ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

020 ペットショップのお仕事

「サモン」 
「いつ見てもすげぇ魔法だな」 


 “サモナー”のスキルを使って商品をすぐに客の前に並べられるのは大きい。仮にもエキストラスキルをこう使うのかというツッコミもあるが、俺はあくまでペットショップオーナーだ。最善の使い方だと思う。……思いたい。


「俺がすごいというより、ラッキーで拾ったエクストラスキルのおかげだけど」 
「スキルは自分の力だ。じゃなけりゃ俺だって、戦えやしねぇよ」 
   
 スキルはそのものが持つポテンシャルを突破したときに得られる力といわれている。 
 たとえば、足の速さ。元の世界では100メートルを10秒きれればいいところだったはずだ。これが人族における、本来の限界であるとする。 
 この世界ではその限界を突破する者がちらほらいる。たとえば身体を強化して、たとえば瞬間移動のような力を用いて、百メートルを一瞬に近い時間で詰めることができる。 
 こういった、本来その種族の持つ力を超えた力をスキルと呼ぶ。 
   
 アランさんのスキルは筋力を向上させる“剛力”。 
 彼の持つ斧は普通の人間では振り回せない。 
   
「それもそうか」 
   
 会話をしながら召喚を繰り返す。5匹ほどの小型の魔獣を机に並べたところで、いったん手を止めた。 
   
「さすがに俺の好みをわかってやがる。どれもこれも連れて帰りたい……」 
「アランさんになら喜んで出すけど、そんなに一気に増やして大丈夫かい?」 
「いやぁ……さすがに連れて帰れても2,3匹までだな。それ以上は嫁さんに怒られちまう」 
「今後も長く楽しむためにも、嫁さんは怒らせたくないな」 
「その通りだ。と言うわけで、嫁と娘の好みも考えて選ばせてもらう」 
   
 アランさん一家の好みはウサギを中心とした小動物だ。
 この世界のウサギは耳が垂れているものが多く、尻尾も犬のように振り回せるほどふさふさだ。動き方はウサギだが、見た目で言えば小型犬に近いものも多い。
 意外というと失礼だが、娘さんや嫁さんの影響ではなく、アランさん自身の好みがこの手の小動物だ。 
   
「アランさん好みだとこれだけど、どうかな?」 
   
 ウサギにいちいち種族名はつけなかった。耳の形、サイズ、柄、色は個体差として扱っている。 
   
「こいつは確かに可愛いんだが、うちに似たのがいるからな。嫁としては見分けが付かなくなるのはいやだってよ」 
「確かに慣れないとあんまり違いがないように見えるか」 
   
 同じ白黒。耳が大きいのも一緒だ。サイズもすぐに追いついてしまうだろう。
 毎日接していてもパッと見分けがつかなくなっては不便だろうからな。
 

 同じ種類を多頭飼育するメリットは多い。餌も増やす必要はないし、飼育環境も変わらない。勝手も良くわかっているので戸惑うこともないし、ものによっては繁殖も見据えられる。
 だが一方で、似たようなものばかりというのは分からない人から見れば退屈な面もある。家族で飼う場合バランスも必要になる。


 何か方向性の違うものを紹介していこうかと思っていたところで、店内からバタバタと足音が聞こえてくる。


「アツシさん! 大変です!」 
「ん?」 
   
 足音の主、ほのかが店から飛び出してくる。
 アランさんの接客の間、バアルと一緒に店内でできることをやってもらっていたが、何かあったのか。
   
「何だ、他に客がいたのか。珍しいな」 
「いや、この子は……」 
「アツシさん! そんなことより、突然いなくなっちゃったんですよ!」


 ほのかの慌てていた様子に心当たりがある。
 

「あぁ、なるほど」 
「落ち着いてる場合じゃ……!」
「こいつらか?」 
「そうです! その子たち……って、あ!」 
   
 ほのかの方も謎が解けたようだ。 
   
「どういうこったい?」 
「目の前で突然こいつらが消えて、驚いて出てきたようだ」 
「あぁ、なるほどな。この店では良くあることだ」 
「そうなんですか?!」 
   
 俺の留守中にやってきた常連客の目の前で、くつろいでいたハクやその他の大型の魔獣が突然消えるという事態はたまにあった。はじめは驚いていたアランさんも、何年も付き合っていく中で慣れた。 
   
「紹介するよ。うちの従業員の、ほのかだ」 
「よろしくお願いします!」 
   
 ぺこりと頭を下げる。 
 こうなってくるとあれか、制服とまでは言わなくても店員とわかる格好をさせるのも考えたほうがいいかもしれない。 
   
「ずいぶん可愛らしいお嬢ちゃんだなぁ、どこで捕まえた?」 
「人聞きが悪いと言うか……まぁ捕まえたと言えばそうなのか。同郷人だよ」 
「なるほどな……しっかし、うちの娘くらいじゃねぇのか? 大丈夫なのかこんな子ども連れてきて」 
   
 連れてきたのは俺ではないが、気になるのは確かだ。 
   
「私が無理を言って連れてきてもらったので、大丈夫なんですよ」 
「そうかい。お嬢ちゃんのほうからか」 
「はい」 
「そうか、大切にしてもらいな」 
   
 なんか誤解をされている気もする。 
   
「お前さんにその気があるんだったら娘を紹介しときゃあ良かったなぁ」 
   
 やっぱり誤解されていた。 
   
「ほのかはそういう関係じゃないし、アランさんの娘さんまだ10歳くらいでしょ……」 
「私、10歳と大差ない扱いを受けていたんですか……?」 
   
 まあ、アランさんの娘さんと大して差はない感じはたしかにある。 
 この世界の住民は元の世界よりは早熟といえるし、ほのかはオブラートに包んで言えば、晩成すぎるところがあった。 
   
「もう13になったよ。いつまでも最初に会った時のままだな」 
「そうか、いつの間にかそんなに経ってるのか」


 どうにも人の歳を覚えるのは苦手だ。あっという間に変わっていく。


「さてと、決めていこうとは思うが、他に何かいるか」
「んー、奥さんが似たようなのを避けたいっていうなら、ガラッと変えようか」 
   
 “王ウズラ”を召喚する。 
 こちらの世界にきて名前をつけたが、一言で言えば大きなウズラ。大きいと言ってもあくまでウズラとしては、だが。
 そしてそもそも元の世界でウズラをそこまでまじまじ見たことも少なかったので、単純に羽を使って飛ぶことのない地上性の鳥、というだけで命名している。どの動物にも言えるが細かい部分で元の世界の生き物とは違う。こいつらも顔になんか模様があったりするしな。


「こいつは、もしかしてピーヤか?」 
「そのとおり」
   
 元の世界では、ウズラはスーパーで売られている卵にも有精卵があり、適切な方法で管理すれば孵化まで持っていけた。
 この世界で売られている卵はピーヤと呼ばれる家畜のものだった。ためしに暖めながらたまに転がしていたら生まれたのがこいつらだ。王となずけたのは元の世界で本来のウズラより一回り小柄なヒメウズラという品種があったため。大きいし大ウズラでも良いかと思って、そこからちょっと捻って名前を付けた。 
   
「ただ、何代か取ったし、こいつらは生まれたときから人を親だと認識して育ってる。家畜のピーヤと違って人懐っこくて可愛い」 


 いわゆる品種改良だ。
 似たような例は元の世界のドブネズミがある。俺が転移した頃はペットショップでファンシーラットという名前で売られるようになっていた。色や柄が可愛らしくなり、実はハムスターより賢いため若い人にも人気だった。


「召喚した途端お前さんのところに駆け寄って行ったな」 
   
 ピーヤの場合は人間が近づけば飛べない羽をばたつかせて逃げ惑うだろう。これが王ウズラとピーヤの違いと言えるかもしれない。
   
「王ウズラって名前にしてある。ピーヤだとちょっと抵抗があるだろうし」 
「それはいい。ピーヤの子どもだと言うより、別の名前があったほうが娘なんかは気に入りそうだ」 
「そうかい。良かった」 
   
 思いつきでつけた名前だったが、無いよりはいくらか良い感触が得られたようで何よりだ。 
   
「高いのかい?」 
「いや、鳥は哺乳類より増やしやすい。ウサギに比べれば全然さ」 
「そうかい。それならちょっと、試してみるかな」


 可愛いのは可愛いが、元は家畜だ。大した値段は付けられない。
  
「メリットとしては、放し飼いにすればこぼした餌でも拾ってくれる。人には慣れてるから呼べば来るようにもなると思う」 
「そうかい。呼んできてくれるってのはやっぱり、いいもんだよなぁ」 
「ここからどれだけ馴らしていけるかにもよるけど……。飛んだりもしないし、あとはあれか、こいつがメスなら将来的には食費の足しになるかもしれない」 


 この世界の標準的な卵はピーヤから取られるからな。


「なるほど……」 
「大きくなるまでに興味を持ったらうちでペアにしてくれてもいいしな。今はそいつの兄弟しかいないからお勧めできないけど、別ラインでまた用意しておくよ」 
「そういわれると欲しくなっちまうなぁ」 
   
 繁殖は飼育者にとって一つのロマンだからな。アランさんの様子に懐かしいものを感じて思わず笑顔に成る。 
 ただ近親相姦による弊害を防ぐために、兄弟姉妹でペアにするのは避けたほうがいい。 
   
「早めに用意しておく。ただ、デメリットはある」 
「大抵のことは大丈夫だと思うが」 
「まず、哺乳類ほどトイレトレーニングは徹底できない」 
「そいつはまぁ、浄化できる範囲なら問題ない」


 ほんとに便利だな。魔法。 


「あとは、餌は比較的何でも食べるけど、いまうちではピーヤに使う飼料をあげてる」 
「餌の種類が増えちまうってことだな? まぁ活餌でもあるまいし、問題ない」 
「ならよかった。もうこのサイズなら問題はないとは思うけど、小さいうちは水入れに落ちて溺れたり、体温が下がって死ぬこともある。そこだけは気をつけて」 
「常に家には誰かがいるし、他の動物にも見といてもらえばいいだろう」 
「それもそうだな」 
   
 アランさんのペットたちは温厚な上、賢い。 
 ウサギも半分犬の見た目というだけあって、割とこちらの意図を汲んでくれる。テイムの内容も影響はあるだろうが、新入りの面倒を見てくれるくらいには賢い子たちだ。


「とりあえずこいつはキープとして、他にも色々いるからな。店内も見ていかないか?」
「そうだな。どうもきれいになったみてぇだし、見てくるとするわ」
「ほのか、案内をしてやってくれ」
「わかりました」


 案内と言っても特に説明も出来ないだろうし、どこになにがあるかもアランさんの方が良くわかっている可能性すらある。単純にほのかに接客経験を積ませたいだけだ。
 召喚した小動物たちと戯れながら、店の中に入っていく2人を眺める。まぁ大きな問題は起こらないだろう。少ししたら追いかけて様子を見るとして、しばらくはこいつらと戯れよう。
 店でずっと見てきたやつらとの別れは、なんだかんだ言って寂しいものだから。 



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