旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

森の姿

  ちょうど森が見渡せる位置にいる。この機会にほのかに森のことを教えておくことにする。
  
「色々見えると思うけど、岩山とか、木の高さも違ったり、川があったり」
「森って、こんな風になっていたんですね」
  
 もうフライシャークをテイムした丘は越えてきたが、それ以外でも多種多様な地形がこの森にはある。
 店から見える景色は森の入り口とその先の山程度だが、実際に入れば砂漠、丘、岩山等様々な地形が顔を出す。
  
「各地で出てくる動物の差もあるから、ちょっとずつ覚えてくれ」
「わかりました!」
  
 ほのかは空の旅を満喫しているようで、終始上機嫌だ。
  
「とりあえずさっき行った場所の他に、よく冒険者が使う地点だけ教えておく」
  
 一度に覚えてもらう必要はない。実際に行く機会があれば自然と覚えるものだから、簡単な説明に留める。
 しばらくそんなことをしながら、流れる景色をのんびりと眺めていた。
  
  ---
  
「あそこは、今見えてる木の下に、二重で木が生えてる」
「え、それって、下の木は大丈夫なんですか?」
「光があまり差さなくても大丈夫な木が繁茂してる。地面まで来るとさらに光が届かないから、どちらかというとじめじめしたコケとかシダみたいなものばかりになるけど、生き物としても面白いのが多いかな」
「じめじめって言うと、かえるとか……?」
「そう、両生類にはぴったりの環境だから、マモと同じような体系のイモリもいるぞ」
「マモちゃんって結構大きかったですよね……あ、でもオオサンショウウオとかは大きかったですね」
「そんな感じだな。あれはほとんど水の中だったけど、こっちのは陸上凄だし、魔法も使うけど」
「あの姿で魔法……」
  
 元の世界に色合いからファイアーサラマンダーと名前がついているイモリがいたが、こちらの世界では火の魔法を使うイモリがいる。もちろんファイアーサラマンダーと名付けた。
  
「一日を通して暗いから、元々夜行性だった動物も好んで生息してるかな。ふくろうとかに近い動物とか、ねずみ系の動物もあそこは多い」
「ふくろうですか!見てみたいですね!」
「今度連れて行こうか」
「良いんですか!やった!」
  
 小さくガッツポーズまでしている。嬉しそうな様子を見ていると家族サービスをする父親の気持ちがわかるような気になってくる。子どもなど持ったことはないが……。
  
  ---
  
「あそこの砂原になってる地域は、冒険者には人気はないけど俺はよく行く」
「暑そうですね……アツシさんが行くってことは、面白い子がいるってことですよね?」
「正解。木陰になるものがないから他の地点よりは温度は上がるけど、陽の強さが変わるわけじゃないから、砂漠とかのイメージに比べればそこまでじゃないしな」
「そうなんですね。なんかサボテンとトカゲがたくさんいそうなイメージでした」
「そのイメージは間違ってない。目的はそれだ。たまにでかいワームが出てくるから、上手くいけばエリスへの土産にもなる」
「ワームって、お店にいた硬そうな芋虫ですよね?」
「そうだな」
  
 必ずしも硬いものばかりではないが、元の世界で言えばミルワームやジャイアントミルワームなどは硬い芋虫として餌に使われていた。どちらもゴミムシダマシという種類の幼虫だ。
 他にもハニーワームやシルクワームという蛾の幼虫もいたが、こちらは柔らかい。シルクワームは蚕の幼虫だから、ほのかも見たことはあるかもしれない。
  
「大きい硬いワームっていうと、そういうUMAがいましたよね?」
「モンゴリアンデスワームだな。そのイメージで、大体あってる」
「やっぱり……」
  
 と言っても、魔法で対抗できるこの世界では大した脅威ではない。地面から突然襲われたとしても、冷静に対処すれば死ぬことはない。
 もちろん前情報も準備もなく飛び込んだ冒険者が犠牲になる例はあるが、そういう覚悟で進むのが冒険者だ。特に大きな問題になることはない。
 逆に言えば、ここでほのかに何かあっても、特に問題に取り上げてはもらえない。俺がしっかりしておく必要がある。
  
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「結構快適ですし、のんびりですね」
  
 雲の中央に寝転がりながら、ほのかが声をかけてくる。
 空の移動は地上に比べればかなり時間短縮になるとはいえ、それでも一泊は必要になる。休めるところで休んでおいた方がいいと話をして、この形になっていた。
  
「急げば急ぐほど、リスクが上がるからな」


 トパーズの変身能力を使えば、もっと移動に適した形状を作り出し、もっとスピードを出すことも可能ではある。雲の形を取ったのは、それが最も安全な擬態だったからだ。
 トラブルがなければ十分間に合うのだから、より安全な方法を選んだわけだ。
  
「風竜くらいだと、下手したら荒いやつらに狙われる」
「風竜って、結構強いんでしたよね?」
「一対一なら負けない相手でも、集団で上手いこと狩りを行ったりされると苦しくなる」
  
 だからこそ、野生下では竜種も群れを作ることが多い。
 単体で迷い込めばジャングルメットにも狩られることもある。
  
「この姿を狙う動物はいないってことですか?」
「雲に擬態してる生物でも、さっきのウールボールみたいなのを狙ってるのはいるな。冒険者たちが主だけど」
「冒険者……この子は狙われないんですね?」
「神獣の卵といえるトパーズの擬態を見破った上で手を出してくる相手がいたら、はっきり言ってどうしようもない」
「なるほど……」
  
 竜をはじめとした強力な魔獣たちの巣を越えていくことになる点に関しては、神獣であるトパーズがいる以上大きな問題にはならない。だが、この森は冒険者のテリトリーであり、それは南部のギルド自治区の冒険者たちに限られない。
 森を進んで北側。山脈の中には亜人領域につながる一本の街道がある。また、森の南東部には魔族領域と呼ばれる地域もあり、こちらに関してはほとんど未知の領域だ。油断は出来ない。
 油断できないからこそ、この姿を取ったわけだ。仮に敵意を持った存在がいたとしても、誤魔化せるように。
  
「まぁ、どうしようもない相手じゃなければトパーズと翼竜たちでなんとかなるし、どうしようもない相手だったら俺が気を張っていたところで意味がない」
「アツシさんなら何とかできるんじゃ?」
「森に入った以上保障は出来ないな。ほのかが見てきたのはある意味ホームでの俺の様子だけだから、あれをイメージされてると、ここから先は期待はずれだと思う」
  
 ほのかが見てきた強い野生の魔獣と言えば、グランドウルフくらいだろう。一般的な冒険者からすれば危険度の高い魔獣とはいえ、Sランクの冒険者にとってはそこまでの相手ではない。群れが相手ならともかく、単体ならAランクの冒険者でも相手取れる。
 亜人領域、魔族領域からはぐれ出た魔獣や、そういった生物と戦う必要がある森の奥の魔獣たちは、はっきり言ってどうしようもない強さのものもいる。神獣領域はまさにその、どうしようもない相手の巣だ。運が悪ければ入る前に洗礼を受ける可能性すらある。
  
「焦っても仕方ない。少し休んでおこう」
「わかりました」


 一晩トパーズの上で過ごす必要のある行程だ。休むことも大事だ。
 トパーズの作る空間の中は非常に快適に過ごせる。雲の上に寝そべり、持ってきた毛布があれば普段寝ているベッドよりもよく眠ることができるほどだ。
 食事も十分用意してある上、衛生面も浄化魔法があるこの世界では大きな問題にならない。このまま順調に行ってくれれば、ほのかに森を紹介する快適な空の旅になる。


 そうなることを祈りながら、先へ進んだ。



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