旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

森の鎮圧

 良くも悪くもミトラのおかげで留まっていた魔獣たちが自由に動き出している。
 このままいくと自治区まで飛び出す個体もちらほら出てくるだろう。
 これをなんとかするためにわざわざ神獣領域に行っていた俺としては、まずこれを何とかする必要がある。
 もちろん帝国もギルドも何らかの手立ては打っているだろうが、その手立ての中にうちの店を守るという構想はない気がするしな……。
 そのくらい、うちの店は場所が悪かった。


「アツシさん、森の入り口のほうも騒がしくなってますよね……?」
「そうだな。あれだけ露骨な魔法が展開されてて、森の獣はこの状態だからな」


 集められた冒険者のランクを考えると、戦力どころかはっきりいって足手まといと言わざるを得ない状況。みたことのない魔法に戸惑って騒ぎ出したんだろう。
 あちらは手負いのエリスとミーナ、あとはうちの魔獣たちか……。


「どうしますか?」


 ほのかは俺に確認しながら、ミトラへも目線を送る。


「んー、さっきのはちょっと、疲れる」


 ミトラは1匹ごとの相手ならともかく、森にこれだけ溢れた魔獣たちの全てを何とかする力は残っていない。
 ミトラもミトラでエリスとやり合っていたわけだからな……。これで存分に暴れられる余力があったほうが怖い。
 となると頼れるのはうちのパートナーたちだな。当初の予定通りだ。


「このために向こうまで行ってたからな。時間がかかるから、しばらくの間俺のことも守っといてもらっていいか?」
「それくらいならー」
「もちろんです!」


 2人で十分な戦力。そのうえハクもいる。このメンバーには見劣りするが、竜二頭も明らかに周囲の魔獣とは一線を画する存在だ。大丈夫だろう。
 こちらの精神状態により大きな影響が出るため、安心できる要素は多ければ多いほどいい。
 竜たちはどうしてもハクほどしっかりした指示は通らないところはあるが、些細な問題だ。


「じゃぁ、任せた。サモン!」
「わっ……!」
「おー」


 2人からも感嘆の声が上がるこれは、それこそいま上空で巻き起こっている魔法の個人バージョンだった。


「こんなに大きいゲートを……?」


 集中を解くとまずい。これをさらに細かく調整していく必要がある。
 ほのかが驚いているように、ハクたちを呼ぶときの魔法陣とは桁違いに大きなものを展開している。


「おー、やっぱり、懐かしい匂いだ」
「ミトラさんは、神獣領域から……?」
「んー? 森の奥、川の向こうから来た」
「やっぱり!あっちはどんなところでしたか……?」
「ん。あっちは――」


 2人の声が遠くなる。
 初めて呼ぶ魔獣。それも、一度にこれだけの規模でだ。
 基本的には呼べば勝手に来るというのがサモナーのスキルの強みだが、初めて召喚するときだけは注意が必要になる。契約後のファーストコンタクトで雑な扱いをすると信用を傷つける。特に知能がなく本能で動いているような生き物ほどその傾向は顕著で、俺が蟲をあまり使わないのはそのあたりも影響していた。


「ん?」


 ミトラが周囲への警戒度を高めたのを感じた。


「周り、たくさんいるぞ」
「え?あっ!」


 ほのかはまだそのあたりの感覚が薄い。ワンテンポ遅れて気づいた。


「ジャングルメット……?」
「だけじゃない。これは……」


 辺りを囲むように、魔獣たちがひしめき合う。


「どうして私達を?」
「アツシのあれ、森の子たちには不安」


 魔獣たちが狙うのは俺。ハクとミトラが睨みを利かせているため迂闊に飛び込んではこないが、逆に言えばそれだけ知性を兼ね備えた魔獣ということになる。ほのかが発見したジャングルメットだけでも、Bランク単体では嬲り殺される強さだ。


「来る……!」
「炎よ!」
「グルゥアァゥアアアア」


 ミトラが視界から消える。ハクが咆哮で威嚇し、ほのかも魔獣を倒すためではなく、近づかせないための炎魔法を放つ。
 だがこれでも、すべては防げない。火の属性を持った狐のような魔獣がほのかの炎の壁を自らも火の姿になって突破する。その刃が壁のこちら側へ向けられた次の瞬間、魔獣の姿が消える。ミトラだ。
 手足だけが魔獣の姿になっており、4足を巧みに操りながら抜けてきた魔獣たちを仕留めていく。
 ハクもそれに続き、2匹の獣が森の魔獣を圧倒する状況が生まれる。


「キリがないです!」


 ほのかもいつの間に習ったのかというほど多様な魔法を見せて応戦するが、森にここまで魔獣がいたのかというほど、立て続けに寄ってきている。乗っている白竜も対抗しているものの、手数が足りなくなってきている。
 もはや最初のような知性のある魔獣だけでなく、勢いに乗じて下位の獣も集まってきているのもあるだろう。


「間に合った!援軍だ!」
「この子達は!」


 広げていた魔法陣、ゲートから黒い塊が出現し、形を変えながら森の魔獣たちの下へ飛び立つ。
 トパーズには簡単に落とされたこいつらも、神獣領域を出れば驚異的な強さを誇る。


 同時に狼型の魔獣たちも展開する。無限に続くかと思えるほど、二種の黒い獣達は森へと向けて飛び出し続けている。


「すごい数……」
「ですね!」


 ミトラとほのかがそれぞれこちらへやってくる。
 ハクは殿を務めるように背後を警戒しながらそれについてきた。


「悪い。助かった」
「それよりこの子達は……」
「神獣領域、多分ミトラの故郷で連れてきた」
「よく、食べてた」
「そうか……」


 確かにこれだけの数がいるということは、生き残るために数を増やしてきたということに他ならない。そういうこともまぁ、よくあるんだろう。
 だがまぁ、今言われるとなんともいえない気分になるな。


「大丈夫ー。この子達は仲間。食べない」


 そう言いながらも目で追い続ける様子に一抹の不安は感じるが、まぁ何とかなるだろう。


「これで森は、少なくとも店まで魔獣が出てくるようなことはなくなるだろう」
「この子達、殺してはいないんですね」
「あぁ、狼が応戦しながら、烏が幻術で一匹ずつ対処してるからな」
「オオカミ……?カラス?」


 ミトラが不思議そうに首をかしげる。
 この言葉は確かに、こっちにはないものだったな。


「ああ、ミトラはこいつら、なんて呼んでた?」
「ん?トリと……エサ?」


 餌と来たか……。


「名前、付けてあげましょうか」


 ほのかが見かねて言い出す。
 いつものように個体に名前をつけるのではなく、種族に名前をつけるので、俺の安直なネーミングは避けたい。


「カムイ」
「あ!いいですね!」


 意外にもミトラが提案する。


「カムイか。それは」
「トリ」
「わかった」


 アイヌの神だが霊だかの名前だったか?余り詳しくないのでわからないが、まぁいいか。
 神獣の卵だしふさわしい気もしてくるな。


「じゃあ狼達はロウガでどうでしょうか」
「ん。いい」
「やった!」


 口を挟むまでもなく二人の会話で決定した。まぁいい。俺はこの辺、決めるの苦手だしな。


「じゃあ改めて、この子達に活躍してもらいましょう!」


 ほのかが明るく、話をまとめた。
 ミトラはもう興味がなくなったのか、ロウガたちが行く先を木の上から眺めている。


 上空のゲートは、さらに広がりを見せている。
 俺のゲートでこれだけの魔獣を呼べたことを考えると、あれは本当に、頭が痛くなる存在だった……。







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