旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

【挿絵有り】テイマーの矜持

「といってももう、テイムはしようとしてるんだけどな」
「あら、アツシならもっと迷ったり悩んだりするかと思ってたわ」
「そりゃ多少の葛藤はあるけどな。エリスでそこまでやられてる相手なんだし、それどころじゃないことくらいわかる」


 自分のポリシーに反するとしても、そのポリシーのために死ねるかと言われればそうではないということだ。まして、ほのかやエリスを巻き込んでまで守るほど、立派な決意ではない。


「それにあれはもう、獣と言って良いだろう。あんなのは、本人だって望んでないだろうし、一番血が流れない方法がこれならそれでいい」


 ミトラは別に荒れくれものというわけでもない。
 意図的に周囲に危害を加えることはないが、戦闘スタイルとスキルの問題で、結果的に周囲をめちゃくちゃにすることが何度かあるだけ、というふうに聞いている。


「そうね。今回はそれがいいでしょう。だからわざわざ皇女様もこっちに送り出したんでしょうし」


 人にテイムはかけない。
 5年間守ってきた矜持のようなものだったが、今回は状況が状況だ。最善の手を迷いなく打たなければ、こちらがやられる。
 あとはまぁ、これが初めてってわけでは、実際のところないからな。


「まぁ私もいまのあの状態だけを見たら、獣人だとは思わないわね」


 完全な獣。まして見ただけで魔力が溢れ出すのを感じ取れるような獣だ。普通の人が見ればそれはもう、魔獣と呼ぶだろう。
 そしてこれこそが、ミトラが北部ギルドで3位にまで上り詰めた最大の強みでもあった。


 そもそも本来獣人というのは、姿を変えられるものは少ない。
 典型的な例でいえば狼人間のように、条件によって能力を上げる代わりに理性を失うというタイプもいることはいる。だが、普通は多少体に毛が生えたり、顔つきが変わったり、羽根が生えたりといったように、身体の一部が変化するに留まる。完全な獣まで姿を変えられるのはミトラの特有の能力だった。


 この能力ゆえに、人間の力では到底到達できないダンジョンの深部や、狩場のその奥へ単独で冒険へ出ることができ、結果、北部ギルド3位の実績を積み上げていたわけだ。


「アツシさん、テイムは利いてるんですか?」
「理論上は利くはずなんだけどな。なんせ獣人相手にやったことがない。ただ、もう条件交渉まではたどり着いた」
「便利な能力ね、ほんと」


 エリスがいうほど便利に使えてるわけではないんだが、まぁいいだろう。
 今回は本来理性のある相手なわけだし、条件も……ん?


「どうかしたんですか?」
「いや、獣人との契約なら、内容がいつもと変わってくるものかと思ってたんだけどな」


 想定としては、たとえば一番わかりやすいものは金。あとはこのあとの保身だったり、何かそういったものを取引材料とするかと思っていたが……。


「スキルによる契約は絶対なんだから、それがどんなに変わったものであっても、それがあの子の本心でしょう?」
「まじか……」
「どうしたんですか?」
「結論から言うと、要求されたのは肉だった」
「えっ?」


 俺もえっ? と言いたい。
 どうも俺のテイムの能力は北部に間違った情報を伴って流れていたらしい。
 いわく、俺の持つ肉がきびだんごのような能力を持っており、その美味さ故に動物が言うことを聞かざるを得なくなるのではないかと。
 ミトラはこの噂を聞いたときから、一度は食べたいと思っていたということだった。
 しかしそれでいいのか、ミトラ……。


「まぁ、こっちが出した条件もいつもとは違うから、これでもいいの……か?」
「パートナー契約ではないんですね?」
「あぁ、今回話ができる関係値が作れればそれでいいってことにしてる」
「それなら肉と引き換えでもいいわね。今まで身体をはっていたのがばからしくなるけれど」
「まぁそれでいいならいいけど、なんだかなぁ……」


 気の締まらない形ではあるが、テイムの作業を終え、実際に肉を与えた。
 がつがつと野生動物のように食いついたミトラだったが、
 見る見るうちに人型の状態に戻っていく。


「良い食いっぷりだな」


 がつがつと肉にむさぼりつくミトラ。すでに手足は人のものに近づいており、口だけで食べていたところが手を使うようになっている。


「はぁ……まぁいいわ。私は戻るわよ」
「あぁ、向こうは任せる」
「逆にアツシひとり、いえ、ほのかとアツシだけで森は大丈夫なのかしら?」
「ミトラが抑えられればあとは元々いるやつらだろう?」
「そうね。今のところは」
「今のところは、か」


 まぁエリスも、協会がこのまま引き下がるはずはないとわかっているんだろう。


「大変なところばかり任せて悪いな」
「そう思うなら、普段のサービスに期待するわ」


 声をかけながら、パートナーの大ムカデに乗り背を向ける。


「あぁ、アツシ」
「ん?」
「これは私の勘でしかないのだけれど」
「いやな予感がするな……」


 エリスの勘はそれはもう予言と言っていいものだった。
 俺はこの言い方で出てきた発言内容が外れたことを、みたことがない。


「今回、大変になるのは多分こっち。任せたわ」
「まじか……」


 返事を聞くでもなく、森を走り去っていった。
 すでにエリスの姿は見えず、パートナーの長い長い胴だけが、景色に流されていくだけだ。


「アツシさん」
「あぁ」


 ちょうどよく、ミトラの食事が終わったようだった。


「美味しかった!!!」
「それは良かった。色々聞きたいこともあるんだけど、まぁ少しずつでいい。しばらくはつきあってくれるな?」
「なんか知らないけど、お前に着いていきたいってさ、身体が言う事を利かないんだよー。しょうがないからそうするさ」
「すぐまた自由になれる」
「そうかー!ならよかった!」


<a href="//26629.mitemin.net/i331255/" target="_blank"><img src="//26629.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i331255/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


 満面の笑みで答えるミトラに敵意はない。
 もはや何のために暴れていたのかすら忘れているような、そんな様子が感じ取れるほど、あっけらかんと、こちらへ笑みを向けていた。


「直接戦わずに済んだから良かったけど、エリスの立場でこれだと一発くらい殴りたくなったのかもなぁ」
「気持ちはわかりますけど……」


 だからこそエリスはさっさとこの場を去ったのだろう……。


「ミトラはいつからその状態に……?」
「お、そういえばこっちに来た時からあんまり記憶がないんだよー。あっ!お前がアツシだな!それは知ってるぞ!あとそっちのメスは……」
「ほのかです。よろしくお願いします」
「おー!よろしくお願いされてやるー!」


 じっとしていられないようで、隙あらばキョロキョロ辺りを伺ったり、木に登っては降りたりをしながらも、なんとか会話は成立していた。
 まだ魔法がかかっているのか元々こういう性格なのかわからないが、多分後者なんだろうな……。


「可愛いですね」
「獣人だから俺やほのかより歳上ってことも、結構あり得るんだけどな」
「まあほら、歳上でも可愛いとかは可愛いんですよ?」
「そんなものか……」


 ほのかの視線が妙に優しいのは気のせいだと思いたい。
 もうすこししっかりと、年齢差分くらいは頼れる存在でいようと心を引き締めた。



「旧 ペットショップを異世界にて」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く