世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す

すかい@小説家になろう

今後の方針

「さて、いきなり本題で申し訳ないけど」


 注文した品も全て揃い落ち着いたところで切り出す。もうあのとき置き去りにして説明を押し付けたことは謝罪済みだ。代わりに今日のここの食事代は俺が出すことになっている。


「ん」


 マリーは黙って俺を見ていた。


「何かあるの?」
「パーティーを解散したい」
「え……?」


 呆然とするフローラ姫。


「理由を、聞いても?」


 少なからずショックは受けてる表情のシズクから声がかかる。


「こないだの鹿王のダンジョンで、俺だけが先にいっただろう?」
「はい」
「詳しくは言えないけど、そこで見たもののために、俺はエルとしての活動を再開させないといけない」


 落ち込んでいたフローラ姫も驚きの表情を浮かべた。
 そして予想外のことを言う。


「良かったぁ。私達が役に立たないから、失望されちゃったのかと思ってた」
「そんな心配してたのか?」
「あのとき置いていかれたのも、そうじゃないかって。もう戻ってきてくれないんじゃないかって、そう思ってたの」
「それは……」


 いらない心配だろう。


「だって、リカエルくんもマリーちゃんも、すごかった」
「そうか?経験もなくいきなり60層に行ったんだし、俺とマリーしか動けなかったのは仕方ないだろ」
「んーん。今の私たちじゃ、何回経験したってあそこで冷静にはなれない。というより、あんな敵だらけの状況じゃ生き残れない」
「そうですね……。報告ではマリーさんの力によるところが大きいと伝えましたが、リカエルさんとマリーさんがいなければ、そもそも帰る道もわからず全滅した可能性が高いかと」


 なるほど……。


「では、もうアカデミーも?」
「そうだな……」


 結局攻略者に戻るなら、アカデミーに縛られるのは下策だ。いる意味はないだろう。
 と、そこまで黙っていたマリーが口を開いた。


「エルは、それでいいの?」
「ん?」


 ここでマリーが口を出してくるのは意外だった。もうこうすることはわかっていたはずだ。


「マリーはわかってるだろ?」
「ん。確かにダンジョンクリアを目指すなら、アカデミーにいる意味はない。でも、エルはそれでいいの?」


 マリーの黒い瞳に、俺の姿が反射している。それだけで何故か、すべてを、内側まで見透かされているような錯覚に陥る。


「エルは、攻略者をやりたいの? 」


 マリーの問いかけに言葉に詰まる。


「エルはわざわざ学校に来た。普通に暮らすだけなら、仕事をする必要もないのに」
「それはそうだけど……」
「仕事も別に、選ばなければやれることはある」


 その通りだ。わざわざアカデミーに来たのは……。


「エルの求めるものが片手間でできるものではないということ」
「マリーにはお見通しか……」
「ん……」


 別にアカデミーを出なくても仕事はあるし、なんなら仕事などしなくても遊んで暮らす方法はある。それでも来たのは、中途半端にやりたくなかったからだ。


「エルはわざわざアカデミーに入ったんだから、やめる必要はない」
「そうか……?」
「パーティーも、このままでもいい」
「えっ!?」


 ずっと沈んだ表情だったフローラ姫も食いつく。


「理由は?」
「ん。リカエルとして動いたほうが、いい」
「ん?あぁ……そういうことか」
「えっ!えっ?どういうこと?!」
「エルとして動くメリットより、デメリットの方が多い可能性がある」
「デメリットって……?」


 エルは目立ちすぎた部分が大きい。それは良くも悪くも人の感情を刺激するものだったから、上位の攻略者には俺を目の敵にして勝負を挑んでくるやつも複数いた。


「そんなことが……」
「その筆頭が厄介過ぎる。今の俺だと勝てない」
「そんなにですか?!」
「というより、リカエルくんの全盛期がどんなだったのか怖いくらいだよ……もう十分強かったじゃん……」


 なぜか落ち込み気味のフローラ姫だが、まあ気にしても仕方ない。


「その厄介な相手というのは……?」
「グラナード・ウィル・ラファエル」
「それって……」
「“炎の皇帝”グラナード。隣の国の王様だな」


 4人のクリア達成者の1人。全身炎に身を包みながら力押しで戦う脳筋だ。


「それだけじゃない。私がエルの敵なら、エルが弱ってる今何としてもとどめを刺す」
「それはそうか」


 クリア達成者というわかりやすいパラメータを優先的に狙うのは当然だ。


「“リカエル”なら、本気でやっててもしばらくバレない」


 そっちが偽名のような使い方だなと苦笑した。だがマリーの言う通り、いま実力が伴っていない状況でエルとして動くのは危険も多いか。


「じゃあ……!」


 目をキラキラさせてフローラ姫が身を乗り出してくる。


「まだお世話になる…… なんか振り回しただけで申し訳ないな」
「いいんです!そんなことは!良かった……」


 心底安心した様子でそのままソファにへなへなと崩れ落ちていった。
 それを支えながらシズクが声をかけてくる。


「提案ですが、Sクラスに来た方が良いのでは?」
「あー、アカデミーの性質を考えるとそうか」
「はい。私たちに何ができるかはわかりませんし今は聞きませんが、少なくともCクラスにいるままよりは動きやすいのではないかと」


 シズクのいう通り、Cクラスにいると必修の授業が多い。試験のハードルも低いため学校に拘束しても問題がないためだ。
 逆にSクラスに必修の授業はほとんどない。実地で学べ、必要なら授業を受けに来い、というスタンスだからだ。


「それはちょっと考えておこう」


 というより、そうしないと困るな。学園長に言えばなんとかなるだろう。


「エルとして動くメリットが無くなる分は、フローラ姫に頼らせてもらうしな」
「私に出来ることがあるんですかっ! 」
「もちろん」


 というよりこの完璧王女を前にすれば、本来は出来ないことを探した方がいいくらいなんだ。
 今回はその身分と人気に頼らせてもらう。


「立ち入り制限のかかったダンジョンにいくつか、入りたい」
「それは……いえ、リカエルくんとマリーさんとパーティーを組んでいるのですから、そのくらいはしないといけませんね」
「よろしくお願いします」


 いくら王女でも好き勝手していいわけではない。ただ、好き勝手するための伝手がいくつもあるのが、貴族や王家だ。そこから先はその専門家に任せるしかない。


「ん……。頼りにしてる」
「マリーも貴族なんだから、そういうのも……」
「私1人ならダンジョンに制限はない」
「まあそれはそうなんだけどな……」


 当然クリア達成者のマリーに制限はない。ちなみにこれは帝国も王国も、周辺小国も全て含めてだ。マリーは王国の貴族になったが、周辺諸国に行ってもそれなりの地位は約束されている。


「ではまずどこを……?」
「魔王のダンジョン」
「それは……」


 俺が命を落としたとされた最悪のダンジョン。そこに置いてきたものを、取り返しに行く。

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