旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

作戦

 戦争は避けられるなら避けたほうがいい。3年前、ギリギリのところで踏みとどまれたように。


 今回処理しなければならない案件は二つ。 
 一つは森の鎮圧。ネロたちには別の動きを与えられる以上、これは俺が何とかするしかない。店の存亡にも直接関わるわけだからまぁ、自分で何とかするべきだろう。
 そしてもう一つが、協会が森へ与えた影響について、帝国から言及できるだけの証拠を集めてくることだ。 


 大前提として、協会側が南の森へ向けて例の魔法を使う必要があるわけだが。


「まず魔法を使うかどうかだけど、これに関しては何もしなくても使ってくると思うわ」
「協会だしな……」


 彼らは自分たちが作った魔法を使いたがる。この機会を逃すことはないだろう。


「どちらにしてもベルが戻るのだから、これはいくらでもやりようはあるわ。この店がどれだけ捨て置けないものかを報告すれば、それだけで踏み切るでしょうし」
「無駄に目をつけられるのは避けたいんだが……」
「まぁ、なんとかするわ。貴方は自分の心配をしていなさい」
「はいよ」


 その辺りのことは、ミーナを信用して任せている。
 ベルとネロに関しても、彼らは龍種。ここで交わされる会話はただの口約束ではなく、契約だ。裏切りの危険はない。ただ全力を尽くした上で、できるかできないか、それだけの話になる。
 何年も生きてきた彼らのことより、自分たちの心配をしたほうがいいだろう。


「まだこの魔法は認知されていない。そのままだといくらでも言い逃れができてしまうの」
「そうだな」
「ベルが言ってた実験。それに基づいて、きっちり魔法の効果が分かった上で使用したことが証明できれば、帝国側として皇国側に強く抗議ができる」
「それ、刺激して戦争勃発とかならないのか?」
「言ったでしょう?お互いに戦争はしなくて済むならそれでいいと思っているの。皇帝にとって厄介な協会が自滅する道筋を用意してあげるんだから、こっちを選ぶわ」
「その辺の駆け引きはまぁ、任せておけば間違い無いか」


 ややこしい話はミーナに任せる。


「問題はベルたちの役割ね。二人でいけるかしら」
「情報収集と、その証拠を揃えるんだよね?」
「そう。協会がそこまで絡んでいるなら、逆にそれを利用しましょう」 


 二人が軽く相談をして、ミーナに向き直る。
  
「いつもやってることだから、多分大丈夫。言い逃れができないようにするのは少し大変かもしれないけど……」
「拾った命だ。宣言どおり、しっかり仕事はさせてもらおう」 


 ベルは不安そうにしていたが、これは性格的だろう。
 これに関しては二人に任せておけばいい。いや、任せておくしか無い。


「悪いけど、頼んだ」
「命の対価だからね。そう考えると軽いもんだよ!」


 ベルの楽観的な雰囲気が空気を軽くする。


「これから何も騒ぎが起こらなければ、2人がここに来てからのことはルベリオン側の人間に漏れていないと考えて良いわ」
「何か仕掛けていたのか?」
「私が来ているというのが仕掛けと言えば仕掛けかしら。万が一ここでの出来事をルベリオンが監視していたら、2人のことより先に私のことで騒ぎになるはずよ」 
「ああ、確かにそうだな」


 もし俺が監視していたら、皇族がやってきたという情報はいち早く伝えに戻るだろう。
 たとえそれが、ちょこちょこ自由にやってくる皇女だったとしても……。


「協会側で特に注意が必要な相手がいるわけでもないし、ルベリオンのことも北の冒険者のことも、ある程度調べているのよね?」
「うん。その辺のことは大丈夫」


 今回のうちの店での失敗に関しては、不運が重なっただけだろう。
 ベルのスキルとネロの力。どちらも封じるだけのイレギュラーが二つも重なったのは彼らにとってはかなり運が悪かったと言わざるを得ない。
 警戒度も上がっていることだし、同じようなことになる可能性は限りなく低いと考えて良いだろう。


「さてと……アツシ、いけるわよね?」
「当てがないわけじゃないが……」


 北の方で皇国が動くほどの騒ぎになったというなら、簡単に判断はできない。


「一応、目安として俺たちに猶予がどのくらいあるのか知っておきたい」
「えっと、魔法がいつ使われるかってことだよね……?」


 これによってこちらも取れる行動が限られてくる。


「私が戻ってからっていう言葉を信じるんなら、使うまでに2.3日。効果が表れて騒ぎになるのは5日後くらい……?」
「結構厳しいな」
「あら、アツシはここで待っているだけじゃないの?」
「今回の件に対応できる魔獣ってなると、俺も森に入る必要がある」
「いつもみたいに呼び出したりは?」
「できないやつなんだよ」


 契約を交わした相手だが、そこに召喚に応じるという内容が含まれていない。


「今持っているカードだけでは心許ないってことね」
「規模がわからないからな……龍なら対応できる、っていう情報だけで動くならそうなる」
「わかった。当てがあるならいいわ」


 とはいえ確実性がない。一直線に行って帰ってくれば余裕はあるが、森に入る以上何があるかわからない。


「アツシ達はまだましよ。その期間で情報を揃えないといけないベルたちのほうが心配ね。いけるかしら?」
「えっ。期限って揃えないといけないの?!」
「ベルたちが先に情報を得る分には問題ないけど、アツシたちが森を鎮圧したらまず証拠隠滅を謀るでしょうね」
「あぁ……」


 俺の方がベルたちに合わせる必要があるわけだ。 
 と言っても、こっちの目的は相手の魔法に対する対応に過ぎないので、合わせるというよりは相手次第な側面が大きいが……。


「アツシは店に戻った上で待機する余裕があるのが理想ね」
「そうだな」


 ーーー


 その後も細かい打ち合わせを済ませていく。
 俺のやることはシンプルだが、タイミングだけは気をつけないといけない。


「ちなみにミーナは何するんだ?」


 聞いたところでどうしようもないが、一応気にはなる。


「私はここで待機よ」
「何もしなくて大丈夫なのか?」
「どちらに行っても大した戦力にならないどころか、ベルたちに付いていけば邪魔にしかならないしね」
「まぁそうか」


 目立つ立場のミーナが北の潜入に行くなど無茶な話だ。
 戦闘力もずば抜けて高いというわけではない。
 おそらくBランク上位か、Aランクの冒険者くらい。皇族としては規格外の強さではあるが……。
 だが、今回それが役に立つかと言われれば、答えはノーだった。


「それに、誰かがここにいればある程度情報の共有ができるでしょう?」
「ああ、やってくれるのか。準備しておく」


 携帯も何もないところだ。遠距離の連絡手段は原始的なものになる。


「いつも思うのだけど、なんで鳥なのかしら。もっと早く動ける魔獣もいっぱいいるんじゃないの?」
「その辺はあれだ……な?」


 ほのかに視線を向ける。
 伝達手段に鳥を使うというのは完全に元の世界の名残だ。確かに速さでいえば虫型の魔物なんかは何倍も速い。
 速さだけの魔物や虫では調教が難しいという理由もあるが。


「まぁいいけど。使い方だけは詳しい説明をしていって」
「わかってるよ」


 ベルたちにも何匹か預ける必要がある。笛を吹いた時だけやってくるように契約してあるものを何羽か用意しよう。こないだのフライシャークも調教は済ませてあるし、数は足りるだろう。


「後は何かあるかしら?」
「俺たちが戻ってくるタイミングについては、目安は五日後、細かいことは連絡を待つでいいか?」
「良いわ。本格的に森から魔獣が出てきたりしたら問題だし、ある程度はこちらでなんとかするにしても、状況を見て必要なら出てきてくれていいわ」
「わかった」


 第一優先は南部の生活区域、その前にうちの店に被害を出さないことだ。


「私たちはなるべく早く情報を引き出して、ここに連絡すればいいんだよね?」
「そう。無理はしないこと。  助けが必要ならその連絡でも構わない」
「その時って、ミーナが助けにいくのか?」
「私で何とかなることならそうするけれど」
「そうじゃない場合は?」
「もう一人いるでしょう?戦力になるのが」


 ミーナの当てにしているのは……エリスか。


「店番。私だけでは不十分だし、頼むんでしょう?」
「いや、ほのかを置いていこうかと思ってたけど」
「えっ!私、留守番なんですか?」


 むしろこの緊急事態に、まだこっちに来て慣れないことだらけの少女を森の中に連れていくと思われていたのか……。


「この子はアツシから離れる気はないようだし、私もその方が良いと思うわ」
「どうしてだ?」
「龍を止める魔法を使えるのよ?十分な戦力でしょう?」


 正直にいえば不慣れなほのかを連れていくのは効率が下がるように感じるが……。


「成功率を上げるのも大切だけど、何かあった時に連絡が来るか来ないかというのが大きいのよ。二人一組で動いてもらうのはそういう理由」
「店番を当てにしてるんだったらエリスだけど、それなら俺とエリスで行くのが良いんじゃないのか?」
「悪くはないんだけど、一つは出発が遅れること。もう一つは、経験豊富な存在をバックアップに残しておいた方が、何かあった時に対応しやすいってところね」


 何かあった時、か……。


「わかった。ほのか、頼めるか?」
「私は元々そのつもりでしたよ!」


 本当に物怖じしないというか……。
 初めての遠征になるわけだし、ある程度の準備はこっちでやっておこう。


 ーーー


 その後も細かい打ち合わせを行いながら、それぞれ準備を進めていった。



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