旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

店の未来





 ミトラは今日も庭でゴロゴロしている。
 あれから北部ギルドへ帰るでもなく、のんびりしていた。


「ミトラちゃん、ずっといてくれたら良いですね」
「それは……どうだろうな」


 なんだかんだで居着いてもおかしくはないし、いつのまにかどこかにふらっと消えていてもおかしくはない。
 そう考えると、餌付けした外猫のようだな……。


「元の世界ではタブーだったけど、外飼いの猫って感じになりつつあるな」
「タブーだったんですか?」
「揉め事になる原因だったな。外飼いの猫に家に入られて、飼ってたペットが殺されたり、天然記念の動物が被害にあったりしたりって例があるくらいだしな」
「そんなことが……」


 幸いうちに被害はなかったが、網戸を破って侵入して小鳥とかヘビとかペットが被害に遭う例も聞いたことはある。
 地域猫だったりいろんな形はあったものの、少なくとも俺は外で飼うくらいなら飼わない方がいいという考えだ。


「そもそも、外に出た拍子に病気や事故で死んでしまう可能性もあるからな……。どちらかというとそっちに耐えられそうにない」
「なるほど……」
「ま、ミトラに関しては閉じ込めてる方がまずい絵面になるからな」
「そうですね……」


 獣人ということを考えるとあの見た目でもそれなりの年齢ということも考えられるが、なんとも言えないな。


「それにしても、こっちの人通りが増えましたね?」
「あぁ、メインで使ってたルートが実質封鎖されたからな」


 ギルドから主なルートになっていた森の入り口は実質調査団の集合場所になっており、そこに関係を持とうとしないソロやパーティーを組んだ冒険者たちは、入り口を変えて森へ入っている。


「森の状況を考えると仕方ない部分もあるけど、いくつか条件や検問のようなものまであるらしいからな」
「それを避けるために?」
「ルールを破りたいというより、いちいち森へ行くために検問を通ることを煩わしく思う冒険者が多いってことだと思う」
「それはまぁ、確かにそうかもしれません」


 ほのかの感覚で言えば毎日校門で持ち物検査をされるイメージだろうか。
 鬱陶しいことは伝わっただろう。


「じゃあこの機会にたくさん宣伝できますね!」
「どうだろうな?」


 森へ入るために店の前を通る冒険者が増えたものの、冒険者はそもそも、ここがなんなのかいまいちわかっていない。
 ただ何故か襲ってこない魔獣が並んでいるという認識程度しかなかったというのが、最近改めて浮き彫りになったうちの店の状況だった。


「こんなにかわいい生き物が並んでたら、普通ペットショップだと思うと思ったんだけどなぁ」
「カタカタ」


 バアルが悲しげに首を振る。なんで俺、骸骨に憐れまれてるんだ……。


「アツシさん、冒険者としては超一流になってるのに、経営者としては5年間何してたんですかってくらい、ぼろぼろですよね」
「辛辣すぎないか?」


 ガイコツに憐れまれ、歳下の女の子にはこの仕打ちである。


「こんなところに魔獣だけが並んでいたら!普通怖がって変な噂しか立ちません!看板もろくにないのに!」
「んー?そうかー?可愛いぞ、こいつら」
「だろ!?ミトラはやっぱわかってくれるな!」


 頼れる屈強かつ可愛いパートナーたちに混じって昼寝をしていたミトラが答える。


「アツシさんは冒険者として超一流になるのが早すぎたせいで、こうなってしまったんですね……」
「カタカタカタ」


 寝惚け眼のまま近くにいたギンを撫で、そのままギンの数倍の毛の塊に埋もれていくミトラ。


「ミトラちゃんが一緒にいるのって」
「ホッキョクグマに近いなと思ったんだけど、この辺にちょこちょこでるクマ型の魔獣の白変種っぽいんだよな」
「クマ型の魔獣なんていたんですね?それと、白変種って?」
「クマとかトラみたいなのはたまに出るんだよ。ジャングルメットみたいに居場所が固定されてないから出会ったらまあ、ラッキーだな」
「普通の冒険者にはアンラッキーなのでは?」
「カタカタカタ」
「それは……そうかもな。Cランクの冒険者がパーティで挑むくらい、ってところか」
「アツシさんのせいで感覚がおかしくなってたんですけど、Cランクってもうすでに元の世界のスポーツとかでいうと、地方大会優勝常連、みたいな強さですよね?」
「スポーツと比べるのはわかりにくいけど、まあそうか。Fが素人、Eが経験者、Dだと地方大会のシードみたいな感じか?」
「です!Bランクならもうちょっとした有名人じゃないですか?」
「それはレオとソウがイレギュラーな気もするけど」
「それだけじゃないですよ!」


 ほのかが知らぬ間にこちらの世界の常識を把握しつつあるようだ。
 元の世界と比較できるのは新鮮だな。


「まあそれは良いとして、白変種?っていうのは」
「一度説明したかもだけど、アルビノっているだろ?」
「はい、白くなるんですよね?」
「正確にはその認識が違う。本来は白変種、リューシスティックって呼ばれるのが白くなる形質を持った遺伝になるんだよ」
「リューシスティック……ウーパールーパーの話ですね!」
「そうだな。ウーパールーパーで一番メジャーな白い子がリューシスティックだったわけだ。アクアリウムショップとかで見たか?」
「なんか見覚えがあります。そういうことだったんですね」


 前にも似たような話はしたが、まあ一回で頭に入ってくる話ではないだろう。


「アルビノってのは、黒色素を無くすって意味だからな。結果的に白くなるのが多いってだけだ」
「あ!そういえば」
「だから俺が飼ってた蛇なんかは、アルビノは黄色くなってた」
「そうでした!」


 目が赤くなるという話も思い出したようで、確かにあの子は目が黒いですね!とほのかもミトラや魔獣の方に混じりにいった。





 竜や普通に生きていればお目にかかることもない猛獣に混じってくつろぐ小さな少女と黒髪の女の子。
 冒険者たちは一瞬目をひかれて立ち止まるが、そのまま遠目に眺めながら遠ざかるだけだった。


「やっぱり、宣伝方法は見直した方がよさそうだな……」


 これだけ可愛らしく微笑ましい光景であっても、魔獣に植え付けられたイメージはなかなか払拭できない。改めて現実を目の当たりした。


「ま、あれを見てるとなんとかなる気もするけどな」


 ミトラはともかく、ほのかは普通の子だ。
 その2人が自分たちよりひと回りもふた回りも大きな獣たちに囲まれながら安心した表情で眠る2人の少女たちを見て、これからの店のあり方に少し、希望が見えたような気がした。



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