世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す
嫌な思い出
「覚えてるのは、そこまで……?」
マリーが心配そうに声をかけてくる。
「いや……後少しでなんか思い出せそうなんだけど……」
「ん……」
記憶の中で霞む景色がある。
鎖に繋がれた魔物。強大な力に立ち向かう勇者。竜、エルフ、オーガ……。浮かんではつながらずに消えていく。物語の中の空想の生き物たちが妙に鮮明に意識を弄んだ。
「エルフがいたなら、不思議じゃない」
「確かにそれはそうだけどな……」
「ん。エルはその後……」
「あぁ、覚えてない。次の記憶はもう地上に傷だらけで投げ出されていたときだ。もうその時には俺は飛べなくなっていたし、何かわからないものに怯えていた」
「ん……。もう、大丈夫」
「そんなにひどい顔だったか?」
「ん。見たことない、顔だった」
マリーのわかりにくく変化の少ない表情が、珍しく誰が見ても伝わるくらいに悲痛なものになっている。
「そうか……」
あんまり心配させるわけにもいけないな。
「もう大丈夫だ。にしても、あんまり役に立たない情報しかないな……」
「そんなことはない。魔族はエルなら勝てる。それだけでいい」
「飛べたときの俺だぞ?2年もろくに動いてないんだから、今の俺じゃ……」
「大丈夫」
「ほんと、マリーの信頼はどこから来るんだろうな」
いつだってマリーは全幅の信頼を寄せてくれる。
「エルは、大丈夫」
「ありがとな」
マリーの頭をくしゃくしゃと撫でると、マリーは目を細めながらまた何か考え込むように話し始める。
「でも、どうする?」
「んー……魔族がどう動くかわからないなら……」
「攻略、する?」
攻略……。それはダンジョンに入るということではなく、本気でクリアを目指すこと。いかに力を得ていても、力を持っていても、一瞬で死ぬ危険が溢れているダンジョンにクリアを目指して挑むなんて、正気の沙汰ではない。どこか頭のネジがぶっ飛んだやつしかできない。
まぁ、俺もマリーもぶっ飛んでいる点については折り紙付きなわけだが。
「あれにまた命をかけるのは……」
「怖い?」
「……あぁ」
だからアカデミーを選んだんだ。攻略者を続けるなら、わざわざアカデミーへ行く必要はない。
「ん」
マリーは別に、俺にやれともやめろとも言わない。ただ黙ってこちらを見ていた。
「はぁ……」
「ふふ」
「なんで笑うんだよ」
「エルは優しい」
「……そうかよ」
直球な言葉に思わず投げやりな声かけになる。
「私も手伝う」
「俺は何も言ってないぞ」
「見れば、わかる」
「はぁ……」
何を言っても勝てる気がせず、頭をかきむしった。
「いいか?今の俺じゃ攻略には足手まといだぞ」
「そんなことはない」
「マリーが手伝うと言うより、俺がマリーを手伝うくらいだ」
「それならそれでも、問題ない」
「はぁ……」
2回目のため息。
認めよう。何を言っても、マリーには敵わない。
「わかった……」
「ん」
いつも通り、ただそれだけ言って、マリーはまた目を細めていた。
◇
「あっ!リカエルくん!ひどいよ!あの後説明、大変だったんだからね!」
「あー……」
フローラ姫につめられ、つい目をそらしてしまう。
「こらー!目をそらさないで!私、ちょっと怒ってるんですよ!」
「ごめんごめん……」
アカデミー内で絡まれるのは本当に慣れない……。まあもう、目立つのは諦めたというか、どうしようもないのでいいんだが。
「なんだあいつ……」
「なんで姫様とあんなに親しそうに……」
「やめとけって、あいつはもういいんだよ」
「なんでだよ」
「知らないのか?あいつになんかすると呪われるんだよ!それまで何もなかった家で夜な夜な……」
そんなことになってたのか……。
「マリー、後で話がある」
「……」
露骨に目をそらされた。
「私を無視して話を進めないでください!」
「悪かったって……」
頬を膨らませてちょっと涙目になりながら怒るフローラ姫の姿はなにかこう、グッと来るものはあるがそんなことを言ってる場合じゃないな。もう1つ謝らないといけないわけだし。
「あの後2人でどこで何をしてたのか!しっかり話してもらいますよ!」
「そうだな……。またあそこに行くか」
「いいんですか!?」
途端、パッと表情を明るくさせるフローラ姫。もとのレベルの高い容姿に、コロコロ変わる魅力的な表情。まだ始まったばかりのアカデミーでの生活だが、これが癒しになってる生徒も多くいるようだった。
「姫様は仲間はずれにされたと思って落ち込んでいたんです。少し相手をしてあげればすぐに機嫌も直りますので」
「シズクも悪かったな」
あと、従者としてその発言はいいのか?
ほらちょっとフローラ姫も涙目に……。
「いえ、私は特に何もしていませんよ」
特に動じないシズク。
フローラ姫は不服そうにしていたが、ひとまずまたあのオカマの店に行くことになった。
◇
「あらぁ、よく来たわね。いらっしゃい。紅茶にする?お菓子にする?それとも、ア・タ・シぃ〜?」
「勘弁してください」
「つれないわねぇ。でも、そんなところもステキっ!」
こんなに嬉しくないウインクを飛ばされたのは初めてかもしれない……。なんで上半身肌でエプロン姿なんだろうか、この筋肉の塊は……。
「いつも通り、あそこでお願いします!おじさま!」
「はぁい。でもね、いつも言ってるけど、私はおじさまじゃなくて」
「早くいきましょう。姫様」
「あらぁ〜。シズクちゃん冷たい〜」
店長から逃げるように奥の個室に入っていった。
まあ、逃げても後で来るんだけどな。うまいお菓子と紅茶を持って、というところがなんとも言えないが……。
マリーが心配そうに声をかけてくる。
「いや……後少しでなんか思い出せそうなんだけど……」
「ん……」
記憶の中で霞む景色がある。
鎖に繋がれた魔物。強大な力に立ち向かう勇者。竜、エルフ、オーガ……。浮かんではつながらずに消えていく。物語の中の空想の生き物たちが妙に鮮明に意識を弄んだ。
「エルフがいたなら、不思議じゃない」
「確かにそれはそうだけどな……」
「ん。エルはその後……」
「あぁ、覚えてない。次の記憶はもう地上に傷だらけで投げ出されていたときだ。もうその時には俺は飛べなくなっていたし、何かわからないものに怯えていた」
「ん……。もう、大丈夫」
「そんなにひどい顔だったか?」
「ん。見たことない、顔だった」
マリーのわかりにくく変化の少ない表情が、珍しく誰が見ても伝わるくらいに悲痛なものになっている。
「そうか……」
あんまり心配させるわけにもいけないな。
「もう大丈夫だ。にしても、あんまり役に立たない情報しかないな……」
「そんなことはない。魔族はエルなら勝てる。それだけでいい」
「飛べたときの俺だぞ?2年もろくに動いてないんだから、今の俺じゃ……」
「大丈夫」
「ほんと、マリーの信頼はどこから来るんだろうな」
いつだってマリーは全幅の信頼を寄せてくれる。
「エルは、大丈夫」
「ありがとな」
マリーの頭をくしゃくしゃと撫でると、マリーは目を細めながらまた何か考え込むように話し始める。
「でも、どうする?」
「んー……魔族がどう動くかわからないなら……」
「攻略、する?」
攻略……。それはダンジョンに入るということではなく、本気でクリアを目指すこと。いかに力を得ていても、力を持っていても、一瞬で死ぬ危険が溢れているダンジョンにクリアを目指して挑むなんて、正気の沙汰ではない。どこか頭のネジがぶっ飛んだやつしかできない。
まぁ、俺もマリーもぶっ飛んでいる点については折り紙付きなわけだが。
「あれにまた命をかけるのは……」
「怖い?」
「……あぁ」
だからアカデミーを選んだんだ。攻略者を続けるなら、わざわざアカデミーへ行く必要はない。
「ん」
マリーは別に、俺にやれともやめろとも言わない。ただ黙ってこちらを見ていた。
「はぁ……」
「ふふ」
「なんで笑うんだよ」
「エルは優しい」
「……そうかよ」
直球な言葉に思わず投げやりな声かけになる。
「私も手伝う」
「俺は何も言ってないぞ」
「見れば、わかる」
「はぁ……」
何を言っても勝てる気がせず、頭をかきむしった。
「いいか?今の俺じゃ攻略には足手まといだぞ」
「そんなことはない」
「マリーが手伝うと言うより、俺がマリーを手伝うくらいだ」
「それならそれでも、問題ない」
「はぁ……」
2回目のため息。
認めよう。何を言っても、マリーには敵わない。
「わかった……」
「ん」
いつも通り、ただそれだけ言って、マリーはまた目を細めていた。
◇
「あっ!リカエルくん!ひどいよ!あの後説明、大変だったんだからね!」
「あー……」
フローラ姫につめられ、つい目をそらしてしまう。
「こらー!目をそらさないで!私、ちょっと怒ってるんですよ!」
「ごめんごめん……」
アカデミー内で絡まれるのは本当に慣れない……。まあもう、目立つのは諦めたというか、どうしようもないのでいいんだが。
「なんだあいつ……」
「なんで姫様とあんなに親しそうに……」
「やめとけって、あいつはもういいんだよ」
「なんでだよ」
「知らないのか?あいつになんかすると呪われるんだよ!それまで何もなかった家で夜な夜な……」
そんなことになってたのか……。
「マリー、後で話がある」
「……」
露骨に目をそらされた。
「私を無視して話を進めないでください!」
「悪かったって……」
頬を膨らませてちょっと涙目になりながら怒るフローラ姫の姿はなにかこう、グッと来るものはあるがそんなことを言ってる場合じゃないな。もう1つ謝らないといけないわけだし。
「あの後2人でどこで何をしてたのか!しっかり話してもらいますよ!」
「そうだな……。またあそこに行くか」
「いいんですか!?」
途端、パッと表情を明るくさせるフローラ姫。もとのレベルの高い容姿に、コロコロ変わる魅力的な表情。まだ始まったばかりのアカデミーでの生活だが、これが癒しになってる生徒も多くいるようだった。
「姫様は仲間はずれにされたと思って落ち込んでいたんです。少し相手をしてあげればすぐに機嫌も直りますので」
「シズクも悪かったな」
あと、従者としてその発言はいいのか?
ほらちょっとフローラ姫も涙目に……。
「いえ、私は特に何もしていませんよ」
特に動じないシズク。
フローラ姫は不服そうにしていたが、ひとまずまたあのオカマの店に行くことになった。
◇
「あらぁ、よく来たわね。いらっしゃい。紅茶にする?お菓子にする?それとも、ア・タ・シぃ〜?」
「勘弁してください」
「つれないわねぇ。でも、そんなところもステキっ!」
こんなに嬉しくないウインクを飛ばされたのは初めてかもしれない……。なんで上半身肌でエプロン姿なんだろうか、この筋肉の塊は……。
「いつも通り、あそこでお願いします!おじさま!」
「はぁい。でもね、いつも言ってるけど、私はおじさまじゃなくて」
「早くいきましょう。姫様」
「あらぁ〜。シズクちゃん冷たい〜」
店長から逃げるように奥の個室に入っていった。
まあ、逃げても後で来るんだけどな。うまいお菓子と紅茶を持って、というところがなんとも言えないが……。
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