旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

帰り道

「ミーナさん達は大丈夫でしょうか?」
「あぁ、大丈夫そうだよ」


 非常事態を伝えたミーナ達だったが、最悪の場合でもネロとベルの2人が仕事を完遂すれば、俺たちが遅れてもなんとかするという頼もしい返事が来ている。
 その代わり、ほのかを見つけるまで帰ってくるなと言うきつめのエールももらったが……。


 翼竜を帰すときに無事を伝える手紙を持たせたし、あっちは大丈夫だろう。


「連絡って、どうなってるんでしたっけ?」
「最低1日1回の連絡と、3時間おきの向こうからの近況報告って感じだな」
「そんな大雑把な感じで大丈夫なんですね?」


 3時間おきの方はリアルタイムで動きが伝わるが、こちらからの連絡はタイムラグが大きい。


「俺たちからしたらそうだけど、連絡手段の乏しいこっちではリアルタイムで情報をやり取りできる俺のスキルはある意味これだけで、チートだな」
「なるほど……昔読んだ漫画とかで見ましたけど、それって結構大きいんですよね?私あんまりわからなかったんですけど」
「今のところ俺も本以上の知識はないし、ありがたく感じる場面にも出会ってないけどな」


 そもそも一方通行では使い道が絞られすぎるという話もある。
 使いようによるんだろうけど、情報の有用性を感じるほど逼迫した状況に襲われることは、この5年ではなかったということだ。


「ちなみにベルたちもうまくいってるらしい」


 ベルたちに持たせたのは小型の鳥。サイズはセキセイインコに近いが、ヨウム並みに賢い鳥の魔獣だ。
 ほぼインコたちのイメージ通り、カラフルな色彩を纏うため、色によって状況を伝えさせている。
 狼煙のような使い方だ。


「なら、私たちは帰るだけですかね?」
「そろそろ次のやりとりの時間なんだよな。ちょうどいいし、受け取るか」


 サモナーなスキルを使う。
 目的が手紙だけだとしても、あくまで俺の能力は生物の召喚。手紙を持った動物を受け取る必要がある。
 あらかじめ設置した魔法陣に手紙を持った生物を配置してもらうことで、俺はその魔法陣を頼りに召喚すれば良いという状況を用意していた。


「多いな……」


 本来1通で十分のはずの手紙が3通。


「読んでみても良いですか?」
「ああ、手分けしよう」


 1つは定時連絡だった。
 エリスが店番をやってくれているので、その売り上げや集客の話。
 アランさんが来て一悶着あったらしいが、それも含めて平常運行だった。


「アツシさん……」


 問題は2つ目。


「あぁ」


 ベルたちがしくじった報告が1つ。


「森へ、魔法が使われました」


 協会が強硬策に出た報告が1つ。


「急ぐぞ!サモン!」
「はい!」


 数頭しかストックのいない白竜を召喚する。
 中でも特に早く飛べる2匹だ。


「全速力で。ほのか、捕まっておくように」
「わかりました……!」


 トパーズから乗り換える形で2匹の竜に跨る。
 安全性と確実性はトパーズだが、早さは竜。それも、1匹が1人を運ぶようにできれば効率は倍だ。


「ほんとはいきなり1人で乗せるようなもんじゃないけど、ほのかなら大丈夫だろ」
「この子すごくいい子なので、大丈夫です!」
「竜は賢いからな。ほのかの力を感じ取ってる」


 エルフには竜騎士や竜使いも多いが、エルフが竜を使いこなす最大の理由は本来の魔力の量によるものだと言われている。ほのかはその点でエルフを超えるわけだから、価値基準がそこにある相手なら敬意を持って接してくれるだろう。


「途中持ちうる限りの竜を乗り継ぐから、そのつもりで」
「早馬ですね!」
「そういうことだ」


 中継地点は勝手に作れる、都合のいい早馬だった。


「トパーズ、お前も1回、戻っとけ」
「そういえばハクは?」
「シロのアドバイスで残してきてる。やっぱり、本来の居場所にいたほうが都合の良いことも多いらしい」
「そうなんですね! 次呼んだ時はパワーアップしてたりして……?」
「よくわかったな。シロの狙いはそれだ」
「そんな1日やそこらで変わるんですか?!」
「あそこは時間の流れが特殊だからな……。まあギリギリまで呼び出すのは待つつもりだ」
「わかりました。さっきテイムした子たちも、神獣と呼べるくらいになって帰ってきてくれると頼もしいですね!」
「そうなってくれたら万々歳だけどな」


 あの後、シロの周りに集まった烏と狼は全てテイムを行ってきた。
 今回の騒動の鎮圧のために、圧倒的な物量でたたみかける作戦だ。もちろん1匹1匹の質も、通常の森の魔物には遅れなどとらない。たとえ魔法で暴走した相手だとしても。


「しくじったって言ってましたけど、ベルさんたちは大丈夫なんですか?!」
「わからん。けど鳥の魔獣で捕まったことを知らせてきたってことは、大丈夫だろう」
「そうですか……」


 生死に関わるトラブルの場合には別の信号を発信する手はずだ。
 そして、最悪の場合、死んだ時に発信される魔獣も用意してある。


「まぁ、協会としても龍を無理して殺そうとするくらいなら、生かして活用した方が良いと考えるだろ」
「そうなんですか?」
「龍種を本気で相手にするなら、協会の1/3の戦闘員を犠牲にする覚悟があるだろうからな……」
「それは……」


 それだけ、本来龍という生き物は格が違うということだ。
 ベルが良くも悪くもリミッターになっているため、ネロも大人しくしているだけだ。
 万が一協会が先にベルを殺してしまおうものなら、暴れ狂うネロを止めるまでにどれだけの被害をこうむるかわからない。下手をすれば北部ギルド自治区と皇国の地図を変えざるを得なくなるだろう。


「とりあえず、おそらく生け捕り。拷問も難しいから放置が妥当だろう。問題が解決すれば自動的に助けられるさ」
「そうですか……それなら、良かったです」


 安心するほのかだが、事態が好転したわけではない。


 協会が魔法を使ったということは、おそらく事実のもみ消しを図るためだ。
 向こうもネロやベルの後ろ盾は調査するだろうし、事前情報があれば簡単にうちにたどりつく。事情を知る関係者ごと潰してしまったほうが手っ取り早いと考えての強硬策だろう。


「対策なしならうちの店は大損害だったな」
「ハクとかトパーズがいても……あ、トパーズは戦えないんですもんね」
「そう。ハクはいいんだけどな。それ以外は戦闘能力が高い魔獣はプライドも高いから、劣勢になってから呼び出したんじゃこっちが舐められるしな」


 細かいようで、こういった一つ一つが信頼関係に結びついているわけだから無視はできない。
 なんせ自分より強いと思わせたからついてきた魔獣たちだ。無様な姿を晒しているようでは、根本が揺らぐ。


「でも、今回は大丈夫なんですよね?」
「どうかな……多分だけどな」
「アツシさんの場合、自信なさげにしている方が安心しますね」


 この旅で自信を持って臨んだ場面は大概散々な目にあってるからな……。否定はできない。


「森の鎮圧だけじゃなく、向こうの黒幕まで捕まえる必要があるからな……。この辺はミーナが良い手を考えてくれてると信じてるけど」


 まずは帰路を急ぐ。





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