帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

すかい@小説家になろう

お荷物脱出

 聞きたかった1.2.3は話の流れで概ね理解できた。
 召喚した理由は戦力を整えるため、魔法についても軽く教わった、帰したい理由はお荷物だから、というわけだ。
 一通り話を終えた後、しばらく生活するための部屋が与えられた。案内してくれたのはさっきの黒づくめのリーダー、シャノンさんだ。


「ありがとうございます」
「いえ、何かお困りのことがございましたら、何なりとお申し付けください」


 部屋までの案内に加え、様々なことを教わった。これから生活する上で必要な、洗濯、風呂、トイレの使い方やら何やら。
 家事全般は魔法を使えるものがいればあっという間に終わるらしい。水による物理的な洗浄と、火の浄化作用を活用していた。魔法は女性しか使えないなら男は?と思っていたが、便利なものがあった。


「あらかじめ設定された魔法を、魔力を蓄えておくことで使用することができます」


 そういって見せられた宝石のようなもの。少し古い洗濯機のような箱にそれをはめ込むと、箱が動き出す。同じような原理で、ある程度俺が元の世界で過ごしてきた生活水準に近いものが守れそうだった。
 魔法についてはやはり詳しく聞く必要があると思って質問してみると、思っていたのと結構違うことがわかった。


「魔法使いの定義は魔力をコントロールすることができる、というものです。魔力をコントロールし、決まった術式を発動することはマジックと呼び、四属性魔法と区別しています」
「マジックと四属性魔法っていうのが違うのか」
「魔法は元々生活のために必要な形で用いられてきました。20年ほど前にそれらの魔法を体系的にまとめ、四属性の解明が行われました」
「それまでは違ったんだ」
「はい、ただその現象を導き出す、というのがそれまでの魔法でした。今でも魔法といえばこれらを指すことはありますが、区別をつけるためにマジックと呼びます」
 マジックを使いこなせるだけでも魔法使いと呼ぶことができる。普及率は女性のうち3割程度がマジックを扱えるといったところらしい。王族や貴族はそういった教育がなされることもあり、ほとんどの女性が魔法使いであるということだった。


「ということは、習ったらだいたいできるようになるのか」
「魔力を有していればほとんどの場合はそうなります」
「ロベリア様は魔力がないのか?いやそういうわけじゃなかったよな」
「ロベリア様は何らかの理由で魔力を体外へ放出できないため、魔法が使えません」


 何らかの理由……。シャノンさんに魔力を使ってもらう、みたいな形はできるみたいだし、魔力っていうのは結構融通が利きそうだな。


「マジックと四属性魔法の違いがいまいちわからないんだけど」
「四属性魔法はすべてのマジックの元となっています。マジックは高位の魔法使いが四属性魔法を駆使し、形作ったものになります。四属性魔法はそれぞれの属性を、たとえば水や風を操ることを指しますが、マジックは、例えば部屋を暖める、明かりをつける、といった現象そのものを引き起こします」
「マジックの方がややこしそうに聞こえるんだけど?」
「マジックを自ら生み出すのは非常に難しいです。今のマジックは古くから伝わるものであり、使用者は決められた手段に沿えば、魔力を流し込むだけで使うことができます」
「決められた手順?」
「先ほどの魔法石と呼ばれるものも一つです。他には魔法陣や詠唱などがあります。あらかじめ発動する魔法が指定されているので、形式さえ守り、必要な魔力を注ぎ込めば使えるのがマジックです」
「よくわからなくても使えるってこと?」
「その通りです。一方、四属性魔法はそれだけでは大したことは起こりませんが、組み合わせ次第で何をするかは使い手の自由ということになります」


 魔法陣や詠唱は昔からあるが、魔法石はそれらを応用したもののため新しいらしい。国の抱える高位の魔法使いが生成するものであり、流通はあまりしていない。シャノンさんは当たり前のように魔法石の生成に携わっているようだったので詳しく聞けたが、今更ながら俺は結構すごい人と話していることを思い知る。


「もともと魔法は生活に生かす知恵として発達してきました。浄化作用に影響する魔法と同じものが火をふくなんて、想像もしていませんでした」


 むしろ火を扱うことこそ簡単に思いついて、浄化作用に応用する方が難しそうに感じる。まあそこら辺はわからないものはしかたないか。


「これに魔力を流し込んで使っているのか」
「はい、ですが魔力をコントロールすることは女性にしかできません。ソラ様が利用されるためには、魔力を補充しておく必要があります」
「これ、勝手に光るの?」
「えっ?」


 あれ、なんかまずかったのかこれ。シャノンさんが初めて慌ててる。可愛い。普段がクールな敬語キャラなわけだが、たまにこういう犬っぽいところが見えるのがシャノンさんの魅力だ。
 ロベリア様のイメージはなんというか、中世の美術品のような、触れてはいけない美しさみたいなものがあった。一方シャノンさんも貴族らしい気品や美人な部分はロベリア様と共通していながら、どこか親しみを持てた。黒髪というのは一つの要素かもしれない。艶のある黒髪が首元で切りそろえられ、魔法石の光を反射して美しく輝く。


「ソラ様、これに何を?」
「えっと……手に取ったら光ったけど?」
「失礼します」


 おもむろに身体を弄られた。あ、美人に逆セクハラされるのって、いいね!


「ソラ様、もう一度ロベリア様のところへ」
「あれ、なんかまずいことしちゃった?」


 答える余裕もない様子で急ぎドアに向かうシャノンさん。とりあえずついていくしかないか。
 よくわからないけど少しはお荷物脱出の糸口が見えてきたのかもしれない。

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