ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

025 商談

「大繁盛じゃねえか! 宣伝した甲斐があったなぁ」
「突然で迷惑じゃなかったか?」


 それぞれの性格が良く現れた挨拶だった。


「今のところは俺だけでもなんとかなってる。ありがたい悲鳴だ」
「それは良かった。俺たちのことは後回しでいい。客が落ち着いたら声をかけてくれ」
「もう少ししたらほのかが戻ってくる。それまで待っててくれるか?」
「そりゃあ女の子が来るって言うんなら待つさ!」


 戻ってきたほのかに今いるお客さんの接客を任せて、2人の元に行くのは俺だけになる可能性が高いがそれは黙っておこう。ソウもわかってるがあえてレオに伝えることはないようだ。本当にいいコンビだなと笑いながら接客に戻った。





 その後も客の対応に追われながら、なんとか捌ききった。
 強い魔物を見たがる要望が多かったので、途中からはもうわかりやすくレオンやマモ、その他竜種は俺のそばにいてもらった。この人数が相手なので触るのは遠慮してもらったが、そもそも興味本位で声をかけてくる客にこいつらを触る勇気のある客はいなかった。


「戻りました!」
「エリスは?」
「人が多いのを見てそのままどこかへ行かれました……何か用事がありましたか?」
「いや、それならいい」


 あわよくば店番を手伝わせようとしただけだ。おそらくエリスもそれを察知して消えたんだろう。


「えっと、どこから何をすればいいですか……?」
「それはもちろん俺たちの接客を」
「こいつら以外の接客を」


 レオの顔が固まるが、ソウが当然だと言わんばかりにレオを引きずっていく。昨日と同じ、少し開けた場所に移動した。





 色によって5種類に分けられる地竜に対し、飛竜は大きく分けて2種類になる。
 翼竜と風竜。
 翼竜はワイバーンとも呼ばれ、Bランクがパーティーを組めば倒せなくもないという相手だ。他の竜種に比べて一段階見劣りする。竜種の下位というよりも、トカゲの上位という考え方があっているかもしれない。


 風竜は強い上にレア種だ。うちにいる魔獣の中でも戦闘力は上位に入る。ハクなら勝てるにしても、その辺で風竜を見つけたとしても安易に手が出せないだけの強さがある。そもそも探しても見かけることも少ない。
   
 2種類しかないのではなく、おそらく2種類しか発見されていないだけだろう。風竜や翼竜にも、色や角の有無や翼の形状、身体の大きさなどの違いをしっかり調べれば、亜種やモルフとして確立するものも多いとは思う。
   
「昨日の今日で早すぎるかとも思ったが、ちょうど遠征に出る予定ができてな」 
「それで、どうせならあんたの言ってた移動要員をと思って来たんだ」 
   
 財布代わりに使われている皮袋を見る限り、値段も覚悟の上だろう。 
 1日でこの金額を用意してくるあたり、この2人の稼ぎの良さに少し嫉妬する……。 いや、冒険者一本に絞れば俺もこのくらいは稼げるのだろうが、好きなことで稼げている2人を見ると羨ましくもなる。もちろん冒険者の仕事が嫌いというわけではないが……。複雑な心境だ。
 まぁいまは切り替える。


「できれば飛行能力があった方がありがたいが、今2人が使える金額はこれだけだ」


 持ってきた革袋をそのままこちらに渡してくるソウ。


「確認させてもらおう」


 中を確認する。もちろんぱっと見て枚数がわかることはないが、全てがギルド共通の金貨であることを確認すれば、あとは革袋のサイズでおおまかな枚数を計算できる。
 500枚はある。
 サービスするなら翼竜2匹くらいは譲ってもいいかもしれないと思える金額だ。


「十分あるな」
「それは良かった」


 ソウが安心したように息を吐いた。値段の目安は昨日伝えてはいる。


 元の世界でもモニターと呼ばれる大型のトカゲの値段でも、安いものでは1万円を切っていた。最もメジャーな大型トカゲであるイグアナなど、3000円で売られることもあったし、一方で高級種となれば一匹で100万円を裕に超えた。
 元の世界の基準は珍しさが重要視されていたのに対し、こちらの世界ではそもそも全てが珍しいので、実用性や単純な見た目が重要視される部分が大きいだろう。


「この値段だと、一人一匹か?」
「そこまでは決めていなかったな」
「そうか。それならまぁ、色々出すとしよう」
   
 購入前提ということであれば、昨日よりも多くの種類を呼ぶ必要があるだろう。 
 他の客もいるしパフォーマンスも兼ねられる。 
   
「サモン!」 
   
「うぉお……」 
「何回見ても、すげぇな」 
「いや、これ、昨日の倍……いやもっといるな」 


2人は昨日の今日だから驚きは少ないが、今の状況を考えるとやりすぎたかもしれない。 


「何?!」
「竜の群れ!?」


 説明なしに大量の竜を目の前にした客が騒ぎ出した。


「しまったな……」
「この竜は、もちろん安全だよな?」
「あぁ、そうだけど……」


 問いかけてきたソウに答えを返すと、2人が同時に動き出す。


「可愛いやつらだな!!!」
「あぁ、これなら冒険も安心だ!」


 2人に撫でられる風竜が大人しくその手を受け入れる。
 少しわざとらしさもあるが、2人の反応を見て他の客の反応が変わった。
 呼ばれてしばらくはしっかり並んでいた地竜たちも、その様子をみて2人の下に駆け寄る。


「これは、撫でろということか?」
「元々地竜は人懐っこいやつが多いんだよ」


 自分より小さな相手にでも目を細め、頭をこすりつける地竜。甘え上手なやつらは可愛い。
 ここまで来ると客も安心感を覚えたのだろう。店にいた客も何事かと出てきて、大道芸人の見世物を囲うように、2人の周りに人垣が出来上がった。


 地竜を各種、計12匹。翼竜を4匹。風竜を2匹召喚してある。 
   
「一応聞くけど、これで竜種は全部だよな?」 
「いや、水竜みたいな特殊な環境下のやつもいないことはないけど、今回はいいだろ?」 
「てことは、他にもいるのか……本当にとんでもないもんだな、Sランクってのは」 
   
 実際には地竜も飛竜もこれ以外にもストックはある。 
 竜種は大量発注が入りやすいので、穴場スポットを見つけて定期的にテイムをしに行っているしな。穴場といっても、わざわざワイバーンの巣に飛び込んでいくのは俺くらいだと思うが……。


 地竜の巣は移動式なので、一度テイムした地竜の協力を得て捕まえることが基本となる。そういう意味で、全てを売り出してしまうわけにもいかないという事情もあった。
   
「風竜だけはちょっと事情も違うし、はっきり言って本来はこの値段では出せないけどな」


レオから疑問の声があがった。


「そんなに差があるのか? 正直翼竜と風竜の違いがわからねぇ。教えてくれ」
「簡単に言うなら、翼竜はそれが限界だ。この距離に来れば何となくわかると思うけど、2人がかりなら1匹を相手にする分には問題ないだろう?」


 Aランクに片足を突っ込んでいる2人なら、特に問題になる相手でもない。


「それは分かるが、俺の感覚では風竜もそう思う」
「今のそいつらの実力ならそうだろう。でも、その風竜はまだ子供だ」
「子供?」
「ベビーとは言わないが、イヤリングサイズと言ってもいい」


 ヘビのサイズごとの呼び方だが、これを竜にも当てはめている。
 孵化直後はハッチリング、そこからベビー、イヤリング、ヤングアダルト、アダルト、フルアダルトの順に成長していく。この説明は前日伝えている。


「ちょっと待ってくれ。最大でどのくらいになるんだ?」
「はっきりとしたことはわからないけど、家一軒くらいは超えるんじゃないか?」


いっそ山奥には小山1つ分とかっていうのもいると聞いたこともある。


「まじか……」
「と言っても、竜種の中でもこれだけの力を持っていれば、成長も遅いだろう。俺たちが生きているうちにそこまで大きくはならないと思う」
「それにしても、一度飼ったらその後のことも考えないといけないってことか……」
「それに関しては、うちで預かるシステムを考えてるよ」
「それはありがたいが……あんたは人間の寿命を超えるって言うのか?」
  
 竜の寿命は数百年から長いものではもはや何千年に来ているか分からないものもいる。それに対して、人族の寿命は長くても100年。当然俺もそれ以上生きられない。


「俺も化け物じゃないし、100年もすれば死ぬだろうさ」
「いや、これだけの戦力を一瞬で揃えてくるのは俺から見たらすでに化け物だ……」


 おかしいな……。いやいまはそれは関係ない。


「俺たちよりあんたが先に死んだら、こいつらは言うことを聞かなくなるってことか?」
「いや、売る時に契約を更新して、この場合は2人にその権利が譲渡される形を取る。2人にもしものことがあった時は、俺の下に来るようにできる、ってことだな」
「なるほど」
「待った。ソウがわかっても俺がわかってない。もう少しわかりやすく頼む」
「要するに2人が生きている限りは2人の物。生きているうちに譲渡先を見つけられなければ俺が保護するってことだ」
「それは、例えば俺たちに子どもができたりしたら、そのまま引き継いでいいってことだよな?」
「そうだな」


 その場合も契約を更新せずとも問題ない。


「俺が得をするためのものじゃなく、あくまでこいつらが路頭に迷わないための契約だ」
「理解した」
「何となくわかった。ソウがわかってるならいいだろ」


 元の世界において、一度飼ったものをリリースすることはご法度だった。これは、もともと生息圏の違う生き物をペットとして輸入していたという観点もあるが、一度餌付けされた動物は野生に馴染めないという側面もある。
 野生の熊が人里に餌があることを学んでしまった結果、殺さざるを得なくなってしまったという話は元の世界ではよく聞く話だった。一度人に馴れたうえで見はなされた動物は、害獣になってしまう。


「もし俺が死んで野生下に戻ったとしても、人に危害を加えないとか、そういうところはなるべく残るようにはしてるけどな」


 死んだあとにスキルの効力がどれだけ働くのかわからないので、その辺はなるべくとしか言えない。


「そう言うことなら、ひとまず安心だ。何より寿命が長いなら、この出費が無駄になる心配もない」
「もちろん何があるかわからんぞ? 病気もあれば冒険に連れて行くとなればそれが直接の死因になることもある。はっきり言って竜種に関しては完全に解析できているとは言えない。ある程度のフォローはするにしても、もしものことは覚悟しておくべきだ」


 買って環境が変わった途端状態が落ちてそのまま助からないというのも、よくある話だ。
 ほとんど放し飼いのこいつらならそこまでの問題は起こらないだろうが、その辺は説明しておく責任はあるだろう。


「そこは俺より詳しいあんたの判断に従うつもりだ」
「責任重大だな……。今ここに呼んだやつらなら、文句無しでどれでもお勧めだし、その後のこともきっちり説明しよう」
「わかった。値段も聞いていてもいいか?」


 金の話になった途端、レオは逃げるように竜たちの元へいった。細かい話はソウに任せるということだろう。
 地竜は遊びに来たレオをつついたり舐めたりして遊んでいる。風竜は我関せずというようにすました顔で大人しくしているが、翼竜たちもレオの服や武器をつついてみたり咥えてみたりして遊んでいた。
 レオが遊んでいるのか遊ばれているのかわからない状態であたふたしている中、ソウは冷静に商談を進める。


 大まかな値段と特徴をそれぞれ説明し、あとは2人がじっくり観察する時間にしてもらうことにした。
 多分これを選ぶだろうなという予想を立てながら、遊ばれるレオをのんびり眺めて過ごした。





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