ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

027 アツシの仕事

 ソウとレオが来た日、過去最高の売上を記録した裏で、店として色々と問題が浮き彫りになった。
 その問題解決のための話やお疲れ様会を兼ねて、店の前でバーベキューを行うことにした。
 バアルがせっせと火の管理も焼くのもやってくれるのでかなり楽だ。


「じゃ、まずどっから話すか……」
「えーっと……そもそもこのお店の商品って――」


 ほのかの言葉は最後まで届くことはなかった。森に響き渡った咆哮にかき消されたからだ。


「グルルゥアオオオオオオオ」


 ほのかがビクリと跳ね、食べかけの肉が地に落ちる。止める間も無くハクがその口に収めた。人間の味付けは身体に悪いから食うなと言ってるんだが……。


「ちょっと見に行くか」
「ええ?! そんな台風のときに川を見に行くみたいな……」


 咆哮にすっかり怯えたほのかが不安そうにこちらを覗き込む。


「言い得て妙ではあるんだけどな。うちはちょっと特殊だから」
「特殊?」


 この土地はギルド自治区に依頼を受ける形で格安で譲ってもらっている。その依頼が、森とギルドの境界線であるこの場所をしっかり防衛するということ。


「ホントは特Sランクだからギルドの要請は無視できるんだが、これだけはな」


 別にデメリットがないどころか、森の異変はそのまま珍しい生き物のテイムに役立つので喜んで買って出ているという状態だった。
 それでも不安そうなほのかを安心させるために“サモン”を行った。


 元々近くにいたハクのほか、竜種やマモ、リオンなど主力級を並べる。


「今の声の主が、ここにいるやつらより強いと思うか?」


 言われて辺りを見渡すほのか。戯れ合っていたハクでさえ、しっかり立ち上がれば俺の背丈にほとんど並ぶ高さがある。
 地竜は馬の上位互換だ。サイズも馬の2倍ほどあり、その逞しい筋肉がわかりやすく竜の力を誇示している。
 翼竜はもっとわかりやすい。召喚されてすぐに空高く飛び上がり、目視ギリギリの速さで上空を飛び回っている。空からの情報と飛べることによるスピードの差は計り知れない武器になる。


 ほとんどが俺の意思に合わせ、臨戦態勢を整えていた。


「なるほど。これなら確かに、心強いですね」
「だろ?」


ほのかが安心したところで準備をしていく。バアルを一目見るとごゆっくり〜とでも言うように手をひらひらと振っていた。火の番は任せていいだろう。


「まあ今回こいつらはほとんど留守番なんだけどな」
「ええ……」


 期待を裏切られたのはほのかだけではなかったようで、どことなく残念そうに頭を下げた魔獣達がいた。


「前にテイマーのこと、説明したことがあったと思うけど」
「はい」


 出掛ける準備を整えながらほのかに話をする。


「実演したほうが良いかと思って。リオンのときは手伝ってもらったけど、今回はゆっくり見てればいいから」
「良いんですか……?」
「今後を考えるとテイムの流れとかはもうちょっと知ってていいと思うからな」


 ◇


 咆哮の主には、森に入ってすぐ出会えた。 


「グランドウルフか! こんな人里の方に来るなんて珍しい」 
「ウルフってことはオオカミですよね?」 
「そうだな」 
「オオカミって……あんなに大きいんですか …… ?」 
「そりゃ、グランドだからな」 


 ほのかの言うとおり、イメージするオオカミのサイズからはひとまわりもふたまわりも大きい。クマと同じかそれより大きいくらいの獣だ。 ハクと並んでも遜色ないかも知れない。
 崖の上からこちらを睨みつけるグランドウルフ。普通なら逃さないようにすぐに動くところだが、これだけこちらへのヘイトが高ければ大丈夫だろう。留守番にした彼らを連れてきていれば、すぐに逃げられただろうが。


「少し下がっててくれるか?」 
「はい」


 少し緊張した面持ちでほのかが数歩下がった。
 それを確認して叫ぶ。


「サモン!」 


 幾何学的な模様が空中に浮かび上がるやいなや、目にも留まらぬ速さで召喚した生物が崖の上のグランドウルフめがけてまっすぐ突進していった。 


「ミサイルみたいですね……?」 
「元の世界だと魚雷とか言ってる人がいたけど、モニターってああやって飛びかかるのがいるんだよな」 
「え?! あれ、魔法じゃなくて、トカゲ?!」 


 勝負は一瞬。いや、そもそも勝負にならなかったようだ。勝ち誇った様子でこちらに合図を送るドヤ顔のトカゲ。 
 トカゲは意外と表情が変わる。実際には何を考えているのかはわからないが、こちらの想像を掻き立てる程度には微妙に変わるのだ。あとはこちらがどう解釈して想像するかで、可愛さが決まる。だから俺にとってトカゲは可愛いし、何を考えているかわからない人にとって爬虫類は不気味な一面を持つのだろう。


「マモは見たことあるだろ? いつも世話してくれてるあのトカゲたちのお母さんだよ」 
「あんなに大きくなるんですか?!」 


 衝撃的な事実だったようだ。まあ確かに、手のひらサイズだったあいつらと比べれば、アダルトの、しかもメスである個体はとてつもなく大きく見えるだろう。 
 3m級のオオトカゲ。元の世界にもいたが、あれはもうドラゴンと呼ばれていたしな。 


「マジックドラゴンとかの方がいいのか?」 


 スマートにシュっと伸びた頭部に対し、少しタプタプしたお腹がチャーミングな彼女は、ドラゴンと呼ぶには少し威厳がないか……。 


「マジックモニターが、何か魔法を使ったんですか?」 
「ああ、気合が入りすぎてて魔法陣から飛び出したのと同時に使ったみたいだよ」 
   
 正直俺もこんなに一瞬で終わると思っていなかったから驚いている。 
 おそらく、風魔法で勢いをつけて飛んでいったんだろうけど、そのあとグランドウルフをどうやって倒したかはわからない。そのまま突っ込んで気絶させただけだろうか。 
 話をしている間に、マジックモニターは気絶したグランドウルフを背負い、崖を降りおりてきた。ここでしっかりご褒美を与えれば、また次も頑張ってくれるというわけだ。持ってきた肉をあげて一撫ですると、ねだるように頭をすりよせてきた。こういった触れ合いを爬虫類が求めることは元の世界ではほとんど無かったので、この瞬間はある意味異世界に来て一番幸せな瞬間だった。


「この肉は馬みたいな魔獣から採れたものなんだけど、この匂いがどうも他の魔獣を引き寄せるみたいでな。美味しいんだろうな、人間の味覚には合わなかったが」 
「リオンにもあげてたやつですよね?」
「そう」


 あとは普段も餌として使っているんだが、ほのかが直接世話する奴らにはあんまり縁がなかった。物珍しそうにほのかが眺める。同時に物欲しそうにマモが見ていたのでもう一切れ投げ渡しておいた。


「色々な種類の生き物を見てきた後だからか、食べ物としての生き物のイメージが薄れていました」 
「基本は自分で捕まえたりしないけどな。食べる肉はそれ用のものを買って来てるよ」 
「私がさっき食べていたのは?」 
「牛や豚に似た動物がこの世界にもいるから、それだよ」  


 ひと段落したところで、意識を戻しかけているグランドウルフのテイムを開始する。 
 とはいえ一度完膚なきまでに叩きのめされた動物は、基本的に強いものに逆らわない。まして美味い肉をくれる強い者に逆らう理由など基本的にはない。


「さっきまであんなに鋭い目つきをしてたのに、すっかり大人しくなりましたね」 


 起きてきたグランドウルフは、シュンとうな垂れて服従の姿勢を示す。 
 一切れ、持ってきた肉を与える。恐る恐る口にしたグランドウルフだったが、次の瞬間にはオオカミではなく、ただの超大型犬となっていた。 


「テイムってこんなにあっさりできるんですか ? 」 
「元々人間大好きなのはやりやすいからな」 
「オオカミもそうなんですか……」 
   
 一瞬で従順になったグランドオオカミを撫でながら、説明を加える。
   
「通常のテイムはここまでだけど、これで終わるとほんとに俺のスキルの意味がないから、ちゃんと“テイマー”のスキルを使うよ」 
「ここまでは使ってなかったんですか?」 
「少なくとも意識して使うのは、ここからだな」


 撫でていた手を離し、しゃがみこんでグランドウルフと目線を合わせる。
 双方の要求をここで確認する。原理こそわからないが、言葉を用いないためすんなり相手とのやり取りが交わせる。一方で言葉を交わさないために、漫画やアニメで見た、動物と会話や念話によってやり取りをすることはできないが。
 イメージとしては一枚の紙にあらかじめ書いてあった要求書を渡すだけ。そしてそれを、読みとるのではなく、飲み込むように身体が勝手に解釈していく。このやり取りを相互に行い、お互いの要求を示し合わせる。


「と、いう感じですすめていく」
「リオンのときも、そんなことをしていたんですね……」


 マモを撫でながらほのかが答える。


「そうそう。じゃ、実際にやっていくな」


 こちらの要求は「指示がない限り人間に危害を加えないこと」「できる限りの協力をしてもらうこと」「“サモナー”のスキルでの召喚に応じること」などになる。できる限りの協力は、戦闘に直接参加したり、嗅覚を利用して何かを探してもらったりというものに加え、他人の手に渡ることがあっても、状況に応じてそれを受け入れてもらうという内容も込められている。
 対してグランドウルフの要求はほとんどなかった。ただ強い相手に従うことが、本能的な喜びなのかもしれない。対価として餌を与えることは約束する。


「これで終わり」
「え、そんなあっさりなんですか? 一瞬見つめ合っただけに見えましたが」
「その辺はさすがにエクストラスキルって感じなんだろうな。俺としてはしばらくこいつと話し合ってたような感覚なんだけど」
「ほんとに一瞬でしたよ。目線を合わせて1秒あったかないかです」


 人にこの様子を見せたことはなかったので、意識していなかった。俺が思っているよりずっと早く、この契約作業は完了するようだった。


「それにしても、やっぱり“テイマー”のスキルってアツシさんが思っているよりすごいものだと思います」
「そうかな?」
「たとえばですけど、私が今の流れをやって、同じようにスムーズにできたと思いますか?」
「それは……」


 目の前の制服姿の少女がグランドウルフを倒すところがまず想像できず、回転の早くない頭はそこで止まってしまう。


「そこはほら、何とかしたということにしましょう」
「おう……」


 考えてみる。崖の上からこちらを睨みつけるグランドウルフに対し、ほのかが何らかの形で攻撃を仕掛ける。まあたとえば、仲良くなっていたハクあたりが協力したとしよう。
 その後、餌を与えて服従させる。ふむ……。


「いけるんじゃないか?」
「本当にそう思いますか?」


 なぜかじとっと睨まれてしまった。


「私の知っているゲームだと、こういう作業って結構失敗して、餌とかボールを無駄にすることも多い記憶があるんですよ」 
「確かにそんな経験はあるな」 
「これまでアツシさん、この流れでテイムを失敗したことってありますか?」 
「んー……いや、こうやって1度倒してからって流れで、失敗したことはないな」 
「やっぱり……」


 彼女なりになにか納得する部分があったらしい。


「試しに、その肉と、この子の協力を得て、私が他の魔獣をテイムしてみてもいいですか?」
「ああ、確認してみる。ちなみにこの子はマモって呼んでやってくれ」
「にしてもアツシさん、ほんとにネーミングが安直ですよね……」
「悪かったな……そもそも種族名にマジックモニターとかつける男なんだ。その辺は察してくれ……」
「なんか、ごめんなさい」


 謝られると余計にみじめになることを知った。


 ひとまず、ほのかの提案を受け実験を行うことになった。
 ほのかの見立てでは俺が思う以上にこのスキルは有用性があるとのことだ。彼女の予想が的中してパワーアップというのも嬉しいが、5年も使ってきてこれ以上の効果に気づかなかった身としては、そうなった場合は複雑な心境になるだろう……。


 かくしてほのかによる“テイマー”の効果実験が始まった。



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