世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す

すかい@小説家になろう

小休止

「あと……何階層行けばいいんだ……」
「さっき登ったばっかだろ。まだ4〜5つくらいしか突破してないんじゃないか?」
「まだそんなに……もともとの場所……いや、考えたくない」


 ダンジョンに慣れていない生徒たちは60層を歩いていたところからすでにこんな調子になっていた。
 一方で講師たちはさすがに経験値が違う。またなんだかんだでフローラ姫とシズクや、エリックも含めたSクラス上位陣はまだ余裕が見えていた。


「まさかこれほどのスピードで抜けられるとは……」
「そもそも我々だけでは生きて戻れなかった……」
「アイルと言ったか……とんでもないことをしてくれたな……」


 講師陣が詰めるのは階層転移のトラップを意図的にいじった戦犯だ。
 最初こそ慣れないダンジョンとエリックの暴走で影を潜めていたが、58層に来たあたりで不満が噴出した。そこで講師たちが保護観察という名目でアイルとレリーズ、そしてイートの3名のパーティーを囲んで移動する形にした。
 こうしてみんなの前で晒しあげながら叱責することで他の生徒の暴走を防ぐという効果もあり、そのおかげで今のところはまだ不満はあっても表立ってぶつけるには至っていない。
 エリックは腐っても実力者ではあるので、周囲が暴走する心配はない。エリック自身も、マリーが目を光らせているためおとなしくしている。


「そろそろ限界か」


 横にいるシズクに声をかける。


「私はまだいけますが……?」
「わかってる。けどもう7割くらいの生徒は限界だ。今日はこの辺りまでにしよう」


 ダンジョンは朝も夜もないため時間感覚がなくなる。そのため進みながらもある程度時間を把握する力も必要になる。この辺り、慣れていないとペース配分を間違えて死ぬ新人攻略者もいるくらい意外と必要なスキルではある。


「ここでしばらく休みます!各々食事と休憩に時間を当ててください!」


 フローラ姫からみんなにアナウンスをしてもらう。
 それぞれ思い思いに座り込んだり膝に手をついて休憩を始めた。


「驚異的なペースだが……全員十分な食糧を持っているとは思えない。我々の食糧を分けるにしても心もとない。何か対策はあるのか?」


 講師の1人が俺とシズクの方に来て声をかけてくる。そういえばその問題をどうするかはあまり考えていなかった。


「そうか。普通は飯がいるのか」
「まるで貴方は……いや、そうなんでしょうね、実際……」
「多分マリーもそうだけどな。30日くらいならなくても何とかなるだろ」
「クリア組が人間離れしているのがよくわかりました……」


 クリア組が特別というわけではないが、人間も栄養がなくても魔力で賄う手段があるというだけだ。俺の場合そもそも容量が多いし、マリーの場合使役しているゾンビが栄養や魔力を得ればそれを吸い上げることができる。


「まあ、食糧は用意するよ。肉しかないけど」
「案があるならいい。すまない、本来我々がしっかりしなければならないときに……」


 悔しそうに顔を歪めるが、60層で戦えないことは悔しがっても仕方ないだろう。もう50層を超えたダンジョンはどこも異世界と言っていい。
 強いて悪かった点をあげるとしても、こんなことをやらかした奴らを止められなかったという点のほうだろう。こっちに関しても講師を攻めるのはかわいそうだ。


 ◇


「食糧に当てがあるなら良かったです!私もそれを心配していました」


 前にいたフローラ姫に話を持っていくと表情を明るくした。流石にフローラ姫でも疲労感をぬぐえなくなってきている。黙ってヒールをかけると少し楽になった様子だ。


「じゃあ、マリー」
「ん」


合図に合わせてマリーだけが結界の外に飛び出す。当然周囲にいた魔物がそれに気づき襲いかかるが、次の瞬間綺麗に首を落とされて魔法で吊るされた。


「ご飯、できた」
「違う、まだできてない」


マリーはあれをゾンビに食わせるだけでいいが他の奴らはそういうわけにいかない。というか俺も食うならもう少しちゃんと調理された状態で食べたい。


「手伝うからよろしく」
「ん」


見る見るうちに風魔法で魔物が精肉にされていく横で、同時に土魔法で大鍋が作られ、水魔法で水を張り、火魔法で熱する。


「まさか……」
「これがクリア組……」
「あれを食べるのか?」
「いやでも、俺ら食い物ないぞ……」


マリーの料理と言っていいのかどうかわからない大雑把な魔物狩りを見て色んな意味で顔を青くしている。まあ食えば美味いし大丈夫だろう。皮のぬめりと内蔵の臭みさえ取れば、魚と肉のいいとこ取りのような良い肉が食える。


「いや、異様な光景ではあるけど、4大魔法並行使用って……」
「本当に規格外ですね……」


シズクとフローラ姫はマリーの魔法に圧倒されている。実際には半分は俺がやっているけど、Cクラスらしく大人しくするため、マリーがやってるように見せているわけだ。別にマリー1人でもできるのはできるが、手伝わないのも申し訳ないからな。


「心配しなくても調味料はあるぞ」
「ん。忘れてた。ありがとう」
「その心配をしてたのは2人だけと思うけど……」


注目がマリーに集まってるのをいいことに、俺も割と好き勝手味付けに参加して完成する。
魔物と野草の煮込み料理。なかなかいい出来だと思う。


「見た目も味も良いんだけど、あの調理の一部始終を見てるとなんか納得できない……」
「なんであの魔物が食べ物になるんだ……普通逆だろ……」
「マリー様がいなかったら俺たち今頃餌だったわけか……」


戦闘と料理のおかげかせいか、マリーはいつの間にか一部の生徒に様付けで呼ばれるようになっていた。





コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品