旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

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「手紙も頼む。向こうに戻ったらとりあえずミーナに指示を」
「いやです」
  
 話をするにも森のど真ん中と言うのは無防備なので、再びトパーズには空飛ぶ絨毯、もとい、雲になってもらっている。
  
「え?」
「いやです! 私も一緒に行かせてください!」
  
 珍しくほのかが食い下がる。
  
「神獣領域はここより危ない。今回はたまたまいい相手に助けられたけど、次はない」
「それは …… 今回のことは …… 」
「あー……」  
  
 しまった。これだとまるでほのかを責めているようだな …… 。
 言い方を間違えた。
  
「ほのかが悪いわけじゃない。いつもより森が騒がしいってのを、少し軽く考えていたところもある。俺じゃ守り切れるかもわからないし、こっちがうまくいかない可能性も出てきてる。そうなったら、ほのかは向こうで戦力になってくれた方がいい」
  
 予備戦力としては十分すぎる素質がある。ミーナとエリスに加えてほのかがいれば、森の沈静化はともかく、森とギルド自治区の衝突は避けられるだろう。
  
「 …… 」
「本当はこの先のことも見せておきたかったけどな。今回は …… 」
「いや、やっぱり今回こそ、ついて行かないといけません!」
  
 頑なだな……。
  
「私が向こうに行ったとしても、今回の作戦がしっかり動くとは思えません。もしそうだったら、アツシさんもわざわざこんなところまで来ないはずですし、リスクが大きいならここで一緒に引き返すべきです」
「それは …… 」
「アツシさん、これはもう私たちだけの問題じゃないはずです。国が絡んでいるのだから、こちらの動きは絶対成功させるべきです。アツシさんが本当に私を戦力として扱ってくれているなら、危険があっても連れて行ってください」
「……」
  
 こうなると、無理に帰したとしても良い結果は生まれないか …… 。
  
「仕方ないか …… 」
「良かった …… 」
  
 こちらの表情が変わったのを感じとり、ほのかの表情が和らぐ。
  
「あぁ……」
  
 やっと気付いた。ほのかがここまで必死だったのは、不安だからだ。
  
「あ! すみません …… わがままを言って」
  
 自分でも少し熱くなっていたのを感じていたのだろう。ほのかが慌てる。
  
「いや、大丈夫。次はしっかり守るから」
「あ……はい!」
  
 いつものほのかの笑顔が戻った。
  
 このタイミングで一人で森を引きかえすのが、彼女にとってどれだけ負担であるか考えていなかった。今度こそだ……。とにかく神獣領域で、すみやかに“あいつ”をみつけないといけない。
 神獣領域は危険ではあるが、あいつさえ見つかれば乗り切れる。
  
「サモン」
  
 条件的に今呼び出せる戦力はハクだけ……。移動要員のトパーズをはじめ、他の戦力は今すぐ呼び出すには微妙なものしかいない。
  
「頼りにしてるぞ」
  
 召喚した途端こちらに擦り寄ってきたハクを撫でる。ほのかもすぐに近くにやってくる。
  
「久しぶりだね!」
  
 実際には大した時間は経っていないが、体感としては久しぶりになるのもわかる。
 嬉しそうにほのかが抱きつき、応えるように目を細め、顔をうずめるハク。
  
 その間に川の向こうを確認する。
 二人が言ったとおり、すでに門番の姿はない。このまま神獣領域に入れるだろう。
  
「もうわかってると思うけど、神獣領域は入るだけでもかなり危険な地域だ」
「はい」
  
 ほのかが緊張した表情で答える。
  
「中に関してははっきりどうなっているかはわからないけど、奥に行けばいくほど危険度が高いのはわかってる」
「そうなんですね……」
「川とその周囲をエリア0、その先をエリアⅠ、エリアⅡと分類してる」
「数字があがれば危険度があがるってことですね」
「そうだな。大まかにそこにいる生態系とか、天候でわけた」
「わけた、ってことは、アツシさんが?」
「そうだな……。情報共有が出来るような仲間はほとんどいないから、この分け方はオリジナルだ」
  
 神獣領域に立ち入る冒険者がそもそも少ないので、このあたりはほとんど自分の感覚でしかない。
 エリアⅠに関しては、基本的には無害ではある。むしろ番人のテリトリーであるエリア0よりも安全だと言えるだろう。
  
「とりあえず番人さえいなければエリアⅡにはすんなり入るはずだし、探してるやつもそこにいるはずだ」
「そうなんですね!」
  
 緊張した表情だったほのかに笑顔が戻る。具体的な数字を聞いてすこし落ち着いただろうか。
  
「エリアⅡまではすんなり、ってことは、アツシさんならエリアⅠまでの子たちはテイムできるってことですか?」
「いや、神獣はそんな簡単じゃないな……。その辺の魔獣のテイムが素手と虫かごでできるものとすれば、神獣の相手は麻酔銃と檻が必要だと思ってもらえれば良い」
「あぁ……」
「準備なしで行くとこっちが怪我する。準備してても危険が伴うし、そもそも麻酔銃程度でどうにもならない相手もたくさんいるのが神獣だと思って欲しい。今俺が契約できてるこいつらはみんな特殊な例だな」
  
 下にいる雲、もといトパーズを撫で、ほのかとくっつくハクにも目を向ける。
  
「じゃあどうしてエリアⅠは大丈夫って……?」
「エリアⅠの神獣たちはな、こちらに攻撃をしてこない」
「そうなんですか!」
「ただまぁ、攻撃こそ来ないとは言え、生きるための活動はしてる。その活動そのものが、俺たちにとっては十分な脅威になるけどな」
  
 “門番”であるカメレオンに関しても、あれはこちらに害意を持って攻撃をしているわけではない。ただの食事だ。だが、エリアⅠにいる神獣たちはそれとはまた話が違う。
  
「ここから先は多分、色々驚くことが多いと思うけど、そういうもんだと思って受け流すことをお勧めする」
「どういうことですか?」
  
 話しながらすでに、川を半分以上越えてきている。立ち込める霧の中に入り、いよいよという雰囲気が周囲を包む。
  
「良い表現が思い浮かばないんだけどな …… あそこは、なんというか……まぁ、見たほうが早いか」
  
 霧を抜ければ嫌でも目にする。
 今までのほのかの適応能力を見ていれば、きっと大丈夫だろう。
  
「抜けるぞ」
  
 霧を抜ける。
 いつの間にか川は後方に控え、木々の上まで到達している。
  
「わぁ …… !これ、どこまで続いてるんですか?」
  
 一面に広がる広大な森。果ては分からない。そこまで到達できるような力は、まだない。
  
「どこまでだろうな?」
「アツシさんもわからないんですか?」
「もちろん。見えてる範囲ですら到達してない」
  
 ここで飛び込んでくる視界の限界が、こちらの基準でおよそエリアⅤになる。俺が入ったことがあるのはエリアⅣまで。
 それも、運が悪ければではなく、運が良くなければ死ぬような状況だった。
  
「わくわくしますね!」
「ほのかは流石だな……」
  
 新しいものを純粋に楽しむ余裕のあるほのかと違い、こちらはいち早く目的を達成してここを出たかった。
 ぱっと見ればただの森。いや、ここまで飛んできた森より遮る障害物がない分、景色も美しい。
  
「わっ!見てください!あれ!」
  
 ほのかの指差す方向に見えたのは、空を飛ぶ巨大な生物。
  
「アメクジラだ」
「アメクジラ?」
  
 少しずつ近づくそれに目を凝らせば、巨体のフォルムは自分たちの知るクジラと一致する。空を飛んでいる点だけが、こちらの常識と異なる。
  
「あれって、どうやって飛んで …… 」
「さっき言ったろ?考えてるとこっちがおかしくなる」
「なるほど …… 」
  
 さて、あいつがきたということは …… 。
  
「トパーズ!」
  
 応えるように雲が形を変え、屋根のように上部を覆う。
 ほとんど同時に、すぐ近くまで来たクジラが吠える。
  
「さすがにこの距離だと、響くな …… 」
「ええ!?これがさっき言ってた……?近くにいた鳥が落ちたように見えたんですけど?!」
  
 耳を押さえながらほのかが叫んだ。
  
「本番はこれからだ」
「えっ?」
  
 クジラが大きく身をよじった直後、その身体から高々と噴水があがる。
 トパーズが上手く屋根を調整しているのでこちらに被害はないが、文字通りバケツをひっくり返したような水が森を襲う。
 それと同時に――  
  
「え、クジラが小さくなって」
  
 まるで風船のように、その身体が水を失って小さくしぼんでいく。
 そしてそのまま、空中ではじけて消えた。
  
「どこにいっちゃったんですか!?」
「わからない …… ただ、あいつのおかげでここら一帯の水分は維持されてる」
  
 やり方が大雑把なせいで、真下の森では洪水が起こり、木々が何本も薙ぎ倒されているが、それでもこれは貴重な “ 雨 ” だった。
  
「ちょっと神獣領域のこと、分かってもらえたか?」
「はい …… 」
  
 さすがに驚いた表情のほのかだった。
  

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