無表情で愛想のない美少女とポニテ巨乳元気っ子のいる喫茶店を経営することになって徐々に2人に懐かれていく話

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無表情で愛想のない美少女とポニテ巨乳元気っ子のいる喫茶店を経営することになって徐々に2人に懐かれていく話

「いらっしゃいませ」


 アンティーク調の木々に囲まれた雰囲気の良い喫茶店で客を出迎える。
 おかしい。
 なんでこうなった。


 俺は仕事を求めてハロワに向かっていたはずだというのに……。




 ◇◆◇




 あぁ、これは死んだなと思った。
 坂道の下。猛スピードで進んでくる自転車は、もうすでに避けられる距離になかった。


 キィィィィィィィィィィィィ


 甲高いブレーキ音。だがそれが間に合わないのは明白だ。
 ぶつかることがわかっていても身体は硬直して動かない。思わず目を瞑って衝撃を待った。
 が、覚悟していた痛みはいつまで経っても訪れず、耳元でビュンと風が走り抜けただけだった。
 背後でものすごい音がする。向かってきていた自転車が急激にハンドルを切って道を逸れたのだった。


 結果、俺は軽く腕をかすめただけで済んだが、その代償として自転車の持ち主は派手に道路に吹き飛ばされていた。


「悪かった……怪我は……してるなぁ。申し訳ない……」


 無事とは言い難い男が立ち上がって声をかけてくる。見るからにガタイが良く、パッと見た印象はクマ。だが服装は野性味はなく、むしろ清潔感のある襟付きのシャツに折り目のついたスラックスという妙な違和感を感じる男だった。今は至るところ破れたり汚れたりとひどい有様ではあるが。
 というかよく立てたな? 後ろの自転車ひしゃげてるぞ……。


「いや……えっと……大丈夫ですか?」
「ああこの通り元気……いやダメだな。腰が……」


 元気アピールをしようとして何故かボディビルダーのようなポーズを取ろうとして、突然腰を押さえだした。いや、あの勢いで吹っ飛んで腰だけで済んでるのはおかしいんだが……。
 急ぎの用でもなかったし、クマみたいなおっさんを家まで送り届ける役目を買って出ることにした。
 別にトラブルのおかげで仕事探しを先延ばしにできたことを喜んでの行動ではない。決して……。


 ◇


「本当にここ……?」
「がはは! 驚いたか」


 壊れた自転車を押しながら男の言う通り歩いてきたが、着いたと言われた場所を見て疑いの目を向けた。


「いや……だってなぁ……」


 むさい大男とイメージが繋がらない。
 連れてこられたのはアンティークの木が目立つお洒落な喫茶店だった。


「まぁ入れ。可愛い娘が完璧な接客してくれっからよ」
「はぁ……」


 全くもって疑わしいが開けないと始まらないので仕方なく扉を開ける。
 中に広がる景色も、外装と同じくアンティークを基調におしゃれな空間が演出されていた。


「いらっしゃいませ……」


 声小さくて遠い!


「おう。帰ったぞ瑞希みずき
「頼んでたものは……?」
「いや、それがよぉ……」
「ん。いい。父さんが外に出て役に立たないのはいつものこと」
「おい……」


 ということはあれか……。この瑞希と呼ばれた子が娘さんということか。


「……だれ?」


 じっとこちらを見つめる小柄な少女。目付きが悪い、というより目に力がない。いや全体的に力が入っている様子はないし、それがそのまま声に、言葉に反映されていた。


「えっと、 奥村貴幸おくむらたかゆきって言います。事故った彼を送り届けに――」


 いつ動いたんだ? と驚くほどのスピードで飛んできた瑞希さんが、切羽詰まった表情で父親に寄り添う。


「大丈夫? 怪我は? 何があったの?」
「落ち着け落ち着け。ちょっと腰を痛めただけだ」


 それを聞くとまたやる気のない表情に戻りスッと元の場所に戻っていった。


「そうですか」


 先程までと同じような表情ではあるが、頬が赤いのでだいぶ印象が変わった。
 元々整った顔立ちなことはわかっていたが、ぱっつんに無表情のせいで無機質な美人というのが第一印象だった。いまは頬の赤みでだいぶ、いやかなり可愛らしく見える。


「それで、事故に合わせた責任を取ってここまで……?」


 あ、説明の仕方を間違えたな。底冷えする冷たい視線を送られる。
 助け舟を出したのは父親だった。


「ちげぇちげぇ。俺がチャリを飛ばしすぎてな……。この兄ちゃんにぶつかりそうになったとこを、無理やり避けたらこうなっちまったんだよ」


 自転車を見せながらそう言うと、ハッと一瞬息を呑んで、またいつもの無表情に戻った。


「大変失礼しました。あいにくここには金目のものはありませんが……私が身体で払うということであれば……」
「待て待て待て待て!? ちょっと服に手をかけるな待て! おっさんも娘を止めろ!」
「あ、あぁ……。瑞希、ここではダメだ。部屋に入ってからにしなさい」
「そうじゃねえ!」


 親子揃って混乱してる。


「では……何か我々に出来ることは……奥村さんが今欲しいものなどは……」


 なんか妙な空気になっているが俺は別に対価を求めて連れてきたわけじゃない。強いて言えば今必要なのは――


「仕事くらいだな」
「ではそれを提供しましょう」
「は?」
「おお、そりゃ良いな! 俺もこれじゃあしばらく動けねぇしな」
「え?」


 待て待て待て。落ち着いて話を整理したい。


「料理はできるか? 経理関係は全部瑞希がやってるからよ。俺の代わりなら料理を頼みてえ」
「えっと……一応調理師免許はあるけど……」
「願ったり叶ったりじゃねえか!」


 学生時代のアルバイトの経験をなにか活かせないかと取っていた資格だ。仕事で生かせたことは今までなかった。


「では奥村さん。これからよろしくおねがいします」
「うちの店、頼んだぞ」
「えっと……はい? えー?」


 こうして目的地ハロワを介すことなく、新たな職場を手に入れた。


 ◇


「あ! 奥村さんですね! 私秋本鈴音あきもとすずねって言います! 今日からよろしくおねがいします」
「あぁ……よろしくおねがいします」


 次の日になっても頭が追いつかない俺に元気な声が飛んでくる。
 従業員は瑞希さんだけではなかった。ポニーテールに髪をまとめた、爽やかで正統派な美少女がそこにいた。瑞希さんと違って目に生気もあるし快活そうに笑うし、そしておっぱいが大きかった。


「……」


 カウンターの向こうから背筋の凍る視線を感じて慌てて思考を戻す。
 状況を整理しよう。


 ここは喫茶藤咲ふじさき
 驚いたことにほんとにあの熊のようなおっさんの店だったらしく、しばらく働けないおっさんに代わって代理店長として雇い入れられた。実際にすでに雇用契約も書面で結んだ。ちなみに待遇は前職よりはるかに良い。
 聞くとおっさんは腰が治ったらそのまま2号店の準備に取り掛かるというくらい、順調な店だったようだ。つまり期間限定ではなく普通に仕事をもらったということになる。
 金目のものはないと言っていたのに……。いやあのときのことは忘れよう。可愛らしい制服に手をかけたときに見えた可愛らしいお腹が頭をよぎり、慌てて思考の外にはじき出した。


「わからないことがあったら何でも聞いてくださいね! 奥村さんは店長さんですけど、私のほうがちょっとだけ先輩ですから!」


 えへん、という効果音が聞こえそうなくらいの表情。腰に手を当てて胸を突き出す様子もまさにという感じだった。ちなみにその体勢だと胸が強調されてとても嬉しい。いや、危ない。
 主に俺の命が。


「奥村さん……。仕事です。しっかりやってください……」
「はい……」


 研いでいた包丁を持ったままの瑞希さんに、いつの間にか背後を取られていた。


「秋本さんも、見ず知らずの男性を誘惑しないでください」


 すごい。昨日突然脱ごうとした子の台詞とは思えない。


「えぇ!? 今私誘惑してましたか?! ごめんなさいちょっと奥村さんのことはまだよくわからないし多分年齢差が……」


 なんで俺何も言ってないのに振られたんだ……。そしてリアルな理由はやめてくれ。確かに10個くらい違う気はするけど……。


「年齢差は……些細な問題です」
「えっと……ありがとう?」


 なぜか瑞希さんにフォローされてしまった。


「私は、気にしません」
「ありがとう」


 なんだこれ。秋本さんのほうは「ははーん」とか言ってニヤついて瑞希さんに近づいていった。


(瑞希さん、心配しなくても私は取りませんから)
(そういうことは……言ってない)
(またまたー。昨日マスターに聞きましたよ? ちょっと一目惚れ気味だって)
(……)


 何を言ってるかは余り聞こえないが、瑞希さんの顔が赤くなったのだけはわかった。
 あれ可愛いなぁ。


「ふふ。お父さんがお世話になって感謝しているってことですね」
「そう……それだけ、です」
「それはまぁ、俺も条件よく雇ってもらえて助かりましたし……」
「奥村さん! 奥村さんは代理とはいえ店長さんですからね! 雇われではなくしっかり私達の稼ぎを守ってもらわないと!」
「あぁ……たしかにそうだなぁ」


 店のことは調理を中心に全て任せるとまだ言われてしまっている。責任重大だ。


「大丈夫……です。私もいるから」
「そうですね。瑞希さんがいれば確かに、マスターがいなくても大丈夫ですね」
「おーい! 聞こえてんぞ!」


 奥に控えている熊のようなおっさん、マスターの藤咲さんが答え、秋本さんが笑った。


 無表情で愛想のない瑞樹さんと、快活で明るい秋本さん。
 対称的な2人の美少女と始まった新たな生活は、これまでより随分、楽しいものになりそうだった。

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