世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す

すかい@小説家になろう

アカデミーにて

「次はどんな地獄に行くんですか……?」


 病魔の森のほか、3ヶ月で20、似たようなダンジョンに突き落とし、違う、連れていった結果、フローラ姫はちょっとやさぐれた感じになっていた。シズクはこれまでよりさらに喋らなくなっている。
 疲れているだけだと信じたい。


「エル。そろそろアカデミーに」
「あぁ、中間報告か」
「中間報告!え?!私たちただダンジョンのトラップに引っかかってただけになりませんか?!」


 フローラ姫が慌てるが、その心配はない。


「3ヶ月で20もダンジョンに潜ってるのはうちくらいだし、トラップ部屋はなんだかんだ結構潜らないと到達しないところにあったろ? 2人があっさり進めるようになったのは強くなってるからだ」
「全く実感がありませんが……」
「この3ヶ月は強くなるたび相手も強くしてたからなぁ」
「それすら気づかなかったよ……」


 モチベーションを上げる必要のある相手にはまた別の形を取るが、今回はやる気はある前提で最短ルートを走ったためこうなった。


「じゃあこれまでのレポートだけでも?」
「全部書いたら中間報告の段階で合格内定だと思うけど、そのあたりはアカデミー次第だな」
「確かに言われてみるとさっきまでいたの、70層でしたね……」
「そこでモンスター倒してたんだから、その証明ができればレポートすらいらないだろ」


 ダンジョンで倒した敵は時間が経つと消えるが、その前に処理すれば保管しておくことができる。それを素材として攻略者たちの武器や装備品ができるため、倒したモンスターは金になる。


「そういえば…… 素材もたくさん集まったね!」
「1つのパーティーにこれが3つもあるなんて……」


 シズクがそう言いながら出してきたのは一見なんの特徴もない皮袋。だが、これ一つで人1人が遊んで暮らすには十分すぎる価値がある。


「やはり高ランクの攻略者の方は当たり前のように持っているんですね……」
「いや、Sランクでも持ってないのも……いやあいつは売っただけか、ダンジョンにいればたまに見つかるからな」
「逆に私たちが持っているのが、そうやって売られたものなんでしょうね……」


 革袋は見た目を無視した収納力を持ち、また何をいれても重さが変わらない攻略者御用達のアイテムだ。
 Bランクまでの攻略者にとってはこれを見つけることが生涯をかけた目的にもなりかねない優れもの。王家も貴族も大商人も、あるいはAランクの攻略者あたりも喉から手が出るほど欲しいアイテムだ。


「まあ今回はそのおかげで助かったな」
「はい……まさかこれが満タンになるなんて……」


 フローラ姫とシズクが共有している革袋には、各ダンジョンで2人が倒したモンスターたちが詰め込まれている。


「有用な素材の見極めは今後していけばいいさ」
「ん」
「お二方は本当に最低限だけを詰めていましたね」


 素材の中でも使えるものとそうでないものがある。俺とマリーはそれを分けて持ち帰っていた。


「それにしても、久しぶりの狩りだったな……」
「ん。エルは強かった」


 マリーの言葉に“飛べなくても”という文字が見え隠れしている。だがやはり、間違いなく衰えはあった。


「今の俺じゃSランクにあったら瞬殺されるだろ」
「私が守る」
「あは。まさかほんとに会ったら襲われるみたいな言い方ですね」
「襲われるからな、実際に」
「え……?」


 フローラ姫は冗談だと思ったようだが、これは比較的よくある話だ。


「90層も後半を超えると本格的にダンジョンボスが見えてくるからな。人数制限があるし、先にクリアされたらそれまでの攻略が無駄になる。だからダンジョンの奥で出会ったSランク同士は結構ぶつかるんだよ」


 とはいえ流石に相手を殺しきるほど苛烈な奴は滅多にいないが、それでも常人とは一線を画する力を持ったもの同士がぶつかり合う以上、事故は起きる。


「そこまで仲が……」
「いや、実際には結構楽しみながら殴り合ってるけどな」
「爽やかに物騒ですね……」


 普段力の拮抗した相手とやりあう機会などそうそう無いやつらだから、出会ったら割と嬉々として襲ってくるのが多かったと思う。
 そしてしばらくすると満足してダンジョンを譲った。


「まぁ、譲られたからってクリアできるわけじゃないんだけどな」
「そうなんですね……」
「97層で譲られて、98層で相性が悪過ぎることを知ったりな」


 例えばダンジョンボスとの戦闘中は水の中で息ができないとか、平気である。その対策をしながら動きにくい状態でボスを相手取るのは厳しい。


「そんな感じだから、未だに5つしか攻略されてないわけだ」
「なるほど……」


 その後も他愛のない話を繰り広げ、2人もひさびさにリラックスした様子を見せてくれていた。


 ◇


「お前、実はすごいやつだったんだな……」


 Cクラスの教室に久しぶりに顔を出すと、クラス唯一の友人と言ってもいいグレックに声をかけられる。
 俺がフローラ姫たちと本当にパーティーを組んだことを知って驚いているようだった。


「噂は聞いてたけど、本当にフローラ姫たちと……」
「いや……それは俺がすごいわけじゃないだろ? 」


 グレックは良くも悪くも注目を集めるCクラスの中心人物だ。登校していた生徒たちのの目も自然と集まっていた。


「まあそれでも、Sクラスにいる侯爵でも姫様と氷の番人は崩せなかったんだろ?それを崩すなんてお前、相当なんかやったんだろ?」
「なんかって何をだ……」
「それが気になってみんなお前を見てるんだよ! 」


 グレックは笑いながら肩を叩くが、必ずしもそうではないだろう。半分以上は敵意を露わにしているからな……。


「くそぉ……。俺も一度でいいからあの2人に声をかけてもらいてえよ」
「声くらいかけるだろ……?」
「それはお前が恵まれた存在だからだよ!くそ!まあでも、リーダーまでやらされて大変だろ?」
「それはまあ、たしかに?」
「そうだよなぁ。周りがSクラスの実力者に1人はクリアまでしてるんだからなぁ……」


 そっちの面で苦労したことはないが、まあいいか。


「ま、なんかあったら頼ってくれよ!Cクラスの俺たちじゃ言うてる間についていけなくなるだろうしな!」


 あははと笑い飛ばすグレックに、周囲も頷きながら視線を外した。
 普通に考えればCクラスとSクラスの間にある壁はそういうものだから当然の反応ではあるが、この後のことを考えると少しため息が出るのを抑えきれなかった。


 ◇


 《見学自由 Sクラス昇級試験の実施について》


 張り出された紙を見て何度目かの溜息を吐いた。


「こんな時期に昇級……?」
「普通は学年が変わるまで待つだろ……」
「Aクラスの金持ちが無理やり頼んだかなんかだろ?」


 周りの反応は概ね今聞こえたような意見で統一されている。


「にしてもこれ、面白いよな?」
「ああ、この条件、アカデミー側もクリアさせる気がないよなぁ」
「お前も行くか?」
「流石にAクラス相手には何も出来ねえよ」
「だよなぁ。でもちょっと、見には行きたいな」


 周囲の反応がこのような形になっているのは、張り出された内容の続きがこうなっているからだ。


 《今回昇級試験を受ける生徒に対し、同期のものはクラスに関わらず、試験官としての参加を認める。試験はこの試験官としての参加生徒全てを鎮圧することで達成される。なお、試験官としての活躍も成績に大いに加味される》


「あの学園長……好き放題してくれるなほんと……」


 この張り紙が噂になり、普段はダンジョン攻略に向かう上位クラスの生徒たちも試験官として呼び戻される形になっている。
 すでに参加希望者は、あの時のシャドーより多くなっていた。

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