ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

013 金塊を求めて

「で、ほのかは土魔法まで習得してるのか?」
「土魔法くらいはまぁ、できるでしょうね。教えてないけれど……」
「それは……」


 優秀すぎる生徒というのも大変なようだ。


「でも複合魔法はこれからね」
「複合魔法の習得が今日の課題か」


 なんでも1人でやられては師匠をつけた意味がない。エリスならまぁ、色々引き出しがあるからほのかについていけなくなるなんてことはまずないだろう。


「そうね。基本属性の3段重ねができれば、今日中に調査も終わるわ」
「3段……?」


 基本魔法を使いこなすだけで10人に1人いるかいないか。複数属性が使えるのがその中で5人に1人。さらにそれらを複合させられるのは、おそらく3人に1人。150人に1人くらいが複合魔法の使い手ということになる。そしてそれが実践レベルで使えるのはさらに数えるほどに絞られる。


 それを3つ重ねるらしい。3属性持ち以上の魔法使いと言うだけでそもそも1000人に1人レベルの逸材だと思うが……まぁいいか。2人を常識に照らし合わせるのはこちらが馬鹿らしくなるな……。


「調査はこの一帯の地中に行わないといけないけれど、ホノカならどうするかしら?」
「えーっと……土魔法で掘り返しながら進む……でしょうか?」
「それでもいいけれど、そうすると数十日かかるわね」


 調査範囲は広い。土属性の魔法使い1人ではそうなるだろうな。


「ちなみにアツシならどうするかしら?」
「俺か? このあたりは地中の魔物も多いから、そいつらをテイムするだけだな」


 俺は魔法石なしで魔法は使えない。魔法石はそこに込められた魔力でそこに込められた魔法を放つしかできないため、ほのかやエリスのような魔法の応用を考える力はない。力押しだ。


「私もあの子達に頼んだほうが楽かもしれないわね……」
「えっと……」


 ほのかは残念ながらテイムのノウハウがあるわけではないし、せっかくなら魔法で解決したいと考えている顔だ。


「いまのがヒントだけど、どうする?」
「ちょっと待って下さい。考えます」
「いまのでなんかヒントになったのか……?」


 答える代わりにほのかが地面にメモを展開していく。
 ――地中 範囲 魔物 土魔法……


 単語が並び、それが線でつながっていく。俺には何のメモか途中からわからなくなったが、エリスがうなずいているのを見ると正解らしい。
 ちなみにほのかが書いている言語は日本語ではなくこの世界の言葉だ。だから単語レベルでしかメモができないのかもしれない。多分魔法陣の構成などで言語を使うから、初日からみっちりエリスに仕込まれたんだろう。


「あっ!」
「わかったかしら?」
「はい……。まずこの範囲を自分の目で確認することは諦めます」
「そうね」


 それが俺たちのやり方を聞いて得たヒントか。なるほどそれでいいならヒントになったと言えるのか。ただ、じゃあどうするのかという話だ。


「エリスさんの蟲魔法、あれと同じものを作ります」
「素晴らしい!」
「は!?」


 思わず声が出る。いや、あれ1000年に一度の奇跡とか言われるオリジナル魔法だぞ?
 いきなり素人が手を出していいのか?


「アツシは変に常識にこだわるようになったわね。最初はもっと面白いことを考えていたのに」


 エリスが笑う。


「5年も経ったらそりゃそうなるだろ」


 だがまぁ確かに、ほのかのように魔法を作るなどと言った話は、端っからありえないものとして排除してしまう癖はついていたかもしれない。悪い意味でこの世界に慣れてしまったのかもしれない。


「私の蟲魔法、その組み立て方の基礎を教えるわ」


 その話、他の魔法使いたちに言ったら国が傾くレベルの金が動くだろうなぁ……。


「それをもとに今回の依頼達成にぴったりな魔法をつくりましょう。私の見立てなら、3重で足りるはずだから、そこまでの魔法の重ね方も並行して教えていくわね」
「よろしくおねがいします!」


 ほのかは目をキラキラさせているが、俺はその話を聞いて気が遠くなっている。
 そもそも3重魔法すら、魔法使いが生涯をかけて臨む命題。オリジナル魔法なぞ人1人の生涯くらいでは足りない場合が多い。それを魔法を習い始めて2日の少女が実践するわけか……。


「というわけで、流石に少し時間がかかるから、アツシは自分の仕事をしてていいわ」
「わかった」


 2人を置いて先に森に入ることに決めた。


 ◇


「さて、このくらいでいいだろ」


 採取品は7種をそれぞれ200ずつ、討伐は依頼通り3種50匹、ついでに餌になりそうな動植物の確保。
 そして


「こいつは収穫だったな」


 まん丸の風船のような魔物がすり寄ってくる。


「フェイクバルーン……今までのより小さくて使い勝手がいい」


 テイマーの戦い、というより、俺の戦いはだまし討ちのようなケースで攻めることが多くなる。そのだまし討ちを支えているのがこのフェイクバルーンのような、擬態系の魔物だ。
 普段は木の実に化けて近づいてきた鳥を食べる。狩場に納得がいかなくなったら雲に乗って移動する。
 木の実に限定せず、丸いものには何でも擬態できるのが便利なやつだ。そして丸くて浮くということで、モノの持ち運びにも適している。フェイクバルーンに紐をつければ、そのまま元の世界の手紙付き風船のようになる。この世界では貴重な伝達手段の1つだ。


「じゃ、頼んだ」


 くくりつけるのは手紙でなくても構わない。
 討伐した魔物たち、解体して証拠品と使える部位だけに分けているが、いかんせん量が多い。
 こいつにくくりつけておけば、くくりつけられた部分までが魔物の一部として判定を受けるため、このあたりに放置しておいて帰ってから“サモン”するだけで持ち運ぶ手間は省けた。
 討伐に出るたびにものを運べる魔物をテイムすることで、持ち運びの手間を短縮する。このおかげで俺は店を離れる機会を最小限に抑えられていた。


「そろそろ戻るか」


 ◇


「できました!土竜もぐら3号です!」
「まじか……」


 ほのかはオリジナル魔法を完成させていた。
 3号ということはきっと、早い段階で初号機は完成していたのだろう……。


「これなら今日中に終わるかしら? これ、何体まで出せるの?」
「えーっと……100、はちょっと厳しくて……70くらいまでなら安定できると思います」
「まじか……」


 いよいよついていけなくなってきたな……。


「じゃ、それでいきましょう」
「はい!」


 ほのかの放つ魔法、『土竜』は、特性としてはもぐらでありながら、見た目としては日本人が思い浮かべる細長い龍のような容姿だ。それがほのかの周囲を飛んでいる。
 半透明の魔法でできた竜を複数まとわせる少女……。当然ながら土に潜っていくんだろうけど、パット見るとほのかのほうがテイマーらしい。


「ほんとに作ったのか……」


 エリスの指導、ほのかの才能……。噛み合ったものとはいえほんとに恐るべきと言える成長スピードだった。


「じゃ、あとはこの子たちに任せるだけね」
「はい!」
「魔法のことは詳しくないけど、ほんとにほっておいていいんだな……?」


 自律魔法って革新技術な気がするが……まぁ2人には何を言っても無駄だな。


「あとは近くの宿でも取って、夜のうちに調査ね」
「アツシさん、帰らなくて大丈夫ですか?」


 ほのかは店の子達を心配しているようだ。


「1日くらいは大丈夫だ。万が一のときのことも頼んでるかな」
「なら良かったです!」


 ほのかも魔法の修行の合間合間で店の様子を見たり、手伝ってくれたりしている。
 目の前で動物の心配をする少女は、一見すると本当にただの女子校生でしかない。ただこの世界でこの少女は、紛れもなく逸材だった。


「アツシさん! 今日覚えた魔法はきっと、お店でも役に立てますよ!」


 もうすっかり従業員なほのかにほっこりさせられながら、今日の調査は幕を閉じた。



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