旧 ペットショップを異世界にて
選択
「まだ動きはなしだな」
夜明け前には起きてトパーズから様子を伺っていたが、目立った動きはなかった。
「ん?おはようございます?」
「あぁ、おはよう」
目をこすりながらほのかが起き上がる。
「私……あれ?森は?」
「大丈夫。森の魔物たちは夜が明けてからおとなしくなってる」
「そうなんですね」
危険度の高い魔物の多くは夜行性である。今回の魔法で、森の魔物が異常な行動に走ることは、ジャングルメットでわかっている。
ただこれは、あくまでも本能の延長線上という要素が強いこともわかった。
「全体が発情期と同じような暴れ方なんだよな。縄張り争いが激しくなったり、ただ気性が荒くなったりって要素が強いみたいだ」
「アツシさん、寝ずに確認していたんですか?すみません私だけ……」
「いや、俺も寝たよ。起きてから見てただけだ」
「そうなんですね……でも私ばかりゆっくりしてすみません」
「気にすることはない。ほのかはここからしっかり働いてもらうしな」
「はい!」
ほのかが起きたということは、時間的に手紙も用意されてるだろうな。
「サモン」
「1枚ですね」
「まあ、今までがイレギュラーだっただけだからな」
手紙の内容は
「あー……」
ほのかと同時にため息が漏れる。
「言った通り、面倒な客だったな……」
手紙には昨晩、例の貴族と一悶着あったことが書かれている。最後まで読めてはいないが、エリスとまた揉めた様子が事細かに記載されている。
「エリスもよく我慢したな……」
「アツシさん、これ、急いだ方がいいんじゃないですか?」
「ん?」
途中で手紙から目を離していたが、視線を戻す。読み進めると確かに、急いだ方が良いだろう内容になっている。
「森の掃討作戦をギルドに依頼したわけか……」
「で、正式な依頼だからと押し通そうとしてるってことですよね?アツシさんのお店ごと……」
「そうなるな」
例の貴族はオルドル男爵家の人間だった。予想したほど悪質ではなかったため、うちの店が潰れてから動くというようなタイプではなかったものの、いち早く功績を立てるために森へ掃討作戦をかけたいという気持ちが全面に押し出されすぎている。その考えで来られる場合、うちの店は非常に邪魔な存在だろう。
だが、俺たちの目的は森の鎮圧ではなく、戦争の回避だ。森の鎮圧だけなら正直、全戦力をそこに当てれば何も問題ないわけで、当然オルドルに出番はない。まあそんなこと知らない人間からすれば、スピーディーに問題を片付ければそれだけ国へアピールできると思うわけだな……。
「大丈夫なんですか?」
「まあ、エリスがいるからな」
「でも、貴族って……」
「その点は大丈夫だろ。うちは皇族がバックだ」
「あぁ……」
まだミーナは表に出られない。皇族が現れたとなれば、皇国、協会としても迂闊に動けなくなり、この件を隠蔽して雲隠れされる可能性が高い。そうなると、ここまで水面下で動きが進んだ戦争の流れを止める機会は、なかなか難しいものになるというわけだ。
ただ、そうはいっても何かあればミーナの後ろ盾があるというのは大きい。むしろその状況を知らずに1人空回りを続けるオルドルが哀れに思えてくるな……。
「ほのかに言ってなかったかもしれないけど、ギルドは一応、上位の冒険者にはランク付けしてるんだよ」
「そうなんですか?」
「公開されてるのはトップ10だけどな」
この制度は基本的にどのギルドでもやってるものらしい。
まあ、こんなところにいて直接関わるようなギルドは、北部のものしかないので、知っているのは2つしかないわけだが。
「で、エリスは南部ギルドの2位だ」
「えっ!?」
「ランキングは依頼の達成ポイントがメインだけど、実質強さランキングと考えていい」
「じゃあアツシさんが1位なんですよね?」
ほのかの目がキラキラしている。
「いや、期待させたようで申し訳ないけど、俺はランク外だよ」
「そうなんですか?!10人も特Sランクがいるってことですか……?」
「いや、俺はあくまで冒険者は副業って位置付けにしてたからな。単純にポイントが低い。あと、期待させて悪いんだが、俺は弱いぞ?」
「そんなことないですよ!」
憤慨したように否定するほのか。
少しいいところを見せすぎていたかもしれない……。
「俺自身のランクでいえば正直、Bランクがそこそこだろうな。パートナーがいて初めてこれだ」
「それもアツシさんの力なんですから、もっと自信を持ってください!」
「おぉ……」
ほのかが思いの外強く訴えかけてくる。
「パートナーを含めた強さなら1位ですよね?」
「いや、それもわからん」
「エリスさんの方が強いんですか……?」
「どうだろうな……条件によるだろうけど……」
エリスにパートナーを譲ったのは俺だが、そもそも相手はエルフ。魔力が桁違いだ。
パートナーを使いこなす技術云々以前に、力押しされてしまえばそれまでな気もする。
「まあそれ以前に、1位が強すぎる、というか、得体がしれなすぎるからな」
「アツシさんより得体が知れないんですか……?」
その評価は地味に傷つくな……。
「何年も姿を見せてないからな。過去の実績が大きすぎて誰も抜けないんだよ。そう簡単に死ぬようなことはないから、どっかでなんかはしてるんだろうけど」
「アツシさんは会ったことがあるんですか?」
「1回だけな……」
その時はまあ、そんなすごいやつだとは知らずに出会って、それっきりだが。
「話が逸れた。とにかくエリスとミーナがいる以上、向こうがそうまずいことになることは……あー……」
手紙を読み進めて状況が変わる。
エリスはすでに例のオオムカデのパートナーを召喚して臨戦態勢らしい。冒険者たちは当然、エリスの実力を知っている。普通に考えて戦おうなどと思うバカはいないはずだが、今回に限っては少し状況が悪い。
今回の掃討作戦はオルドルが出した依頼だが、形式としては国からの依頼としてギルドに貼り出されている。
「これはちょっと、うちの店の前でエリスに暴れられても困るしなぁ……」
「どうしますか?」
「んー……」
集まった冒険者たちも、まさか国の依頼を受けたらSランク冒険者が立ちはだかることになるとは思っていなかっただろう。様子がおかしいことから、ひとまずは静観を決め込んでいるらしいが、どうなるかわからない。
思い通りに動かない冒険者、真っ向からぶつかってくるエリス……。
逆に貴族がよく我慢したなと思ったが、その我慢も限界に達するのは時間の問題だ。
「魔獣の性質なんかろくに考えない協会が、森が妙に落ち着いたことで直接ことを構える準備に入ってる可能性も高い」
そもそも魔獣の性質をわかっていれば、もう少しましな作戦を立てられるはずだ。
「で、森の外では応援に来たはずの貴族が我慢の限界……」
「ベルさんたちも心配ですね……」
「さて、どうしたものかね……」
夜明けが訪れた森の上空で、二人で頭を悩ませた。
夜明け前には起きてトパーズから様子を伺っていたが、目立った動きはなかった。
「ん?おはようございます?」
「あぁ、おはよう」
目をこすりながらほのかが起き上がる。
「私……あれ?森は?」
「大丈夫。森の魔物たちは夜が明けてからおとなしくなってる」
「そうなんですね」
危険度の高い魔物の多くは夜行性である。今回の魔法で、森の魔物が異常な行動に走ることは、ジャングルメットでわかっている。
ただこれは、あくまでも本能の延長線上という要素が強いこともわかった。
「全体が発情期と同じような暴れ方なんだよな。縄張り争いが激しくなったり、ただ気性が荒くなったりって要素が強いみたいだ」
「アツシさん、寝ずに確認していたんですか?すみません私だけ……」
「いや、俺も寝たよ。起きてから見てただけだ」
「そうなんですね……でも私ばかりゆっくりしてすみません」
「気にすることはない。ほのかはここからしっかり働いてもらうしな」
「はい!」
ほのかが起きたということは、時間的に手紙も用意されてるだろうな。
「サモン」
「1枚ですね」
「まあ、今までがイレギュラーだっただけだからな」
手紙の内容は
「あー……」
ほのかと同時にため息が漏れる。
「言った通り、面倒な客だったな……」
手紙には昨晩、例の貴族と一悶着あったことが書かれている。最後まで読めてはいないが、エリスとまた揉めた様子が事細かに記載されている。
「エリスもよく我慢したな……」
「アツシさん、これ、急いだ方がいいんじゃないですか?」
「ん?」
途中で手紙から目を離していたが、視線を戻す。読み進めると確かに、急いだ方が良いだろう内容になっている。
「森の掃討作戦をギルドに依頼したわけか……」
「で、正式な依頼だからと押し通そうとしてるってことですよね?アツシさんのお店ごと……」
「そうなるな」
例の貴族はオルドル男爵家の人間だった。予想したほど悪質ではなかったため、うちの店が潰れてから動くというようなタイプではなかったものの、いち早く功績を立てるために森へ掃討作戦をかけたいという気持ちが全面に押し出されすぎている。その考えで来られる場合、うちの店は非常に邪魔な存在だろう。
だが、俺たちの目的は森の鎮圧ではなく、戦争の回避だ。森の鎮圧だけなら正直、全戦力をそこに当てれば何も問題ないわけで、当然オルドルに出番はない。まあそんなこと知らない人間からすれば、スピーディーに問題を片付ければそれだけ国へアピールできると思うわけだな……。
「大丈夫なんですか?」
「まあ、エリスがいるからな」
「でも、貴族って……」
「その点は大丈夫だろ。うちは皇族がバックだ」
「あぁ……」
まだミーナは表に出られない。皇族が現れたとなれば、皇国、協会としても迂闊に動けなくなり、この件を隠蔽して雲隠れされる可能性が高い。そうなると、ここまで水面下で動きが進んだ戦争の流れを止める機会は、なかなか難しいものになるというわけだ。
ただ、そうはいっても何かあればミーナの後ろ盾があるというのは大きい。むしろその状況を知らずに1人空回りを続けるオルドルが哀れに思えてくるな……。
「ほのかに言ってなかったかもしれないけど、ギルドは一応、上位の冒険者にはランク付けしてるんだよ」
「そうなんですか?」
「公開されてるのはトップ10だけどな」
この制度は基本的にどのギルドでもやってるものらしい。
まあ、こんなところにいて直接関わるようなギルドは、北部のものしかないので、知っているのは2つしかないわけだが。
「で、エリスは南部ギルドの2位だ」
「えっ!?」
「ランキングは依頼の達成ポイントがメインだけど、実質強さランキングと考えていい」
「じゃあアツシさんが1位なんですよね?」
ほのかの目がキラキラしている。
「いや、期待させたようで申し訳ないけど、俺はランク外だよ」
「そうなんですか?!10人も特Sランクがいるってことですか……?」
「いや、俺はあくまで冒険者は副業って位置付けにしてたからな。単純にポイントが低い。あと、期待させて悪いんだが、俺は弱いぞ?」
「そんなことないですよ!」
憤慨したように否定するほのか。
少しいいところを見せすぎていたかもしれない……。
「俺自身のランクでいえば正直、Bランクがそこそこだろうな。パートナーがいて初めてこれだ」
「それもアツシさんの力なんですから、もっと自信を持ってください!」
「おぉ……」
ほのかが思いの外強く訴えかけてくる。
「パートナーを含めた強さなら1位ですよね?」
「いや、それもわからん」
「エリスさんの方が強いんですか……?」
「どうだろうな……条件によるだろうけど……」
エリスにパートナーを譲ったのは俺だが、そもそも相手はエルフ。魔力が桁違いだ。
パートナーを使いこなす技術云々以前に、力押しされてしまえばそれまでな気もする。
「まあそれ以前に、1位が強すぎる、というか、得体がしれなすぎるからな」
「アツシさんより得体が知れないんですか……?」
その評価は地味に傷つくな……。
「何年も姿を見せてないからな。過去の実績が大きすぎて誰も抜けないんだよ。そう簡単に死ぬようなことはないから、どっかでなんかはしてるんだろうけど」
「アツシさんは会ったことがあるんですか?」
「1回だけな……」
その時はまあ、そんなすごいやつだとは知らずに出会って、それっきりだが。
「話が逸れた。とにかくエリスとミーナがいる以上、向こうがそうまずいことになることは……あー……」
手紙を読み進めて状況が変わる。
エリスはすでに例のオオムカデのパートナーを召喚して臨戦態勢らしい。冒険者たちは当然、エリスの実力を知っている。普通に考えて戦おうなどと思うバカはいないはずだが、今回に限っては少し状況が悪い。
今回の掃討作戦はオルドルが出した依頼だが、形式としては国からの依頼としてギルドに貼り出されている。
「これはちょっと、うちの店の前でエリスに暴れられても困るしなぁ……」
「どうしますか?」
「んー……」
集まった冒険者たちも、まさか国の依頼を受けたらSランク冒険者が立ちはだかることになるとは思っていなかっただろう。様子がおかしいことから、ひとまずは静観を決め込んでいるらしいが、どうなるかわからない。
思い通りに動かない冒険者、真っ向からぶつかってくるエリス……。
逆に貴族がよく我慢したなと思ったが、その我慢も限界に達するのは時間の問題だ。
「魔獣の性質なんかろくに考えない協会が、森が妙に落ち着いたことで直接ことを構える準備に入ってる可能性も高い」
そもそも魔獣の性質をわかっていれば、もう少しましな作戦を立てられるはずだ。
「で、森の外では応援に来たはずの貴族が我慢の限界……」
「ベルさんたちも心配ですね……」
「さて、どうしたものかね……」
夜明けが訪れた森の上空で、二人で頭を悩ませた。
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