旧 ペットショップを異世界にて

すかい@小説家になろう

商談

「大繁盛じゃねえか!宣伝した甲斐があったなぁ」
「突然で迷惑じゃなかったか?」


 それぞれの性格が良く現れた挨拶だった。


「今のところは俺だけでもなんとかなってる。ありがたい悲鳴だ」
「それは良かった。俺たちのことは後回しでいい。客が落ち着いたら声をかけてくれ」
「もう少ししたらほのかが戻ってくる。それまで待っててくれるか?」
「そりゃあ女の子が来るって言うんなら待つさ!」


 もちろん戻ってきたほのかに接客を任せて、二人の元に行くのは俺だけになる可能性が高いが、黙っておこう。


ーーー


 その後も客の対応に追われながら、なんとか対応を続ける。
 グランドウルフを求める声があまりに多かったので、シズクとギンには俺のそばにいてもらっていた。この人数が相手なので、触るのは遠慮してもらったが、そもそも興味本位で声をかけてくる客にシズクの姿を見て触りたいという物はいなかった。
 慣れれば可愛いもふもふの塊とはいえ、人より大きく、まして実際に冒険者を倒した実績のある種類だ。躊躇なく触れるのは、よほど腕に自信があるか、ほのかのように何も知らないかの二択だろう。


「戻りました!」
「エリスは?」
「人が多いのを見てそのままどこかへ行かれました……何か用事がありましたか?」
「いや、それならいい」


 あわよくば店番を手伝わせようとしただけだ。おそらくエリスもそれを察知して消えたんだろう。


「えっと、どこから何をすればいいですか……?」
「それはもちろん俺たちの接客を」
「こいつら以外の接客を」


 レオの顔が固まるが、ソウが当然だと言わんばかりにレオを引きずっていく。昨日と同じ、少し開けた場所に移動した。


ーーー


 色によって五種類に分けられる地竜に対し、飛竜は大きく分けて二種類になる。
 翼竜と風竜。
 翼竜はワイバーンとも呼ばれ、Bランクがパーティーを組めば倒せなくもないという相手だ。他の竜種に比べて一段階見劣りする。竜種の下位というよりも、トカゲの上位という考え方があっているかもしれない。 俺の知るトカゲの最上位であるマジックモニターなら、相性のいい魔法を使うことで圧倒することもできるだろう。


 風竜は強い上にレア種だ。うちにいる魔獣の中でも戦闘力は最上位に入る。ハクなら勝てるにしても、その辺で風竜を見つけたとしても安易に手が出せないだけの強さがある。そもそも探しても見かけることも少ない。
   
 二種類しかないのではなく、おそらく二種類しか発見されていないだけだろう。風竜や翼竜にも亜種やモルフがあるだろうとは思う。色だけでなく、角の有無や翼の形状、身体の大きさなど、発見された個体数が少ないために確立されていないだけで、判別する材料が二種類だけということはないと考えている。 
   
「昨日の今日で早すぎるかとも思ったが、ちょうど遠征に出る予定ができてな」 
「それで、どうせならあんたの言ってた移動要員をと思って来たんだ」 
   
 この世界で財布代わりに使う皮袋を見る限り、値段も覚悟の上だろう。 
 一日でこの金額を用意してくるあたり、この二人の稼ぎの良さに少し嫉妬する……。 いや、冒険者一本に絞れば俺もこのくらいは稼げるのだろうが、好きなことで稼げている二人を見ると羨ましくなる。もちろん冒険者の仕事が嫌いというわけではないが……。複雑な心境だった。
 客の前でそんなことを言うわけにもいかないのですぐに切り替える。


「どんなのが見たい?」
「できれば飛行能力があった方がありがたいが、今二人が使える金額はこれだけだ」


 持ってきた革袋をそのままこちらに渡してくるソウ。


「確認させてもらう」


 中を確認する。もちろんぱっと見て枚数がわかることはないが、全てがギルド共通の金貨であることを確認した。あとは革袋のサイズでおおまかな枚数を計算する。
 五百枚はある。
 サービスするなら翼竜二匹くらいは譲ってもいいかもしれないと思える金額だ。


「十分あるな」
「それは良かった」


 ソウが安心したように息を吐いた。
 値段の目安は昨日伝えてはいる。大まかにいえば飛竜は数百万円から、地竜なら安ければ数十万円からだ。もちろん上限はない。物によっては飛竜より高価な地竜もいくらでも出てくる。


 元の世界でもモニターと呼ばれる大型のトカゲの値段は、安いものでは一万円を切っていた。最もメジャーな大型トカゲであるイグアナなど、三千円で売られることもある。
 一方で高級種となれば一匹で百万円を超えた。その中でも色や柄の違い、いわゆるモルフの違いだけで値段は前後する。新たに発見されたモルフは一千万を超えることさえあった。
 そういう意味では、元の世界の基準は珍しさが重要視されていたのに対し、こちらの世界ではそもそも全てが珍しいので、実用性や単純な見た目が重要視される部分が大きいのだろう。


「この値段だと、一人一匹か?」
「そこまでは決めていなかったな」
「そうか。それならまぁ、色々出すとしよう」
   
 購入前提ということであれば、昨日よりも多くの種類を呼ぶ必要があるだろう。 
 他の客もいるしパフォーマンスも兼ねられる。 
   
「サモン!」 
   
「うぉお……」 
「何回見ても、すげぇな」 
「いや、これ、昨日の倍……いやもっとか」 
   
 やりすぎたかもしれない。 


「何?!」
「竜があんなに!」


 説明なしに大量の竜を目の前にした客が騒ぎ出す。


ーーー


「しまったな……」
「この竜は、もちろん安全だよな?」
「あぁ、そうだけど……」


 問いかけてきたソウに答えを返すと、二人が同時に動き出す。


「可愛いやつらだな!!!」
「あぁ、これなら冒険も安心だ!」


 二人に撫でられる風竜が大人しくその手を受け入れる
 少しわざとらしさもあるが、二人の反応を見て他の客の反応が変わった。
 呼ばれてしばらくはしっかり並んでいた地竜たちも、その様子をみて二人の下に駆け寄る。


「これは、撫でろということか?」
「元々地竜は人懐っこいやつが多いんだよ」


 自分より小さな相手にでも目を細め、頭をこすりつける地竜。甘え上手なやつらは可愛い。
 ここまで来ると客も安心感を覚えたのだろう。店にいた客も何事かと出てきて、大道芸人の見世物を囲うように、二人の周りに人垣が出来上がった。


 地竜を各種、計十二匹。翼竜を四匹。風竜を二匹召喚してある。 
   
「一応聞くけど、これで竜種は全部だよな?」 
「いや、水竜みたいな特殊な環境下のやつもいないことはないけど、今回はいいだろ?」 
「てことは、他にもいるのか……」 
   
 実際地竜も飛竜もこれ以外にもストックはある。 
 地竜や翼竜は特に大量発注が入りやすいので、穴場スポットを見つけて定期的にテイムをしに行っていた。 
 穴場といっても、わざわざワイバーンの巣に飛び込んでいくのは、今のところ俺以外の冒険者では見たことがない。確かに俺も、“テイマー”のスキルなしならピラニアの水槽に落ちた肉のようになるだろうから、他に冒険者がいないのも頷ける。 
 群れからはぐれた竜ならともかく、数でも地の利でも優位な状況に立たれて戦うとなれば、Sランクの冒険者の中でも、相性が良くなければ立ち回れないだろう。
 対魔獣に関して、俺の能力の相性はこの上なく高い。これに関しては非常に助かる部分だった。 
   
 地竜の巣は移動式なので、一度テイムした地竜の協力なしでは見つけられない。そういう意味では全て一度に出してしまうわけにもいかないという事情もあった。 
   
「風竜だけはちょっと事情も違うし、はっきり言ってこの値段では出せないけどな」
「そうか……」


 ソウは納得するが、レオは何か言いたげである。


「俺は馬鹿だから、翼竜と風竜の違いがわからねぇ。教えてくれ」
「簡単に言うなら、翼竜はそれが限界だ。この距離に来れば何となくわかると思うけど、二人がかりなら一匹を相手にする分には問題ないだろう?」


 Aランクに片足を突っ込んでいる二人なら、特に問題になる相手でもない。


「それは分かるが、俺の感覚では風竜もそう思う」
「今のそいつらの実力ならそうだろう。でも、その風竜はまだ子供だ」
「子供?!」
「ベビーとは言わないが、イヤリングサイズと言ってもいい」


 ヘビのサイズごとの呼び方を、この店では爬虫類全般に用いている。
 孵化直後はハッチリング、そこからベビー、イヤリング、ヤングアダルト、アダルト、フルアダルトの順に成長していく。


「ちょっと待ってくれ。最大でどのくらいになるんだ?」
「はっきりとしたことはわからないけど、家一軒くらいにはなってもおかしくない」
「まじか……」
「と言っても、竜種の中でもこれだけの力を持っていれば、成長も遅いだろう。俺たちが生きているうちにそこまで大きくはならないと思う」
「それにしても、一度飼ったらその後のことも考えないといけないってことか……」
「それに関しては、うちで預かるシステムを考えてるよ」
「それはありがたいが……あんたは人間の寿命を超えるって言うのか?」
  
 竜の寿命は数百年から長いものではもはや何年に来ているか分からないものもいる。それに対して、人族の寿命は長くても百年。当然俺もそれ以上生きられない。


「俺も化け物じゃないし、百年もすれば死ぬだろうさ」
「いや、これだけの戦力を一瞬で揃えてくるのは俺から見たらすでに化け物だ……」


 おかしいな……。


「うちで扱っている奴らは、すべて俺の契約に基づいている。何かあった時は野生に戻っても活動できるようにしてある」
「それは、俺たちよりあんたが先に死んだら、こいつらは言うことを聞かなくなるってことか?」
「いや、売る時に契約を更新して、この場合は二人にその権利が譲渡される形を取る。二人にもしものことがあった時は、俺の下に来るようにできる、ってことだな」
「なるほど」
「待った。ソウがわかっても俺がわかってない。もう少しわかりやすく頼む」
「要するに二人が生きている限りは二人の物。生きているうちに譲渡先を見つけられなければ俺が保護するってことだ」
「それは、例えば俺たちの間に子どもができたりしたら、そのまま引き継いでいいってことだよな?」
「そうだな」


 2人の子どもが生まれるということではないだろうが、そう聞こえてもおかしくはなかったな……。


「俺が得をするためのものじゃなく、あくまでこいつらが路頭に迷わないための契約だ」
「理解した」
「何となくわかった。ソウがわかってるならいいだろ」


 元の世界において、一度飼ったものをリリースすることはご法度だった。これは、もともと生息圏の違う生き物をペットとして輸入していたという観点もあるが、一度餌付けされた動物は野生に馴染めないという側面もある。
 野生の熊が人里に餌があることを学んでしまった結果、殺さざるを得なくなってしまったという話は元の世界では聞く話だった。一度人に馴れたうえで見はなされた動物は、害獣になってしまう。


「もし野生下に戻ったとしても、人に危害を加えないとか、そういうところはなるべく生きるようにしてある」


 死んだあとにスキルの効力がどれだけ働くのかわからないので、その辺はなるべくとしか言えない。


「そう言うことなら、ひとまず安心だ。何より寿命が長いなら、この出費が無駄になる心配もない」
「もちろん何があるかわからんぞ?病気もあれば冒険に連れて行くとなればそれが直接の死因になることもある。はっきり言って竜種に関しては完全に解析できているとは言えない。ある程度のフォローはするにしても、もしものことは覚悟しておくべきだ」


 買って環境が変わった途端状態が落ちてそのまま助からないというのも、よくある話だ。
 ほとんど放し飼いのこいつらならそこまでの問題は起こらないだろうが、その辺は説明しておく責任はあるだろう。


「あんたを信じる」
「責任重大だな……。今ここに呼んだやつらなら、文句無しでどれでもお勧めだが」
「わかった。先に値段を聞いていてもいいか?」


 このあたりの話にレオが入ってくる様子はなかった。あれからずっと地竜たちに囲まれて撫でたり舐められたりをしている。
 風竜は我関せずというようにすました顔で大人しくしており、翼竜たちは爬虫類らしい本能が抑えきれず、レオの服や武器をつついてみたり咥えてみたりして遊んでいた。
 レオが遊んでいるのか遊ばれているのかわからない状態であたふたしている中、ソウは冷静に商談を進める。


 大まかな値段と特徴をそれぞれ説明し、あとは二人がじっくり観察する時間にしてもらうことにする。
 多分これを選ぶだろうなという予想を立てながら、遊ばれるレオをのんびり眺めて過ごした。





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