ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

019 新装開店

 バアルはみるみる仕事を覚え、店の留守は任せられると言ってもいい店員へと成長を果たした。見た目のとコミュニケーションの問題で接客だけは任せるわけには行かないが……。
 時間のできた俺達は、ほのかの修行の意味も込めて依頼を受ける機会を増やした。この調子で行けばAランクもそう遠くないだろう。


「バアルはしっかり留守番してるかな?」 


 特段変わった仕事があるわけではないが、あのひょうきんなガイコツが大人しくしているイメージはない。一抹の不安が拭いきれないため店を任せられるようになってからも最小限の時間しかあけないようにしていた。 


「大丈夫ですよ、きっとお店のためにたくさん頑張ってくれてます」


 ハクに跨りにこやかに答えるほのか。
    
「店のための動きとかを取られていた方が不安なんだけど、まあいいか……」 
   
 店の不利益になる行動はとれない。何かあるとすれば事故だが、すでに自分の骨を喜んで地面に突き立てるという前科のあるバアルに関して言えば、十分な懸念材料になる。
 まあ、事故があって全部ひっくり返したとしても、周りには高位の魔獣がひしめいている。生体の生存本能に従えば店から出ようとは思わないだろう。 
 不安なやつらはテイム済みだし、まぁ何とかなるか。
    
「ただなんか、今日は胸騒ぎがするんだよなぁ……」


 ◇


 そこはかとない不安を感じながら帰ってきた店は、変わり果てた姿になっていた。


「なんだこれ……?」 
「すごい! 見違えるようですよ!」 
   
 なんということでしょう。 


 店の周りには牧場のような低い柵が設置され、ものが乱立していた入り口はすっきり整理整頓、店内は明るい雰囲気で足を運びやすい空間になっていた。 
 柵を挟んだ店先にはギルドの食事スペースのような丸いテーブルと椅子が何セットか置かれ、オープンテラスのようになっている。 
   
「これ、全部バアルがやったのか?」 
   
 カタカタカタ。 
   
 首が縦に振られる。 
   
「すごい! さすがバアル!」 
   
 ほのかがハイタッチしている。いつの間にそんな仲良くなったんだ……。
   
「ほんとにやってくれたんだね!」 
「ほのかが頼んでたのか」 
「はい。こんな風にすればお店ももっと盛り上がるだろうなぁって感じでしたけど……まさかここまでやってくれるなんて」 
   
 興奮気味に語るほのか。
 事態についていけない俺は終始困惑気味だった。
   
「あ……すみません、勝手に……。やっぱり、迷惑でしたか?」 
   
 カタ。 
   
 不安そうに二人に見つめられる。 
 戸惑ったのは事実だが、不満はない。もともとこういう形で変えていこうという話はあれからしていたからな。勝手に進めたというわけでもない。


「驚いただけだ。ありがとう。ただ、差がありすぎてな……」


 俺は良いにしても常連が戸惑わないかだけが心配だが、まあそれも客が来ればわかるか……。


「とにかく入ってみましょう!」
「ああ」


 中の様子がほとんど変わっていないことに安堵する。
 雑多に積み上げられていた空きケージや木箱が整理され、全体の見栄えが良くなっただけだ。


「ここはいじらないでいてくれたんだな」


 カタカタカタ。


 頷くバアル。


 魔法石をはめ込んで応用した魔道具は、元の世界で言う電化製品のように使える。
 店全体の空調を行う魔道具に加え、各スペースごとに適切な温度帯になるよう、細かく設定して魔道具を配置してあった。これをいじられると大量死の原因にもなる  。


 生き物は温度に敏感だ。基本的にこの地域の生体なので、元の世界ほど気を使うことはないが。
 元の世界で爬虫類を飼育するなら、冬場にもペットの空間だけは30度に保つ必要があったりしていた。
 夏は夏で、暑すぎても危険なのでクーラーをつけっぱなしの生活をしたりと、餌や世話よりも、ある種最も気を使う要素が温度だ。
   
「そこまでの配慮と、この実行力か……」


 カタ。


 動きが止まる。
 ただのボーンソルジャーとしては、かなりオーバースペックと言える。


「どうしましたか?」
「いや、バアルはすごいなって話だ」


 考えられる可能性はいくつか思い当たらないではない。だがまあ、ボーンソルジャーと本人が言うのなら、それでいいだろう。
 どことなく安心したように、楽しげにカタカタ震えていた。


 ◇


「このあとは一人、客が来る予定だ」
「初めてのお客さんですね!」


 改装後初という意味か、それともほのかにとって初めての客と言う意味か……。どちらもあてはまるな。
 この改装で客が増え、ペット文化や生き物への理解が少しでも深まることを願おう。


「なんだこれ?!」
「噂をすれば、だな」


 外から聞こえてきた大声の主を迎えにいく。
 店の前には、むさ苦しいおっさんが立っていた。


「何だ、これいったいどういうこった?」
「アランさんにはお気に召さなかったかな?」
「いやぁ、まるで別の店だ。間違えたかと思ったぞ」


 アラン=リベック。いかにも豪快そうな見た目通り、大斧で魔物をぶん殴るパワータイプの冒険者。反面、ベテランらしい知恵と経験に基づいた勘の鋭さも光る、Aランクの冒険者だ。


「まあ、こうして座って話ができるというのもいいんじゃないか?」
「そうだな。ここに来てもゆっくり見て回ろうなんざ思わなかったが、これなら話は変わるわな」
「それは良かった。ゆっくりしていってくれ」


 店を始める前からの付き合いがあるアレンさんが好意的に受け止めてくれるというなら、この改装は成功だろう。常連客の評価は重要だ。


「だがまぁせっかくお前さんがいるときに来たんだ。店長お勧めが入ったって言うんならまずそいつからだが、どうだ?」
「また増やすのか? そんなスペース良く……いやまぁあいつらはいくら増えても何とかなるか」


 顔に似合わず、というと失礼だが、アランさんの好みは完全な愛玩動物だった。
 大型のトカゲか、小型の竜あたりとパートナーになればかなり相性が良さそうだが、そっち方面には今のところ興味がないらしい。


 フェリスなどのネズミやハムスターサイズの動物より一回り大きな、モルモット、チンチラ、ウサギ当たりに似た生体がアランさんのメインだ。基本は放し飼いで対応ができる上、増えれば増えるほど動物同士で遊べるためにストレスが減る。群れで生活していたタイプの動物たちは特にそうで、アランさんにはそう言った形で飼育できるものを勧めていた。
 すでに十数匹の小動物に囲まれて生活しており、冒険者の仕事も半分くらい彼らのための狩りになるときがあるほどだ。


「あぁ、娘がえらく気に入ってなぁ。最近じゃあお父さんがいるとこっちに来ないからって追い出されちまう始末だ」
「それは、確かに一度懐いた相手にはずっとくっつこうとするからなぁ」


 寄って行けば構ってもらえることや、餌をもらえることを一度覚えれば、彼らは本当に人懐っこく可愛い。
 娘からすればアランさんがいると自分のところから離れていくわけだから、まぁそうなるか。


「そうなんだよなぁ。それが可愛くて可愛くて仕方ねえんだ……。というわけだから、娘のためというか、俺のためというか、少し増やしてやりたくてな」
「了解。いくつか紹介しようか」


 アランさんに紹介する生体をいくつか頭の中でピックアップしながら、店内へ入った。
 ほのかも初めてのお客さんにソワソワしながらも付いてきていた。

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