旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

不思議な客

「アツシさん!そろそろバアルに手伝ってもらった方がいいんじゃないですか?」 
「あいつを今出したら、その方がややこしくならないか?」 
「その当たりの感覚は私では自信がありませんが……とにかく手伝ってもらわないとそろそろ難しくなってきましたよ」 
「わかった。俺が行くよ」 
   
 レオとソウの様子に物珍しさがなくなったためか、客は各々店内へ戻ったり、外にいる魔獣を観察したりと動き、徐々に人垣も収まっていた。 
   
「2人はしばらくそいつらを見定めておいてくれるか?」 
「構わない。じっくり見させてもらう」 
「いやいや待てって。俺のこの状況みて2人とも助けようと思わないのか?!」 
   
 翼竜に髪やら服を引っ張られ、地竜に頭をこすりつけられ、もみくちゃにされるレオ。 
   
「問題ない。行ってくれ」 
「ソウうううううう!?」 
   
 息のあったコンビだった。 
   
ーーー


「あ!店長が来ました。代わりますね」 
「お?」 


 中に戻った途端ほのかに客を投げられる。


「えっと、この店に来れば自分より強い魔物でも扱えるって聞いたんですけど、本当ですか?」 
「そりゃぁまぁ、そういう側面もあるが……」


 フードに覆われ顔は良く見えないが、身長や雰囲気は若い。例の三人組より少し大きいか、同じくらいか。 


 今まで栄えていなかった分、気にすることもなかったが、うちの店は冒険者の力関係を一気に塗り替えてしまう可能性を秘めている。 
 一応値段設定を調整し、冒険者のランクに応じたものしか購入することはできなくなっているが、逆にいえば金さえあれば強くなれるとも言える。 
 もっとも、このあたりの価値観は装備品に準ずるところがある。性能が良い装備は高い。値段だけである程度のバランスを保っており、金に物を言わせて購入したとしても、扱いきれないという現実もある。 
 うちの店の場合、昔やったゲームにあったレベルが足りず言うことを聞かない、という状況も起こりうるが、多少扱いきれなくても力を発揮する魔獣もいる。この辺はギルドと調整する必要があるかもしれない。強力な魔道具には使用制限があったりするし、それに準ずる形を取るか。 
   
「どうしても強くなりたくて!」 
「俺が言うのもなんだけど、借り物の力でいいのか?」 
「なんでも構いません」 
   
 切羽詰まった様子だな。 
   
「事情を聞こうか」 
「いえ……それは……」 
「言いにくいのか。ただ、こっちにも売る者として責任がある。理由もわからず無暗に売るわけにはいかないんだ」 
「それは、ギルドに止められているからですか?」 
「いや、ギルドは関係ない。俺の意志だ」 
「そうですか……」 
   
 フードから覗く容姿を観察する。中性的で綺麗な顔立ちの少年。いや、少女か?正直男か女かもわからない。年齢はほのかより少し幼いくらいか。 
 身なりはぱっとみて良い。この年齢の子どもにとってみればパートナー候補の魔獣は高価だ。だが、この見た目なら、こちらが実際にいくつかの候補を見せれば、購入に踏み切れるだけの金も持っていると考えられる。
   
「僕が強くなれば、売ってくれますか?」 
「その場合、必要なくなるんじゃないのか?」 
「いや……」 
   
 ちょっと話が見えてこないところがあるな……。 
   
「言えることだけは聞いておこうと思うけど、いいか?」 
「はい……」 
   
 事情を聴くのが難しいにしても、ヒアリングはしておきたい。面倒事に巻き込まれそうな気もするが、店に来てしまった時点でそれは避けられないことを考えれば、知れるだけ知っておいた方がいいだろう。 
   
「名前は?」 
「えっと……」 
「わかった。良い。次にいく」 
「いいんですか?」 
「言いたくないことまで言わせたりはしない。購入するとなれば話は別だけどな」 
「やっぱり、買う時には必要ですよね……」 
「そうだな」 
   
 物が物だ。特にペットではなくパートナーとしての商品だった場合、関わったものとしてはその安否も気になるし、その生体がどのような状態でいるのかは気になる。万が一何かあった時にはある程度責任も伴うだろうと覚悟もしている。 
 元の世界では生き物を購入する時には、生体購入書みたいなものを毎回書くことになっていた。あれに準ずるような形で何か用意しようと思ってはいる。
 この世界では買った後その商品で何があったとしても、売った側に責任が来るようなことはない。そのため、こういった要素はあまり気にされないが、このあたりは元の世界の感覚を引きずった自分のこだわりだ。
 これまで客が来ることもなく、元々冒険者時代からの知り合いが常連になっただけの店だったので気にすることはなかったが、今日の様子なら、この辺のことも本格的に考える必要が出てきたかもしれない。 
   
「事情は話せないにしても、どんな子が欲しいかは言えるか?」 
「竜がいいです!強くて、かっこよくて、えっと……」 
「それは随分すんなり答えてくれるんだな」 
「あ……」 
   
 竜の話になってからの表情は明るかったが、また俯いてしまう。 
   
「いや、いい。でも、竜は高いぞ?」 
「大丈夫です」 
「一応聞くけど、どのくらいの予算がある?」 
「帝国金貨を、千枚までなら」 
「まじか……」 
   
 帝国金貨の今の価値は、ギルド金貨より高い。使用されている鉱石が魔法石だけではなく、それぞれの硬貨ごとに宝石を埋め込んであることが影響している。金貨に埋め込まれた宝石はダイヤのような、
 無色ながら輝きを放つものだ。その辺には詳しくないから名前までは知らないが、その輝きによって偽物は一発で見抜くことができると言われている。
   
「そういうことなら、風竜まで視野にも入るか……」 
「白い子が良いんです」 
「白竜か?白は高いぞ……」 
「足りませんか?」 
「んー……そもそも在庫がほとんどないんだよ」 
   
 白い個体は野生下では長く生きられない。如何に竜といえど、生まれてしばらくは回りに天敵も多い。そんな中、目立つ色をしているものは簡単に狙われる。 
   
 そもそも生まれることも少ない。純白を求めるなら白変種、リューシスティックになるが、こいつらはペット界隈でしか見たことがない。 
 アルビノならたまに見るが、種類によっては真っ白にはならない。白くなるのがリューシスティック、黒がなくなるのがアルビノ。例えばアオダイショウのアルビノは黄色が残ったりする。
 純白のモルフというのは、その稀少性ゆえに高価になりがちだった。 
   
「真っ白じゃなくても、白い子が良いんです!」 
   
 勢い良く、うつむいていた顔が一気にこちらを向いた。 
 フードを被り、俯いていたせいで確認できずにいたが、白にこだわっていた理由がこれでわかるだけの十分な特徴をこちらに覗かせた。 
   
「なるほど。そういうことなら、良いパートナー候補はいるな」 
「やった!」 
「ただ、購入となればさっきも言ったとおり、素性が分かってないといけない」 
「そうでしたね……」 
「どうする?」 
   
 客が悩んでいる間に、ほのかの様子をチラッと見る。かなり手際よく対応していた。
 生体購入に踏み切るような客は相変わらずほとんどいなそうだ。今日はほとんど様子見だろう。その中でも、生体の導入に先駆けて準備が必要な飼育グッズを勧めていたり、餌を買いに来た客への対応も抜かりなく行っている。
 エリスとの訓練で自力で維持している服だとは思うが、今日はセーラー服の色違いになっていた。昨日は簡素なワンピースだったところを見ると、より複雑なものが作れるようになったということだろう。 
 ただそうなると、セーラー服の少女が接客を続けているという状況だ。俺としては違和感が強い。 
   
「なんか制服でも考えたほうがいいかもしれないな」 
「あの……」 
「ああ、悪い」 
   
 ほのかに気を取られすぎた。あちらは気にしなくてもしっかり仕事をしている。俺のほうがしっかりしないとな……。
   
「少し、考えさせてください」
「わかった」


 それはそうだろう。ここで突然決意を固められるなら、初めからある程度オープンな状態できているだろう。


「そしたら、明日以降にまた来るか?」
「え?少し考えさせてもらえれば、今日中のほうが」
「あれ?そうなのか」


 俺が思っていたより潔い性格なのかもしれない。


「それなら、先に対応していた客の方に戻る。しばらく一人でも構わないか?」
「もちろんです。待っています」


 彼か彼女かわからないその子供は、育ちの良さを感じさせる佇まいで、静かに椅子に腰かけた。


「じゃあ、少し待っていてくれ」
「いえ。僕も考える時間がいただけてありがたいです」


 礼儀正しい様子に調子を狂わされながら、店内を後にする。
 レオはまだ、翼竜に遊ばれていた。



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