「それでも、よ。あなたは何もせずに暇にしているくらいがいいと思っていなさい」
「そうか……」


 こういった経緯があり、暇を持て余した結果一人で戦闘が行われる地域まで行ってきて、様子を見ることができたわけだ。
 俺は提案するだけしてからほとんどかかわっていない都市の運営は、かなりうまくいったらしい。複雑な心境である。


「各地の貴族が連れてきた領民や冒険者を主な対象に宿を提供しました」
「食事に関しては貴族たちにまで回して宣伝しておいたよ。さすがにロクサス王子のところは無理だったけどね」


 シャノンさんと、いつの間にかすっかりロベリア様陣営で仕事をしているミュリから報告をうける。そんなこんなで遠征はつつがなく進行し、都市運営においても今後に期待の持てる結果になったわけだ。
 俺としては次はぜひ遠征に参加させてほしいと思っていた。今回ろくに働けなかった分までしっかり働こう。そう心に決めた。


 そして最後、三つ目の大きな動きがあった。


「ソラ様、第一王子ギルディア=ルズベリー様より、招待状が届いております」
「ロベリア様じゃなく、俺に?」
「はい。ぜひ城に招き、国にとって大きな宝となる存在の誕生を祝福したいとのことです」


 ギルディア=ルズベリー第一王子。ロベリア様に確認したところ、


「そう、呼ばれたの。さすがに断るのもややこしい相手よ。悪いけど相手してきて」
「ロベリア様は来ないのか」
「私は呼ばれていないでしょう?シャノンくらいなら問題はないけど、私はそう簡単に動くわけにもいかないのよ」
「そうか……。せめてどういう人物かだけでも教えておいて欲しいんだけど」
「そうね……。まあ、行けば分かるわ」


 若干うんざりした表情のロベリア様を見て不安を感じたものの、俺は第一王子の領地へ行くことになった。



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