旧 ペットショップを異世界にて
逆鱗
店を多いつぶすように降り注ぐ光の柱。
よく見れば炎の魔法を何人もの魔術師が支えており、時間をかけて用意していたことがわかる。
デインの私兵団一人ひとりは実際、普段からエリスに見慣れている俺としてはたいした力はなかった。
だが、時間と人数をかければ、大魔法を行使できるくらいには、訓練されてきたらしい。
正直、デインを甘く見すぎていた。
勝ち誇るデインの表情に苛立ちを覚える。
こいつは今、目の前にいる俺ではなく、わざわざ店にいる生き物達への攻撃を選んだわけだ。
「サモン!!!」
店へ魔法が降り注ぐより早く、まずは避難が必要な生体全て召還を行う。
別にこれは必ずしも必要なわけではないが、次の手を考えて特に敷地の外にいたものは一斉に喚び寄せる。
同時に契約にいたっていない保護していた動物達を守るため、プロテクトをかける。自分の身は自分で守れるだろうとは思っているものの、店にはミーナもいるからな。
プロテクトの手段としては、魔法の利かない、あるいは魔法を反射する魔獣たちをかき集めて上空で盾になってもらう。希少だが魔力を餌とする魔獣にも出てきてもらおう。
俺の動きとほとんど同時に、背後で魔力が膨れ上がったのを感じた。
「ほのか、こっちは大丈夫だ。ほのかは別の仕事を」
「っ!わかりました!」
後ろに構えていた唯一Aランクを擁したパーティーが、この隙に動き出したのが見えた。先ほどまでの地点から姿を消している。
「ホーリープリズン!」
ほのかはすぐにそれに気づき、しっかり位置を確認していた。
「捕まえたら人数と中身を確認。ここで入れ替わるやつもいる」
「わかりました!」
あちらはほのかに任せるとしよう。十中八九、協会の人間でいいだろう。
さて……。
「貴様……何を……」
「もちろん、覚悟があっての行動だろうな?」
デインが後ずさる。それも仕方ないだろう。
俺の周囲には今、店にいた戦闘能力のある魔獣たちが大量に控えているわけだ。
冒険中、テイム済みでない魔獣にこれだけ囲まれれば俺もおそらく死を覚悟する。それだけの数と、それだけの個体たちだ。
竜1匹でCやDランクからすれば出会った時点で終わりのイレギュラーなボスモンスターになる。
ざっと数えて20の魔物。その全てが竜と同等とはいかずとも、それなりの力を持った魔獣たち。
四足の胴からその数倍の長さになる尾を伸ばす魔獣、身体を巡る魔力が強力すぎて角から常に炎や雷、風を巻き起こす魔獣、10対20の羽根を羽虫のように小刻みに震わせハチドリのように上空に留まる魔獣……。
そのどれもが一様に、敵意を露わにしている。
「くそっ。いいのか?私は貴族、つまり国の」
「黙れ」
後ろに控える私兵団は、もともとデインの指示なしでは動けるようなやつらではない。
冒険者はほのかが捕らえたパーティー以外、この状況に対応できるようなやつもいなかった。
孤立するデインのうしろから、声が漏れ聞こえていた。
「俺達、死ぬのか……?」
「噂では、聞いたことあったんだ。魔獣屋のランク……」
「見たやつらの話じゃBかそこらって、いやそれでも俺達じゃ勝てなくても、数がいればって」
「これが全部魔獣屋の力って考えたら」
「ギルドランキングにも入ってなかったのに!?」
「それでもだ!この結果がそうだろう!?」
「特Sランク……」
「そんなのが、2人も……」
すでに逃げるにも手遅れだった。それぞれの魔獣が、射程圏内に冒険者達も捕らえている。
別に敵意があるわけではなく、余計な動きをされないようにという牽制にすぎないわけだが。
「うちの店に手を出すことは、そこにいる多くの命に手を出したというわけだが、それはわかっているのか?」
「ふんっ。所詮は獣、ましてや人に危害を加える害獣だろう?そんなものを多少殺したところで誰が私を責める?お前以外、誰が私を?」
「お前にとって意味のない命だとしても、それを家族として迎え入れる予定のある家庭だってある」
「そんな気の狂った連中、どうでもよかろう」
「そうか……」
分かり合えない人種というのはいる。
いやまぁ、この世界はペットという概念はない。言ってしまえばその辺のイノシシやクマを飼おうという話だったわけだし、言い分はわからなくはないけどな。
だが、それを許すかどうかは別問題だ。
「お前が動物達に対して何を思うのも勝手だが、少なくともうちのやつらに手を出した。まさか一方的に攻撃をして終わりとは、思っていないだろうな?」
「私を誰だと思っている?薄汚い獣どもと一緒にするな。私に危害を加えたら」
「ふんっ!」
思い切り殴り飛ばした。
魔獣たちにやらせなかっただけ、ましだと思ってほしい。
「貴様!?」
すぐさま私兵団が駆け寄ってくるが、魔獣がいるため俺を取り押さえることはできない。
逆に俺もデインを射程の外に出してしまったので、これ以上は難しそうだった。
「これで済んだのは運がよかったと思え」
「くっ……」
「その気になればこいつらに直接やらせても良かったんだぞ?」
気丈に振る舞っていたデインの顔から一瞬、血の気が引く様子が見えた。
一度攻撃を受けて痛みが現実味を帯びたせいだろう。
この間、冒険者は身動きがとれずに固まっていた。
何人かは絶望の色を瞳に宿らせている。そんなひどいことしないのに……。
にしても、もう少しましなランクは集められなかったんだろうか。
Sランクだってまだちらほらはギルドにいたはずだが。
「言ったでしょう?力のある冒険者にはすでに話を通していってるって」
心の中の疑問を読んだかのように、ミーナが姿を現した。
「いいのか?」
「ええ、エリスから、すでに森にいた諜報員は捕らえたって」
「ミーナ……様?!」
苦し紛れながら威厳を保っていたデインの表情が崩れていく。自分の犯した罪の大きさを自覚し始めたらしい。
「これは……」
「さっき、何かすごい魔法が私のところに飛んできたのよね」
「そんな……これは一体……」
青ざめ、それを超えて顔面は白くなるデイン。
自分がやったことは、うちの店を、うちの生体を攻撃しただけではすまなかったということに、ようやく気がついたらしい。
「さて、どうする」
「いや、私にはまだ、国の使命を背負っていたという」
蒼白となったデインがぶつぶつと何かをつぶやき続ける。
戦意がなくなったにしては様子がおかしいな。
「違う。ここでこいつを抑えること、それが……!」
突如、デインの腕から魔力が湧き上がる。
目の前にいた俺にまっすぐ向けた腕から、小さな光の玉が射出された。
「お前だけは!私をコケにしたお前だけは……!」
「変なプライドだけで、人生を棒に振ったな」
デインが魔法使いだったことには驚いたものの、大したものではない。
軌道を変えて、ミーナに光の玉を誘導した。
「えっ?!ちょっと!」
控えていた光の剣を振り払い、光の玉を叩き落すミーナ。
「いい度胸ね?あなた」
「そんなっ!?私はミーナ様へは決して……」
「あんたの処分はおいおい考えるとして、まずは落とし前をつけてもらいましょうか」
「へっ?」
言うが早いか、ミーナの手に握られた光の剣がまっすぐにデインの眼前を通過した。
バサリと音を立て、自慢の髪と髭が地面に落ちる。
「気を失ったか」
「まぁいいわ。こんな三下はどうでも」
「それでも念のため捕らえておいたほうがいいだろう?」
「そうね」
何か良くわからない詠唱によって私兵団とデインを光の縄で縛り付けていく。
「あんたたちへの依頼は今を持って解除、いえ、変更ね。私の指示に従うこと。従う意思がないものは10秒以内にこの場を立ち去りなさい」
「待つ気がまったくないな」
「動く気もまったくないんだから、いいでしょう?」
呆然とする冒険者達を前に、一方的に依頼内容を変更、それを強要。
皇女はなんでもありだな……。
「さて、アツシ?」
「ん?」
「あんた今の……」
バレてたか……。まあそりゃそうだよな。俺より魔法適性が高い相手に誤魔化さないか。
「まあいいわ。余裕もないしね。許したわけではないけれど」
心配事が減ったのか増えたのかわからないことを言われつつも、その場はとりあえず矛を収めてくれた。
よく見れば炎の魔法を何人もの魔術師が支えており、時間をかけて用意していたことがわかる。
デインの私兵団一人ひとりは実際、普段からエリスに見慣れている俺としてはたいした力はなかった。
だが、時間と人数をかければ、大魔法を行使できるくらいには、訓練されてきたらしい。
正直、デインを甘く見すぎていた。
勝ち誇るデインの表情に苛立ちを覚える。
こいつは今、目の前にいる俺ではなく、わざわざ店にいる生き物達への攻撃を選んだわけだ。
「サモン!!!」
店へ魔法が降り注ぐより早く、まずは避難が必要な生体全て召還を行う。
別にこれは必ずしも必要なわけではないが、次の手を考えて特に敷地の外にいたものは一斉に喚び寄せる。
同時に契約にいたっていない保護していた動物達を守るため、プロテクトをかける。自分の身は自分で守れるだろうとは思っているものの、店にはミーナもいるからな。
プロテクトの手段としては、魔法の利かない、あるいは魔法を反射する魔獣たちをかき集めて上空で盾になってもらう。希少だが魔力を餌とする魔獣にも出てきてもらおう。
俺の動きとほとんど同時に、背後で魔力が膨れ上がったのを感じた。
「ほのか、こっちは大丈夫だ。ほのかは別の仕事を」
「っ!わかりました!」
後ろに構えていた唯一Aランクを擁したパーティーが、この隙に動き出したのが見えた。先ほどまでの地点から姿を消している。
「ホーリープリズン!」
ほのかはすぐにそれに気づき、しっかり位置を確認していた。
「捕まえたら人数と中身を確認。ここで入れ替わるやつもいる」
「わかりました!」
あちらはほのかに任せるとしよう。十中八九、協会の人間でいいだろう。
さて……。
「貴様……何を……」
「もちろん、覚悟があっての行動だろうな?」
デインが後ずさる。それも仕方ないだろう。
俺の周囲には今、店にいた戦闘能力のある魔獣たちが大量に控えているわけだ。
冒険中、テイム済みでない魔獣にこれだけ囲まれれば俺もおそらく死を覚悟する。それだけの数と、それだけの個体たちだ。
竜1匹でCやDランクからすれば出会った時点で終わりのイレギュラーなボスモンスターになる。
ざっと数えて20の魔物。その全てが竜と同等とはいかずとも、それなりの力を持った魔獣たち。
四足の胴からその数倍の長さになる尾を伸ばす魔獣、身体を巡る魔力が強力すぎて角から常に炎や雷、風を巻き起こす魔獣、10対20の羽根を羽虫のように小刻みに震わせハチドリのように上空に留まる魔獣……。
そのどれもが一様に、敵意を露わにしている。
「くそっ。いいのか?私は貴族、つまり国の」
「黙れ」
後ろに控える私兵団は、もともとデインの指示なしでは動けるようなやつらではない。
冒険者はほのかが捕らえたパーティー以外、この状況に対応できるようなやつもいなかった。
孤立するデインのうしろから、声が漏れ聞こえていた。
「俺達、死ぬのか……?」
「噂では、聞いたことあったんだ。魔獣屋のランク……」
「見たやつらの話じゃBかそこらって、いやそれでも俺達じゃ勝てなくても、数がいればって」
「これが全部魔獣屋の力って考えたら」
「ギルドランキングにも入ってなかったのに!?」
「それでもだ!この結果がそうだろう!?」
「特Sランク……」
「そんなのが、2人も……」
すでに逃げるにも手遅れだった。それぞれの魔獣が、射程圏内に冒険者達も捕らえている。
別に敵意があるわけではなく、余計な動きをされないようにという牽制にすぎないわけだが。
「うちの店に手を出すことは、そこにいる多くの命に手を出したというわけだが、それはわかっているのか?」
「ふんっ。所詮は獣、ましてや人に危害を加える害獣だろう?そんなものを多少殺したところで誰が私を責める?お前以外、誰が私を?」
「お前にとって意味のない命だとしても、それを家族として迎え入れる予定のある家庭だってある」
「そんな気の狂った連中、どうでもよかろう」
「そうか……」
分かり合えない人種というのはいる。
いやまぁ、この世界はペットという概念はない。言ってしまえばその辺のイノシシやクマを飼おうという話だったわけだし、言い分はわからなくはないけどな。
だが、それを許すかどうかは別問題だ。
「お前が動物達に対して何を思うのも勝手だが、少なくともうちのやつらに手を出した。まさか一方的に攻撃をして終わりとは、思っていないだろうな?」
「私を誰だと思っている?薄汚い獣どもと一緒にするな。私に危害を加えたら」
「ふんっ!」
思い切り殴り飛ばした。
魔獣たちにやらせなかっただけ、ましだと思ってほしい。
「貴様!?」
すぐさま私兵団が駆け寄ってくるが、魔獣がいるため俺を取り押さえることはできない。
逆に俺もデインを射程の外に出してしまったので、これ以上は難しそうだった。
「これで済んだのは運がよかったと思え」
「くっ……」
「その気になればこいつらに直接やらせても良かったんだぞ?」
気丈に振る舞っていたデインの顔から一瞬、血の気が引く様子が見えた。
一度攻撃を受けて痛みが現実味を帯びたせいだろう。
この間、冒険者は身動きがとれずに固まっていた。
何人かは絶望の色を瞳に宿らせている。そんなひどいことしないのに……。
にしても、もう少しましなランクは集められなかったんだろうか。
Sランクだってまだちらほらはギルドにいたはずだが。
「言ったでしょう?力のある冒険者にはすでに話を通していってるって」
心の中の疑問を読んだかのように、ミーナが姿を現した。
「いいのか?」
「ええ、エリスから、すでに森にいた諜報員は捕らえたって」
「ミーナ……様?!」
苦し紛れながら威厳を保っていたデインの表情が崩れていく。自分の犯した罪の大きさを自覚し始めたらしい。
「これは……」
「さっき、何かすごい魔法が私のところに飛んできたのよね」
「そんな……これは一体……」
青ざめ、それを超えて顔面は白くなるデイン。
自分がやったことは、うちの店を、うちの生体を攻撃しただけではすまなかったということに、ようやく気がついたらしい。
「さて、どうする」
「いや、私にはまだ、国の使命を背負っていたという」
蒼白となったデインがぶつぶつと何かをつぶやき続ける。
戦意がなくなったにしては様子がおかしいな。
「違う。ここでこいつを抑えること、それが……!」
突如、デインの腕から魔力が湧き上がる。
目の前にいた俺にまっすぐ向けた腕から、小さな光の玉が射出された。
「お前だけは!私をコケにしたお前だけは……!」
「変なプライドだけで、人生を棒に振ったな」
デインが魔法使いだったことには驚いたものの、大したものではない。
軌道を変えて、ミーナに光の玉を誘導した。
「えっ?!ちょっと!」
控えていた光の剣を振り払い、光の玉を叩き落すミーナ。
「いい度胸ね?あなた」
「そんなっ!?私はミーナ様へは決して……」
「あんたの処分はおいおい考えるとして、まずは落とし前をつけてもらいましょうか」
「へっ?」
言うが早いか、ミーナの手に握られた光の剣がまっすぐにデインの眼前を通過した。
バサリと音を立て、自慢の髪と髭が地面に落ちる。
「気を失ったか」
「まぁいいわ。こんな三下はどうでも」
「それでも念のため捕らえておいたほうがいいだろう?」
「そうね」
何か良くわからない詠唱によって私兵団とデインを光の縄で縛り付けていく。
「あんたたちへの依頼は今を持って解除、いえ、変更ね。私の指示に従うこと。従う意思がないものは10秒以内にこの場を立ち去りなさい」
「待つ気がまったくないな」
「動く気もまったくないんだから、いいでしょう?」
呆然とする冒険者達を前に、一方的に依頼内容を変更、それを強要。
皇女はなんでもありだな……。
「さて、アツシ?」
「ん?」
「あんた今の……」
バレてたか……。まあそりゃそうだよな。俺より魔法適性が高い相手に誤魔化さないか。
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