帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

魔法の対価

「今回の遠征、間違いなく最も大きな武功を挙げたのは貴方です。何を望みますか?」


 10数人は入れる広さとはいえ、簡易のテントの中、それでも神々しいオーラを放ちながらルナリア=ルズベリー王女に問い掛けられた。


 爆発の後は戦う相手は消え去り、戦後処理といった形になった。吹き飛ばされた木々や魔物が転がる荒地をなんとか見られる状態に整えていく作業だ。
 ここにきてようやくそれぞれの連れてきた魔法使いたちが活躍した。木々が生い茂る森を荒地にしてしまったことに対して何か言われるのではとビクビクしていたが、むしろ人の住める領土にするには、魔物の森に生えていた植物は一度処分する必要があるらしく、逆に感謝された。
 というわけでそちらは何も問題なく、遠征の責任者であるルナリア様直々に今回の戦果に対し、求める報酬を聞かれているという状況である。


「今回の戦果を挙げたあの魔法、使用するにあたってはシャノン=ルーズワールさんの協力が必要不可欠です。よって、国の宝であるのは承知の上ですが、我々の戦力に迎えさせていただきたい」
「なるほど、わかりました。ですがこれについては一度本国に戻り、確認をする必要がありますね」
「はい」


 打ち合わせ通りの口上を述べ、とっとと下がる姿勢を見せる。なんせルナリア様、ロベリア様の姉なわけだし、遠目には姿を確認していたものの、近くに来ると想像以上に美人すぎて緊張するのだ。
 状況が状況だけにそれでなくても緊張しているのに、10代半ばを過ぎたあたりと思われるロベリア様に対して、すでに女の色気まで兼ね備えている女神のような存在感を前にすると色々ともうそれどころではなくなっていた。


「お待ちなさい」
「うぇ……」


 仮説のテントのような建物の中で、ルナリア様の親衛隊以外はいない。もっと全員を集めた場で話をするのかと思っていたが、とりあえずそれは後回しにして先に目立った功績を挙げたものを取り立てていってるらしい。
 よってやたら距離が近いのだ。城なら玉座まである程度の距離があるが、今はそれがない。


「なぜ嫌そうな顔をするのですか?少し傷ついてしまいますね」


 先ほどまでのどこか神々しかったオーラをしまい、歳上のお姉さんのようないたずらっぽい顔をして更に距離を詰めて来る。
 めちゃくちゃ綺麗なお姉さんにこんなこと言われるのは嬉しいんだが、立場とか周りの目とかを考えるとめちゃくちゃやりづらい。なんせ今も親衛隊の皆さんの視線が非常に痛い。


「えーと、王家の方々をお相手するような機会がないもので、緊張してまして……」
「あら、ロベリアとは仲良さそうにみえたのに?」
「ロベリア様は別というか……」
「妬けちゃいますね?」
「からかわないでください」


 そもそもロベリア様は普段、敬語すら使っていないわけだから、仲がいいとかそういう問題じゃない気がする。王族だということも半分忘れかけていた。
 まして最近はずっとシャノンさんと特訓の日々だったせいであまり話してなかったわけだし……。いやおかしいな、あくまで俺の中でメインヒロインはロベリア様なんだけどなぁ?


「それはそうと、今回の活躍を聞いて不安に思ってることがあるのですが」
「不安?」
「ロベリアは王位の継承戦に対して、あまり積極的ではないと考えていたんです。だから今回の遠征である程度の戦果を挙げて、私のところへ来るように思っていたのですが」


 その通りである。


「ここまでの騎士を用意し、また国を支える大魔法使いであるシャノンまで傘下に加えようとしてるところを見ると、どうも私の思惑とは違う方向に動いているみたいですね」


 あれ?思わぬ方向に事態が転がっていった。


「ということでロベリアに伝言をお願いしたいのですが、よろしいですか?」
「それは構いませんが」
「共に国を良くしていきましょう。私はいつでもあなたの味方のつもりです、と、伝えてもらえますか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます」
「ですが、ロベリア様は」
「わかっています」


 これは普通わかっていない時のパターンだが、ルナリア様は有無を言わせずに言葉を繋げた。


「ロベリアが本来私の元へ来る予定だったことは知っています。変にこだわらず、何も考えずに来てくれればそれだけでも歓迎したのだけど……あの子の性格上難しかったことも理解はしているんです」


 ロベリア様のことをよく理解し、慈しむように言葉を紡いでいく。


「今回の戦果は、手土産にするには大き過ぎました。私はまだ兄や姉達の勢力を押さえる力はない。協力関係にある相手も圧倒的に少ない。そんな中、もし今すぐにロベリアがあなた達を連れて私の勢力に加われば、抑えきれないほどに目をつけられてしまいます」
「そんなに直接的な手段に訴えかけて来る相手がいるんですか?」
「お恥ずかしながら……。王家に限らず貴族もこの争いに参加していますので、抑えきれるというより、把握しきれていないのが実情です」
「なるほど……」


 王位継承戦は趣旨に反して思っているより泥沼化しているようだった……。


「あの伝言はそのまま伝えればいいのですね?」
「お願いします」


 まあ、ロベリア様とルナリア様の間には、思った以上に深い繋がりがある。このことがわかっただけでも良しとしよう。


 明らかに今後敵対していく勢力としては、第四王子、ロクサスがあがるだろう。俺の魔法に活躍の場を奪われたことで、我々の仕事はもうないだろうと早々に引き上げていっている。
 素晴らしい魔法だったと声はかけられたが、元々の高圧的な態度に加え、抑えきれない負の感情を隠しもせずにぶつけてきた。今後なんらかの形で敵対することは間違いないだろう……。


「この話を本国に持ち帰れば、あなた達は国中の注目を集める存在になります。いい面ではあなたに取り入ろうと、味方する貴族も出て来るでしょう。悪い方は言うまでもないでしょう?気をつけてください……ロベリアを、頼みます」


 最後に忠告と、重要な任務を受け、ルナリア様との会話は終わった。俺の手柄はロベリア様のものになるが、ロベリア様が直接ここに来て話をすることはないようだった。その理由もまあ、今の会話の内容が少なくはない影響を与えているだろう。


 今回直接ルナリア様に呼ばれたのは俺とシャノンさん、そしてもう一人、キンズリー家の一人娘、ミュリ=キンズリーという人物だった。
 キンズリー家は城下の南を治める古い貴族である。城下の南は商業の街として栄え、キンズリー家も代々大商人として街の発展を支えて来た。
 ミュリは非常に珍しい治癒魔法の使い手である。これはマジックというよりもはや魔術に近かった。
 治癒を扱える魔法使いは国内ではミュリしかおらず、家から持って来た大量の治療薬とともに怪我人を助け続け、今回の戦場におけるナイチンゲールのような活躍をしたようだ。
 普段の遠征では死人こそ出ないものの、骨折程度の怪我人は何人も出るらしい。今回は俺の魔法のせいであっという間に終わったとはいえ、怪我人が0というのはミュリの活躍が大きかったようだ。
 爆風は味方のほうへ行かないようコントロールしたつもりだが、シャノンさんの盾の魔法を持ってしても防ぎきれなかった流れ弾に被弾した負傷者もいたらしく、無関係とはいえない状況だった。後でお礼は言っておこう。


 さて、一通りやることを終え、ようやくロベリア様との会話ができる


「よくやったわね」
「やり過ぎたみたいだったけどな」
「まあ、それは仕方ないわ。お姉様はなんて?」
「共に国を良くしていきましょう。私はいつでもあなたの味方のつもりです」


 一字一句違えず伝える。この言葉に何らかの意味があるのかはわからないが、とにかくこれで任務完了だ。


「そう……。とにかくこれだけ目立ってしまえば当初の予定は変更せざるを得ないわね」
「どうするんだ?」
「まず貴方に領土を持つ権利を与えるわ。今回は私の騎士として参加したけれど、あなたには貴族として独立してもらう」
「そんなこと出来るのか」
「王家には爵位を与える権利があるのよ。あなたは男だけど、魔法使いとして国への貢献が認められるものに送られる爵位でいいわね?」
「わからんから何でもいいけど」
「相変わらず適当ね……まあいいけど。あなたに魔法伯の爵位を授けるわ。地位としては辺境伯と同じだと思っておいて」
「辺境伯がわからんけどとりあえずこれで土地を持って独立したんだな?土地ってどこ?」
「今回あなたが爆発させた土地の半分をもらってる。それを好きに使いなさい」
「雑だな」
「残りの半分はお姉様や他に戦果を挙げた貴族に回るけど、ほとんどの場合森に隣接している土地は国有地として放置されるわね」
「そこに住めと?」
「国を代表する大魔法使いが二人もいるのだから、自分たちの住みやすいように自分の領地に建造物くらい建てていったらいいじゃない」
「国を代表する大魔法使いが二人?」
「シャノンはあなたのところにいくんでしょう?」
「いやシャノンさんが国を代表する大魔法使いなのはわかるけど、もう一人って俺か?」
「今更何を……あんな大規模な魔法が使える人物はシャノン以外にそういないわ」
「あれはでもなぁ?」
「なによ」


 シャノンさんをはじめ色んな人に大絶賛された大魔法、エクスプロージョンだが、納得してない部分がいくつかあった。
 中学生が習う理科程度の知識しかない俺だし、ましてや見えない原子やら分子を都合よく扱えた点、あんなに大規模になった点、色々な部分でおかしい気がするんだ。知らないところで不思議な力が働いているような。なんというか、御都合主義が過ぎるような?
 とはいえこれを説明したところで意味もわからないだろうし、むしろ魔法はこんなもん、なんでも都合よく便利に使える、と思い込んでおいた方が良さそうだ。イメージや暗示は魔法の成否に大きく影響しそうだしな。


「まあいいや、シャノンさんは俺のところじゃなく、そのまんまロベリア様の城でいいんじゃないの?」
「私の城に1人でいさせても仕方ないでしょ?」
「なんで1人?」
「どうせ私たちが国のために貢献できることなんて、森の開拓くらいしかないでしょ?というより私は考えるより戦っていたいし、それならわざわざ森から離れたところに住む必要もないでしょう?」
「え、ロベリア様がうちに住むってことか!?」
「土地はあるでしょ、せいぜい立派な城を作りなさい」
「今の城はどうするんだ」
「国から領地管理ができる人間を引き抜いて置いておくわ」
「そんなんでいいのか……ロベリア様も大概人のこと言えない適当さだな…-」
「いいのよ、現に何人も自分が任命した貴族がいる王子たちは自分の城はほったらかしにして色々なところを渡り歩いているしね。流石に留守にしてる城を狙ったところで、今の王位継承戦で何か効果が得られるわけじゃないし」
「そんなもんなのか……」
「というわけだから、あなたはシャノンと一緒にしっかりした城を建設して」
「シャノンさん、土魔法使えないんだよなぁ……」


 あの人ならなんとかするんだろうけど、次のミッションは更地に立派な城を作ること、になった。敵の目の前で呑気に建築って……敵襲があるわけじゃなさそうだし一夜城にしなくていいのが救いか……。


「どうせあなたは近いうちに元の世界へ帰ることを考えると申し訳ないけれど、よろしく頼むわね」
「こんだけ活躍したのにまだ帰すの諦めてなかったのか!?」
「どれだけ活躍しようが、よ。あなたを待つ人がいる限り私は諦めないわ」
「いないって、多分!大丈夫!余計な気を使わなくていいって!」
「それにあなたがいなくなれば戦力的にお姉様に付いてもそこまで執拗な攻撃は受けないと思うのよね……」
「それは確かに……」
「利害は一致してるわね」
「一方的に害の方だけ引き受けてる気がするけどな!」
「とにかく、早いうちに帰れるといいわね」
「良くないよ」


 ロベリア様は口を開けば帰らせようとしてくるので、こんな会話もいつものことになってきていた。もう慣れっこになった定番のやり取りをしながら考える。


 俺が異世界に定着できる日は来るのだろうか……。



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