帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る
キンズリー家
前回の遠征のとき、ルナリア様直々に呼ばれた功労者であるミュリ=キンズリー。貴族って話だったし急ごしらえの応接室に慌てて案内した。もちろんただ引っ越しの挨拶をしにきたのではない。
「ソラ様が進めている都市化の計画に、我々キンズリー家を加えていただきたいのです」
身に覚えはないが、いつの間にか俺の領地は都市化を目論んで開発を進めていることになっていた。
王都の南部を領地とするキンズリー家がそう認識しているということは、国王を始めその他の王子や王女もその認識があると見て間違いないだろう。面倒なことになってるな……。
「この領地はあなたのものよ、あなたの好きなようにしなさい」
ちなみにこの話は面倒なことになれば最も被害を被るロベリア様に後で相談したが、こんな様子だった。もっとも、
「どうせあなたが帰った後は私が管理するのだから、その時にしっかりと人が生活できる環境になっていればそれでいいわ」
と、いつもの調子で付け加えられたが。
「突然現れた大魔法使いが新たに都市を構築しつつあると聞いて、国内外から注目が集まっています。キンズリー家は商人の出、商機を逃しては名が廃れます」
貴族の箱入り娘というより街の看板娘といった印象なのは、キンズリー家の出自にまつわるものか、本人の気質によるものか……。とにかくミュリの印象は貴族というよりただの素朴で可愛らしい少女でしかなかった。ロベリア様はアイドル、シャノンさんが憧れの先輩だとすれば、ミュリは隣の席のクラスメイトといったところだろうか。
「うちの領土は国内有数の貴族が動くほどの価値があると認められたってことかな?」
「いえ、申し訳ありません……大げさな言い方をいましたが、半分は私の独断での行動です」
「もしかして、おてんば娘?」
「キンズリー家はじまって以来の“キサイ”と評判ですよ?」
茶目っけたっぷりのその様子はやっぱり俺の持つ貴族の印象からはだいぶ離れていた。
「鬼才でも奇才でも、変わり者って言うのはよく伝わったよ……」
「お互いの理解が深まったところで提案なのですが、結婚しませんか?」
「……は?」
嵐のような来訪者とその要件によって、わが城は緊急会議を開催せざるを得なくなった。
「というわけで、結婚を申し込まれている」
「だめよ」
「だめです」
全会一致で反対された。モテモテだ。
とりあえず要件としては、
キンズリー家としてこの都市に関わりたい。幸いにして隣の領地を前回の遠征で獲得していたので声をかけた、いうことだった。
結婚については詳しく聞いていないが、政略結婚的なものなんだろう。大事な一人娘をこんな突然現れたわけのわからないものに差し出すのはどうなんだと思うが……。いやその辺はもう独断なのか。だとしたら余計厄介だ。
とりあえずそのあとも色々話はしたが、提案については返事をせず、一度帰ってもらった。というか、途中でシャノンさんが話に入ってくれて、一度ロベリア様と相談するという形にまとめてくれたわけだ。
「あなたは元の世界に帰るのだから、こちらで家庭を持つなんてダメに決まってるでしょう」
モテモテなんてことはなく現実はこういう状況である。
「ルズベリー王国では王族以外は一夫多妻を認められておりません。貴重なカードを突然現れた商人の娘に切る必要はないかと」
どうもシャノンさんはキンズリー家か、ミュリそのものにか、良くない印象を抱いたらしく、結構辛辣だ。そして俺の考えに反して、ミュリよりも俺のほうが貴重なカードであるという判断だった。
「とはいえこういうのって断るのもややこしいんじゃないの?」
「あなたは結婚したいの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「なら早めに断りをいれるべきです。聞いた様子ではキンズリー家の判断ではなくあの娘の独断でしょうし、今ならさほど問題にもなりません」
「なるほどなあ……」
あからさまは政略結婚の提案とはいえ、可愛い女の子に求められたことなどなかった俺からすればそう簡単に割り切れる話でもないが、冷静な二人からここまで全力で止められているということは断るべき事案なんだろう……。
「わかった、とりあえずミュリには言っておくよ」
「ミュリ……」
「ん?」
「いえ、一度の会話でそれほどの仲になったのかと」
「あぁ、なんかあの子、貴族って感じしないしね」
「それは同意しますが……」
何やら納得できない表情のシャノンさんだが、まあ置いておこう。
「結婚はともかく、この地域に安定して人を住まわせていくならキンズリー家のラインから商人を呼び寄せるのはいい案だと思うんだ」
「それはそうね、キンズリーの実家からここまでの街道が通れば、私も楽になるし」
「元々は遠征で来た人たちから小金を巻き上げようって考えだったのに、随分話が大きくなっちゃったなあ……」
「一番率先して都市化を進めてきたあなたがいまさら何を……」
まあやっちゃったものはもう仕方ないし、開き直ってできるところまで開発していこう。そのためにはキンズリー家の、ミュリの協力が必要だ。
「とりあえず結婚は断るけど協力体制は築いていく、でいいかな?」
「まあここはあなたの領地だし、好きにしたらいいわ。何かあれば私が責任をとる。私が責任を取りきれない範囲にならないようにだけ、気をつけなさい。そのあたりのことはシャノン、任せるわ」
「はい……。ソラ様、くれぐれも慎重に行動なさってください」
「そんなに危なっかしいかなあ?」
「止められなかったら勢いに押されて結婚してたかもしれないでしょ、あなた」
「そんなことは……」
「私が止めに入る段階ですでに8割方話が進んでいましたからね……断りを入れるにも、今後の話をするにも、次は私が最初から間に入ります」
こうしてシャノンさんという保護者を伴って、第二回のミュリとの会合が行われることになった。
「ソラ様は魔法伯として独立し、その実力も名も国内全土に轟く有力な人物です。それと同時にロベリア様の第一の協力者であり、そう簡単にはご自身の立場を変えることはできません」
シャノンさんが大げさな紹介とともに俺に代わって結婚の申し出を断ってくれている。俺が自分で話すといったんだが、信用がないらしく譲ってくれなかった。悲しい……。
「もちろん難しい立場であることは承知の上ですので、そう簡単に落ちてくれるとは思っていません。これからは良き協力者として隙あらばその座を狙って行けばいいわけですしね」
ケロッとした様子でこんなことを言うミュリも、なかなかのものだった。ここまであからさまに求められると、どう反応していいか困る。もちろん、俺自身ではなくその背後のロベリア様やシャノンさんのことを考えての発言だろうが……。
「ソラ様との協力関係にあるということは常に私の目があるということも、お忘れなく……」
ミュリとシャノンさんの間に不毛で意味のない火花が飛び散っていた。もう少し活躍して、政略結婚とか関係なく本気で取り合ってくれるような男になろう……。この状況は虚しいだけだからな。
さて、協力体制をとって決定したことは、
1、街道を整備し、キンズリー家からこの街までの輸送経路を確保すること
2、キンズリー家を通して生活に必要な商品が街に流通するよう都合をつけること
1についてはこの工事費をキンズリー家が負担してくれるので、現在行われている宿やそれぞれの家の建設に加えた新たなインフラ事業が生まれることになった。
2についてはどちらかといえばキンズリー家として商売の許可を得に来たという形だった。生活に必要な商品が安定して供給されることはありがたい。それに対してこちらは、森の警備をミュリが管理するキンズリー領にまで広げることで協力関係を築いた。
「よろしくね、ソラ」
「警備といっても俺たちがたまに見回りというか探索をしているだけだからな。呼ばれれば行くけど、それまで持ちこたえられる程度の人間しか守れないぞ」
「大丈夫だよ。そもそもこんな森のすぐそばで商売しようっていう商人たちだもん。それなりに心得てるよ」
どう考えてもうちが出すものが少ないのは、キンズリー家から投資をもらったくらいの考え方になるだろう。
何はともあれ俺は、領地における貴族の協力と、初めてフランクに話してくれる友人を手に入れた。
「ソラ様が進めている都市化の計画に、我々キンズリー家を加えていただきたいのです」
身に覚えはないが、いつの間にか俺の領地は都市化を目論んで開発を進めていることになっていた。
王都の南部を領地とするキンズリー家がそう認識しているということは、国王を始めその他の王子や王女もその認識があると見て間違いないだろう。面倒なことになってるな……。
「この領地はあなたのものよ、あなたの好きなようにしなさい」
ちなみにこの話は面倒なことになれば最も被害を被るロベリア様に後で相談したが、こんな様子だった。もっとも、
「どうせあなたが帰った後は私が管理するのだから、その時にしっかりと人が生活できる環境になっていればそれでいいわ」
と、いつもの調子で付け加えられたが。
「突然現れた大魔法使いが新たに都市を構築しつつあると聞いて、国内外から注目が集まっています。キンズリー家は商人の出、商機を逃しては名が廃れます」
貴族の箱入り娘というより街の看板娘といった印象なのは、キンズリー家の出自にまつわるものか、本人の気質によるものか……。とにかくミュリの印象は貴族というよりただの素朴で可愛らしい少女でしかなかった。ロベリア様はアイドル、シャノンさんが憧れの先輩だとすれば、ミュリは隣の席のクラスメイトといったところだろうか。
「うちの領土は国内有数の貴族が動くほどの価値があると認められたってことかな?」
「いえ、申し訳ありません……大げさな言い方をいましたが、半分は私の独断での行動です」
「もしかして、おてんば娘?」
「キンズリー家はじまって以来の“キサイ”と評判ですよ?」
茶目っけたっぷりのその様子はやっぱり俺の持つ貴族の印象からはだいぶ離れていた。
「鬼才でも奇才でも、変わり者って言うのはよく伝わったよ……」
「お互いの理解が深まったところで提案なのですが、結婚しませんか?」
「……は?」
嵐のような来訪者とその要件によって、わが城は緊急会議を開催せざるを得なくなった。
「というわけで、結婚を申し込まれている」
「だめよ」
「だめです」
全会一致で反対された。モテモテだ。
とりあえず要件としては、
キンズリー家としてこの都市に関わりたい。幸いにして隣の領地を前回の遠征で獲得していたので声をかけた、いうことだった。
結婚については詳しく聞いていないが、政略結婚的なものなんだろう。大事な一人娘をこんな突然現れたわけのわからないものに差し出すのはどうなんだと思うが……。いやその辺はもう独断なのか。だとしたら余計厄介だ。
とりあえずそのあとも色々話はしたが、提案については返事をせず、一度帰ってもらった。というか、途中でシャノンさんが話に入ってくれて、一度ロベリア様と相談するという形にまとめてくれたわけだ。
「あなたは元の世界に帰るのだから、こちらで家庭を持つなんてダメに決まってるでしょう」
モテモテなんてことはなく現実はこういう状況である。
「ルズベリー王国では王族以外は一夫多妻を認められておりません。貴重なカードを突然現れた商人の娘に切る必要はないかと」
どうもシャノンさんはキンズリー家か、ミュリそのものにか、良くない印象を抱いたらしく、結構辛辣だ。そして俺の考えに反して、ミュリよりも俺のほうが貴重なカードであるという判断だった。
「とはいえこういうのって断るのもややこしいんじゃないの?」
「あなたは結婚したいの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「なら早めに断りをいれるべきです。聞いた様子ではキンズリー家の判断ではなくあの娘の独断でしょうし、今ならさほど問題にもなりません」
「なるほどなあ……」
あからさまは政略結婚の提案とはいえ、可愛い女の子に求められたことなどなかった俺からすればそう簡単に割り切れる話でもないが、冷静な二人からここまで全力で止められているということは断るべき事案なんだろう……。
「わかった、とりあえずミュリには言っておくよ」
「ミュリ……」
「ん?」
「いえ、一度の会話でそれほどの仲になったのかと」
「あぁ、なんかあの子、貴族って感じしないしね」
「それは同意しますが……」
何やら納得できない表情のシャノンさんだが、まあ置いておこう。
「結婚はともかく、この地域に安定して人を住まわせていくならキンズリー家のラインから商人を呼び寄せるのはいい案だと思うんだ」
「それはそうね、キンズリーの実家からここまでの街道が通れば、私も楽になるし」
「元々は遠征で来た人たちから小金を巻き上げようって考えだったのに、随分話が大きくなっちゃったなあ……」
「一番率先して都市化を進めてきたあなたがいまさら何を……」
まあやっちゃったものはもう仕方ないし、開き直ってできるところまで開発していこう。そのためにはキンズリー家の、ミュリの協力が必要だ。
「とりあえず結婚は断るけど協力体制は築いていく、でいいかな?」
「まあここはあなたの領地だし、好きにしたらいいわ。何かあれば私が責任をとる。私が責任を取りきれない範囲にならないようにだけ、気をつけなさい。そのあたりのことはシャノン、任せるわ」
「はい……。ソラ様、くれぐれも慎重に行動なさってください」
「そんなに危なっかしいかなあ?」
「止められなかったら勢いに押されて結婚してたかもしれないでしょ、あなた」
「そんなことは……」
「私が止めに入る段階ですでに8割方話が進んでいましたからね……断りを入れるにも、今後の話をするにも、次は私が最初から間に入ります」
こうしてシャノンさんという保護者を伴って、第二回のミュリとの会合が行われることになった。
「ソラ様は魔法伯として独立し、その実力も名も国内全土に轟く有力な人物です。それと同時にロベリア様の第一の協力者であり、そう簡単にはご自身の立場を変えることはできません」
シャノンさんが大げさな紹介とともに俺に代わって結婚の申し出を断ってくれている。俺が自分で話すといったんだが、信用がないらしく譲ってくれなかった。悲しい……。
「もちろん難しい立場であることは承知の上ですので、そう簡単に落ちてくれるとは思っていません。これからは良き協力者として隙あらばその座を狙って行けばいいわけですしね」
ケロッとした様子でこんなことを言うミュリも、なかなかのものだった。ここまであからさまに求められると、どう反応していいか困る。もちろん、俺自身ではなくその背後のロベリア様やシャノンさんのことを考えての発言だろうが……。
「ソラ様との協力関係にあるということは常に私の目があるということも、お忘れなく……」
ミュリとシャノンさんの間に不毛で意味のない火花が飛び散っていた。もう少し活躍して、政略結婚とか関係なく本気で取り合ってくれるような男になろう……。この状況は虚しいだけだからな。
さて、協力体制をとって決定したことは、
1、街道を整備し、キンズリー家からこの街までの輸送経路を確保すること
2、キンズリー家を通して生活に必要な商品が街に流通するよう都合をつけること
1についてはこの工事費をキンズリー家が負担してくれるので、現在行われている宿やそれぞれの家の建設に加えた新たなインフラ事業が生まれることになった。
2についてはどちらかといえばキンズリー家として商売の許可を得に来たという形だった。生活に必要な商品が安定して供給されることはありがたい。それに対してこちらは、森の警備をミュリが管理するキンズリー領にまで広げることで協力関係を築いた。
「よろしくね、ソラ」
「警備といっても俺たちがたまに見回りというか探索をしているだけだからな。呼ばれれば行くけど、それまで持ちこたえられる程度の人間しか守れないぞ」
「大丈夫だよ。そもそもこんな森のすぐそばで商売しようっていう商人たちだもん。それなりに心得てるよ」
どう考えてもうちが出すものが少ないのは、キンズリー家から投資をもらったくらいの考え方になるだろう。
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