帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

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帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切る

 見慣れぬ景色、見慣れぬ文字、黒ずくめの人々、足元に光る魔方陣……。


「よっしゃー!!!」


 確信すると同時に叫びだしていた。俺は!異世界に!やってきた!!!


「……」


 テンションの上がる俺を見つめる謎の黒ずくめたち。心なしか冷めた表情をしている。顔見えないけど。


「あなた、なんなの?」


 死角から声がかかる。振り返ると美少女がいた。え、めっちゃ可愛いぞ。これだけで異世界に来た甲斐があるというものだ。
 歓喜に震える俺を冷めた目が見つめる。今回は間違いない。顔見えてるからね。
 金髪っていうと安っぽく聞こえるけど、本物の、自然な美しい金の髪が、すこし鋭い目をした少女を飾る装飾品のように輝いて見える。おっと見とれてる場合じゃない、質問に答えないと……。


「えっと、なんなんだろうな?」


 あ、目力がさらに鋭くなった。ちょっと怖い。さっきは顔しか見てなかったがドレスをきてる。詳しくないからわからないけど中世っぽいイメージ?上品な緑を基調とした少し重そうなドレスだ。身分が高いのか、この世界はそんなものなのか。


「はぁ……まあいいわ、男に用はないし、失敗ね。適当に送り返しといて」
「うぇっ?!」


 それは困るぞ!せっかくこれからめくるめく大冒険がはじまるというのに、こんなところで終わってたまるか!


「待って、待ってくれ、返すってどういうことだ」
「あんた、召喚に応じるならこちらの意図を汲み取りなさい。」


 よくわからないけど文句を言われた。召喚される側がなんか選べるものなのか?その点まあ俺はどこでもいいから召喚してくれと常に願い続けてた点なんとも言えない……のか?


「私が求めたのは魔法の才能があるもの。男である時点で用はないの。さっさと帰りなさい。」


 ほう……。この世界は魔法を使えるのは女だけなのか。魔女の世界……。
 魔法は異世界に転生して期待することリストの上位だが、残念だ。それはいったん諦めるとして、もうひとつ気になることがある。


「帰るって言っても、帰れるのか?元の世界に」
「元の世界?あなたがどこから来たのかは知らないけど、帰れるんじゃないの?来たんだし」


 お約束の帰るのに苦労する要素一切なしなのか?まあ帰れない中、絶望的な世界で生活するよりは幾分いいが、俺はこの世界に絶望を感じていない。なんといっても美少女がいる!
 異世界に転生して期待することリスト最上位は美少女との出会いであり、それは果たされている。


「まあ、わけわからないものをいつまでも置いておきたくないし、早く返しちゃって」
「いや、待ってくれ!なんかの役に立つかも」
「男が出来ることなら私ができる。あなたは何も役に立てない。大人しくしていなさい」


 取り付く島もなかった。
 とはいえ動けないし、一度暗くなっていた魔方陣がまた光りだしたが見つめることしか出来ない……。
 仕方ないか……。異世界があっただけいいだろう。この希望を胸に、帰ってからも頑張ろう。別に向こうに絶望したわけじゃないんだ。こちらに興味がありすぎただけで。 


「悪かったわね、わざわざ来てもらって」
「絶対悪かったとおもってない顔だな……」
「うるさいわねっ!?こういう顔なの、文句言わないで!」


 いよいよ魔法陣の光も激しくなって来た。


「さよなら」


 金髪の姿が光に覆い隠され、見えなくなる。あー、名前くらい聞いておけばよかったなと思ったところで光は突然収束して消えた。俺はまだ異世界にいた。


「すみません……この者、我々では送り返せませんでした」
「はあ?!」


 あ、諦めてたけど何とかなりそう?


「私の魔力を使っても構わない、さっさとして」


 あ、だめそう。


「そんな必死に帰さなくても」
「召喚された側は普通は帰りたがるって聞いてたんだけど?!」
「そうなのか、普通ならどんなのが呼ばれる予定だったんだ?」
「悪魔とかエルフとか龍よ!」


おお、ファンタジー満載だ。後ろで例の黒づくめの人たちがひそひそと「さすがにそれは……」って言ってるのが聞こえたから無理なんだろうけど、いるんだな。エルフ!


「とにかく、あんたは大人しく帰って」
「大人しくはしてるけど帰りたくはないなぁ……」


 再び光りだす魔方陣。
 半ばここに残ることは諦めたが、せっかく来た異世界だ。やれることはやっておこう。
 そうだな……。魔法っていってる段階で大丈夫だろうけど、これがたとえばタイムスリップだとか、あるいはこの言語が元の世界になかったかを確認するためにも、目に入るものを覚えておこう。目に付くのはいくつかの本と、魔方陣だが、魔方陣のほうは無理そうだ、それでなくてもよくわからんものがよくわからん光を放っている。


「なんなのよっ!?」


 とか色々考えていたらさっきの美少女が息切れしていた。魔力使うとこうなるのか?
 俺は無傷だ。いや傷つける目的ではなかったんだろうけど。とにかく俺を帰す作業は失敗に終わったようだ


「この者を召喚したときの魔力に対して、向こうへ送るときに必要な魔力が桁違いに大きいです。」
「なんなの?!どっかからごみ押し付けられたってこと?!」
「それはちょっと辛辣すぎない?!」
「うるさい!原因はなんなの」


 思わずつっこんだがそれどころじゃない様子である。


「はい、現段階で私に考えられるパターンは二つです。一つ目は、この者のもつエネルギーが膨大であるというパターン」


 おお、主人公っぽい!やっぱそういう要素がないとね、異世界転生は!


「もうひとつは、先ほどこの者が言っていたように、本当にこことは違う世界からやってきたか……。その場合、向こうとこちらの魔力の価値が異なり、またその時に応じて変化しているか、この者が来たこと自体が奇跡といえるほど遠くであるか……」
「あ、異世界ってとこは信じてもらえてなかったのか」
「当たり前でしょ!なんなの異世界って!?馬鹿にしてるの?!」


 逆ギレが過ぎる……。この子面白いな。


「条件付けはかなりゆるかったのは確かだけど、普通召喚するときにいちいちこの世界の中から選んでください、なんてつけないでしょ!」
「そういうもんなのか」
「あんたほんとに知識がないのね……」
「召喚魔法自体が秘術なのです。知らないのも無理はないかと」
「そうなの?」


 さっきからしゃべっているのは黒ずくめの中でもこの一人だけ、この人がこの集団の代表なんだろう。
 声を聞く限り女性、いやさっき魔法は女しかつかえないとか言ってたからみんな女性なのか。ハーレムじゃん!


「はい……。ほかの魔法の知識がないとしても、男性ということを考えると不自然でははないほどです……」


 躊躇いがちに俺にも返事をした後、また金髪に向き合った。金髪って呼ぶのは少し失礼に感じるくらいには口調によらず気品ある見た目をしているので、そろそろ名前くらい知りたいものである。
 しかし今の話で行くとこの金髪は男を知らないで過ごしてきたってことか……。どんな生活だ?女子校みたいなのかな?俺も仕方なくそこに転入してめくるめくハーレム展開が?!
 なんて馬鹿なことを考えていたら金髪がこちらを向いた。


「えっと、あんたのことは帰せない」
「みたいだな」
「本当にごめんなさい」
「???」


 あれ?それまでの態度と違いすぎて混乱しかしない。そのせいで、あー美少女が申し訳なさそうにしてるのは可愛くていいなぁとかしか考えられない。あれ?いつも通りの思考だな?これ。


「私の都合で呼び出して、帰すこともできないのは申し訳ないわ。なんとしても帰す。それだけは約束するわ」
「絶対にノーセンキューだ!」
「なんでよっ!?」
「俺は別に元の場所に戻れなくてもいいんだよ、ここはここで楽しそうだし」
「そんなのダメよ!あなたの帰りを待つ人は必ずいるわ!あなたが良くても私がそれを許さない!」
「えぇ……まじか……」


 思わぬ展開になった。加害者と被害者の思惑が一致していなさすぎる……。
 俺は帰りたくない、彼女は帰らせたい……。
 異世界に来た俺の最初のミッションは、帰らせたがりのヒロインから異世界生活を守り切ることになりそうだった。

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