旧 ペットショップを異世界にて
フェイクエッグ
「まあ、悩んでいても仕方ない。一つずつ片付けるか」
「どこからいくんですか?」
「エリスのところ、だな」
魔獣は落ち着き、協会側に動きはない。となれば、動く先は自ずとそこになる。
「協会側が動いたときに挟み撃ちの形を取れるのが理想かと思ってたけどな。このままエリスたちが背後を気にしながら戦うんじゃ意味もない」
「なるほど……」
「といっても、すぐに収束させられなければ俺たちが挟み撃ちに合う形になるんだけどな」
手紙にミーナたちからの指示はなかったし、動きたいように動けということだろう。
「ちょっと頼みたいんだけど、いいか?」
「はい!なんでしょうか!?」
荷物の底の方から、予め魔法陣の描き込まれた紙を取りだす。
「これに魔力を、なるべく籠めておいてくれるか?」
「魔力を……?」
「そこまでは習ってないか?エリスに」
「いえ!魔道具の使い方と一緒で、魔力を流し込めばいいってことですよね?」
「そうそう」
ほのかに何枚か紙を渡しながら説明を続ける。
「指定したポイントで召喚を行えるようにするエリスオリジナルの魔法なんだけどな。俺の魔力だとほとんど役にたたなかったけど、ほのかなら話は変わるから使ってみようかと思って」
「魔力量で召喚させられる魔獣が変わる、とかですか?」
「正解。普段は契約上、パートナーたちに負担してもらってるところを、こっちが負担して出てきてもらうってわけだ」
「なるべくたくさん魔力を流し込めば、それだけ強力な味方を呼べるってことですね!」
「あぁ、もちろんほのかの負担にならない程度でいいからな。このあとほのかに直接戦ってもらうつもりはないにしても、身を守るだけの分は確保しておいてくれ」
「わかりました!」
サモナーである俺の能力を前提としてエリスが作ったものだが、蓄えた魔力は使っていなくても徐々に消費されていくという性質がある。そのため、使用する直前で魔力を流し込まなければ使えないわけだが、俺は自分で使える魔力量がこの魔方陣に対しては小さすぎたので、実質お蔵入りしていたアイテムだった。
「このくらいでいいですか……?」
「おぉ……十分だろう」
いつの間にか紙に描かれた魔法陣が光り輝いている。
エリスが実演して以来見たことなかったな……。俺がやってもせいぜい、豆電球が付いてるか付いてないかのレベルにしかならない。言ってて悲しくなるな……やめよう。
「そのままこの地点に設置していくことで、俺がここにいなくてもここでパートナーを召喚できる……はずだ」
効果はエリスが説明してくれて一度使っているからわかるものの、いまいち自信がない。使わないで良いことを祈るとしよう。
「挟み撃ちになっても大丈夫ってことですね!」
「そうだな。まあでも、これはあくまで保険だ。行ってすぐ問題を片付けるに越したことはない」
「はい!」
久々の出番で嬉しかったのか、ほのかのテンションが上っている。それだけで良かったとしよう。
「このままトパーズちゃんでいくんですよね?」
「そうだな。ただ、もう少し細工はしていこう。サモン」
呼び出したそれが、空を曇らせる。
「大きい……!」
「大きいだけだけどな」
現れたのは巨大な風船。良く見るとそれぞれが動物をかたどっている。
わかりやすいものならふぐ。変わり種でいえばへび……ほとんどツチノコもびっくりな比率にはなっているが。
「向こうでであったクジラの、力も害もないバージョンって感じだな。サイズもまあ、3分の1くらいだ」
「それを5体も……?」
「生まれたからな」
「5体もですか?!」
「まあ卵を持ち帰ってこうなった、ってだけだから育てたわけじゃないけどな」
元の世界でも、蛇を採取する手段として、野生の卵を回収し、そこから管理するという形は比較的メジャーな手法だった。
野生個体をWCと書いてワイルドコート、人工飼育下で生まれた個体をCB、キャプティブブリードと呼ぶのに対し、こういった野生化の卵を回収して得られた個体はFH、ファームハッチと呼ばれる。ここから新しい色や柄を持った個体が採取できることも多い。
「こいつら面白くてな、膨らんでるところはほとんど実体がないんだよ」
喋りながら空中で浮遊する5体の魔獣に水鉄砲のような魔法を放つ。
指先から飛び出した水は、風船をすり抜けてそのまま重力に支配化へと飛び出していく。
「幻術……?ですか?」
「そういう部分もあるって感じだな。まあ飾りだ。こんなわけわからんもんがいたらこっちにある程度釘付けにできるだろう」
「それにしても……シュールですね」
「モチーフをどうやって選んでるかは分からんけどな……多分生まれて初めて出会った動物に擬態……この場合擬態って言えるのかはわからんけど、してるってことになるんだろうな」
ほのかの言うとおり、森の上空を動物をかたどった変な形の巨大な風船が覆い尽くす光景は、シュール以外の何物でもない。
「まあでも、協会側としてこの光景は新しい実験結果と捉えられることになりうるから、注目はせざるを得ないだろうし、少なくともこいつらのいるところに何かあると思わせられる」
「実際に召喚に使う魔法陣と位置がかぶっていたら、壊されたりって……?」
「位置は多少ずらす、というか、こいつらは囮でしかないし、まだトパーズの力で外には見せてない。ここからすこし移動はしてもらうし、そもそも魔獣は俺のオリジナル、魔法陣はエリスのオリジナルとなると打つ手もないだろ」
「なんというか……やっぱりお二人って、すごいですね……」
「まぁこれに関してはお互い趣味みたいなもんだからな」
魔獣のブリードなんてものは考えた奴はいないだろう。すごいといえばすごいのかもしれないが、なんともいえないな……。
魔法陣の開発は、考えたことはもちろんあるだろうが、普通は組織的に、あるいは国をあげてようやく1つ魔法を作り上げるようなものだ。こんなほいほい新しい魔法を作れるエリスはまぁ、異常だろう。本人はたまたまだと言っていたが。
「ちなみにそいつ、フェイクエッグって名前の魔獣なんだよ」
「フェイクエッグ?」
「本来は山の上の方にいる雷鳥とか竜種とか、強力な魔獣たちの卵に擬態してる」
「なるほど……!だから膨らむんですか!」
「そうそう。常にどこかの巣の中で卵にまぎれて大人しくしてる。カッコウみたいに自分以外の雛を殺したりはしないし、他の卵を食ってるわけでもなさそうなんだよな。むしろ他の卵が孵ったら自分が餌になるから、その時はまたふわふわ浮いて別の巣に入り込む。魔力的なエネルギーを吸収して生きてるかもな」
「そういう生き物も、いるんですか?」
「エルフとかはそうだな」
「え……エリスさんも……?」
「あいつは……まあでも食わないでいようと思えば100年くらいはいけるって聞いたことはあるしな。上位存在になればなるほど、そういうのだけで生きていけるらしい。そうはいってもこいつらが上位存在なのかと言われればなぞだけど……」
ふわふわと浮かぶシュールな風船たちを眺めて言う。
こいつらとエルフが同じというのはまあ、失礼な話か……。
「どこからいくんですか?」
「エリスのところ、だな」
魔獣は落ち着き、協会側に動きはない。となれば、動く先は自ずとそこになる。
「協会側が動いたときに挟み撃ちの形を取れるのが理想かと思ってたけどな。このままエリスたちが背後を気にしながら戦うんじゃ意味もない」
「なるほど……」
「といっても、すぐに収束させられなければ俺たちが挟み撃ちに合う形になるんだけどな」
手紙にミーナたちからの指示はなかったし、動きたいように動けということだろう。
「ちょっと頼みたいんだけど、いいか?」
「はい!なんでしょうか!?」
荷物の底の方から、予め魔法陣の描き込まれた紙を取りだす。
「これに魔力を、なるべく籠めておいてくれるか?」
「魔力を……?」
「そこまでは習ってないか?エリスに」
「いえ!魔道具の使い方と一緒で、魔力を流し込めばいいってことですよね?」
「そうそう」
ほのかに何枚か紙を渡しながら説明を続ける。
「指定したポイントで召喚を行えるようにするエリスオリジナルの魔法なんだけどな。俺の魔力だとほとんど役にたたなかったけど、ほのかなら話は変わるから使ってみようかと思って」
「魔力量で召喚させられる魔獣が変わる、とかですか?」
「正解。普段は契約上、パートナーたちに負担してもらってるところを、こっちが負担して出てきてもらうってわけだ」
「なるべくたくさん魔力を流し込めば、それだけ強力な味方を呼べるってことですね!」
「あぁ、もちろんほのかの負担にならない程度でいいからな。このあとほのかに直接戦ってもらうつもりはないにしても、身を守るだけの分は確保しておいてくれ」
「わかりました!」
サモナーである俺の能力を前提としてエリスが作ったものだが、蓄えた魔力は使っていなくても徐々に消費されていくという性質がある。そのため、使用する直前で魔力を流し込まなければ使えないわけだが、俺は自分で使える魔力量がこの魔方陣に対しては小さすぎたので、実質お蔵入りしていたアイテムだった。
「このくらいでいいですか……?」
「おぉ……十分だろう」
いつの間にか紙に描かれた魔法陣が光り輝いている。
エリスが実演して以来見たことなかったな……。俺がやってもせいぜい、豆電球が付いてるか付いてないかのレベルにしかならない。言ってて悲しくなるな……やめよう。
「そのままこの地点に設置していくことで、俺がここにいなくてもここでパートナーを召喚できる……はずだ」
効果はエリスが説明してくれて一度使っているからわかるものの、いまいち自信がない。使わないで良いことを祈るとしよう。
「挟み撃ちになっても大丈夫ってことですね!」
「そうだな。まあでも、これはあくまで保険だ。行ってすぐ問題を片付けるに越したことはない」
「はい!」
久々の出番で嬉しかったのか、ほのかのテンションが上っている。それだけで良かったとしよう。
「このままトパーズちゃんでいくんですよね?」
「そうだな。ただ、もう少し細工はしていこう。サモン」
呼び出したそれが、空を曇らせる。
「大きい……!」
「大きいだけだけどな」
現れたのは巨大な風船。良く見るとそれぞれが動物をかたどっている。
わかりやすいものならふぐ。変わり種でいえばへび……ほとんどツチノコもびっくりな比率にはなっているが。
「向こうでであったクジラの、力も害もないバージョンって感じだな。サイズもまあ、3分の1くらいだ」
「それを5体も……?」
「生まれたからな」
「5体もですか?!」
「まあ卵を持ち帰ってこうなった、ってだけだから育てたわけじゃないけどな」
元の世界でも、蛇を採取する手段として、野生の卵を回収し、そこから管理するという形は比較的メジャーな手法だった。
野生個体をWCと書いてワイルドコート、人工飼育下で生まれた個体をCB、キャプティブブリードと呼ぶのに対し、こういった野生化の卵を回収して得られた個体はFH、ファームハッチと呼ばれる。ここから新しい色や柄を持った個体が採取できることも多い。
「こいつら面白くてな、膨らんでるところはほとんど実体がないんだよ」
喋りながら空中で浮遊する5体の魔獣に水鉄砲のような魔法を放つ。
指先から飛び出した水は、風船をすり抜けてそのまま重力に支配化へと飛び出していく。
「幻術……?ですか?」
「そういう部分もあるって感じだな。まあ飾りだ。こんなわけわからんもんがいたらこっちにある程度釘付けにできるだろう」
「それにしても……シュールですね」
「モチーフをどうやって選んでるかは分からんけどな……多分生まれて初めて出会った動物に擬態……この場合擬態って言えるのかはわからんけど、してるってことになるんだろうな」
ほのかの言うとおり、森の上空を動物をかたどった変な形の巨大な風船が覆い尽くす光景は、シュール以外の何物でもない。
「まあでも、協会側としてこの光景は新しい実験結果と捉えられることになりうるから、注目はせざるを得ないだろうし、少なくともこいつらのいるところに何かあると思わせられる」
「実際に召喚に使う魔法陣と位置がかぶっていたら、壊されたりって……?」
「位置は多少ずらす、というか、こいつらは囮でしかないし、まだトパーズの力で外には見せてない。ここからすこし移動はしてもらうし、そもそも魔獣は俺のオリジナル、魔法陣はエリスのオリジナルとなると打つ手もないだろ」
「なんというか……やっぱりお二人って、すごいですね……」
「まぁこれに関してはお互い趣味みたいなもんだからな」
魔獣のブリードなんてものは考えた奴はいないだろう。すごいといえばすごいのかもしれないが、なんともいえないな……。
魔法陣の開発は、考えたことはもちろんあるだろうが、普通は組織的に、あるいは国をあげてようやく1つ魔法を作り上げるようなものだ。こんなほいほい新しい魔法を作れるエリスはまぁ、異常だろう。本人はたまたまだと言っていたが。
「ちなみにそいつ、フェイクエッグって名前の魔獣なんだよ」
「フェイクエッグ?」
「本来は山の上の方にいる雷鳥とか竜種とか、強力な魔獣たちの卵に擬態してる」
「なるほど……!だから膨らむんですか!」
「そうそう。常にどこかの巣の中で卵にまぎれて大人しくしてる。カッコウみたいに自分以外の雛を殺したりはしないし、他の卵を食ってるわけでもなさそうなんだよな。むしろ他の卵が孵ったら自分が餌になるから、その時はまたふわふわ浮いて別の巣に入り込む。魔力的なエネルギーを吸収して生きてるかもな」
「そういう生き物も、いるんですか?」
「エルフとかはそうだな」
「え……エリスさんも……?」
「あいつは……まあでも食わないでいようと思えば100年くらいはいけるって聞いたことはあるしな。上位存在になればなるほど、そういうのだけで生きていけるらしい。そうはいってもこいつらが上位存在なのかと言われればなぞだけど……」
ふわふわと浮かぶシュールな風船たちを眺めて言う。
こいつらとエルフが同じというのはまあ、失礼な話か……。
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