ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

011 ほのかの㊙トレーニング

 ほのかの才能を再確認したエリスは次の日もやってきた。
 エリスがいれば店番もほのかも任せられるということで、少し甘える形で"仕入れ”のために森のはいっていた。


「あら、早かったのね」


 店に戻るとほのかが顔を赤らめて立っていた。隣にはにやにやしたエリス。
 絶対ろくでもないことをしている。
  
「昨日ギルドで貰ってきたしな」


 この世界に、餌の仕入先や問屋といった概念はない。だが、ギルドを使えばこの問題が解消される。
 物によっては雑草のような野草でも、うちでは使い道がある。これらの採取を依頼として出しておけば、擬似的に餌の仕入先を確保することができた。


 こうやってギルド自治区は、ギルドを仲介に挟みながら互いに必要なものを要求し合うことで成立している。生活必需品やある程度のものはギルドにあるが、そこにないものはこうして依頼を出せば誰かが届けてくれる。
 郵便や教育、病院まで、元の世界では公的に請け負ってくれていたサービスも、ここでは依頼を出してやり取りを行う。


「よくあんな割りに合わない依頼を受ける子がいるわね……」
「あれはあれで初心者には丁度いいんだよ。エリスの受ける依頼の報酬がアホほど高いだけだ」
「あなただって同じように貰っているでしょう?」


 Sランク向けの依頼は、誰にでも頼めるわけじゃない分、その依頼料はほとんどこちらに委ねられるような形になっている。
 エリスは俺相手のようにほとんどタダ同然でも仕事をすることもあれば、法外な値段をふっかけることもある。どこかのヤブ医者みたいだな……。


「俺は積極的に薬草採取を受けてるからなぁ……」
「アツシの場合はとってくる量がおかしいからとてもFランク向けのクエストには見えないけどね」


 森に入れば自分が使う分に余りが出ることは多い。
 俺はスキルの関係で人より持ち運べる容量が大きいこともあり、納品系依頼は常にチェックしてギルドに押し売りをすることで貢献度を担保していた。


「それはそうと、この子、凄いわね」
「やっぱり才能があると教えがいがあるよな」


 俺は少しうらやましい気持ちになりながらほのかを見る。
 照れているのか少し顔が赤い。


「それだけじゃなくて、弄りがいがすごいわ」
「おい……」


 顔が赤いのもそのせいか……。これで今すぐ元の世界に帰りたいとか言われたらどうするんだ……。


「あんまりいじめないでやってくれよ……」
「あら、でも貴方としてはこの状況、すごく役得だと思うけれど?」
「どういうことだ?」


 ほのかになにかしているということは間違いないのでそちらに目を向けるが、いつもどおりの服装にしか見えない。顔は赤いが。


「今この子、何も着てないわよ?」
「は……?」


 改めてほのかを見る。
 顔は赤いまま、プルプルしながら、首を振っている。大切なところを手で隠すように動き始めた。


「様子はおかしいけど、服は着てる、よな?」


 なぜか身体を隠すように構えてはじめたので妙に色気はあるが、強いて言えばトイレを我慢でもしてるのでは、という様子くらいにしか見えない。
 それはそれで妙な気持ちにさせるものがあるのは否めないが……。


「その服、魔法で作ってるの」
「あー。それでいつものセーラー服じゃないんだな」
「冷静を取り繕ってるけれど、目の色が変わったわね」


 エリスにはしっかり見抜かれていた……。
 今のシチュエーション、ほのかは集中を解けば裸。しかも外。ほとんど誰も通らないような辺境の地ではあるが、恥ずかしがる姿もそれまでの見え方とは変わってくる。


「役得だな」
「でしょう?」
「でしょう? じゃないです! 流石にそろそろ限界ですよ!」


 ほのかが耐えきれず抗議した。


「あら、今集中を解いたらアツシに裸を見られちゃうわよ?」
「もう許してください……お願いですから……」


 さっきまでの仕草に涙目まで加わり、色気2割り増しである。


「この子、本当にゾクゾクするくらい良い反応するのよね」


 気持ちはとても良くわかる。
 だが、俺の立場でそれに同意するわけにはいけない。


「気持ちはわかるけど、そろそろ許してあげてもいいんじゃないか?」
「あら、いいの? 気にならない? あの魔法で作った衣服の中が、どうなってるか」


 もちろん気になる。が、これ以上ほのかを辱めるのはまずいだろう。


「もう、ダメです……」


 先にほのかに限界がきたようだ、肩のあたりから服が透け始めた。


「あら」


 肩がむき出しになり、袖もなくなる。健康的な範囲よりやや細く見える白い腕が露わになる。
 いよいよ胸元の服がなくなろうかというところで、ほのかを囲むように竜巻状の風魔法が展開された。


「サービスはここまで」


 危なかった。何が危なかったかはわからないが、危なかった。


「そんなに怖い顔しないで? 残念なのはわかるけど」
「別にそんな顔をしたつもりは……」
「どうしてもって言うなら、私が相手してあげるから」
「馬鹿なこと言うな」


 風魔法が収まって現れたほのかは、しっかりと元の服装に戻っていた。当然ながら、表情には不満がありありと現れている。


「私の魔法で一応は隠しているけど、いつまでもそのままというわけにいかないわね。今日はここまでにしましょう。ほのかちゃんは着替えてきなさい」
「はい……ありがとう、ございました」


 言いたいことが山ほどあることを表情にそのまま乗せて、辛うじてお礼だけは言って店内へと駆け込んだ。


「いじめすぎたかしら?」
「間違いなく……」


 明日から大丈夫だろうか。2日目から目を離したのは失敗だったかもしれない。


「でもあの練習、今のあの子にとっては本当にいいトレーニングなのよ?」
「そりゃ、エリスがやってるんだから無駄なことはないだろう」
「あら、信頼されてるのね」


 そこに関しては揺るぎない。そうでなければ2人になどしないわけだ。


「あまりに覚えもセンスもいいから、ついつい厳しくしちゃったのよね」
「センスがない相手にも厳しいだろ、エリスは」
「ふふ……そうだったかしら?」


 エリスから受けた地獄のような特訓は未だに思い出すだけで吐き気を催すレベルだ。
 エリスは気にする様子もなく続ける。


「あの緊張感の中で魔法を安定させるのは、今のあの子にとって何よりもいい練習なの」
「明日からもやるのか?」
「期待してるのかしら? それならすごくいい知らせがあるわ」


 エリスの目線が店の入り口へ移る。釣られてそちらに目を向けると


「着替えてきました」


 先ほどまでと同じ服装のほのかが立っていた。


「しばらくはあれで生活するように言ってあるわ」
「はぁ?!」
「あの……万が一の場合はお見苦しいかもしれませんが……よろしくお願いします」


 ほのかの表情は先ほどより余裕がある。


「この魔法は維持させ続けるのが難しいの。残念ながらさっきまでの色気が出るのは、しばらく先ね」


 聞けばあの状態で散々他の魔法を使わされたり、使ったりする訓練をしていたらしい。


「もしあれが早く見たいなら、料理でもさせて見たらどうかしら?」
「どんどん俺を見る目が鋭くなってるからやめてくれ」


 一瞬どうにかして魔法を使わせたらあるいは……とか頭をよぎってしまったのは事実だ。
 だがそれでなくても同じ屋根の下で過ごしているだけで色々思うところがあるだろうに……。これ以上余計な負担を抱えさせたくない。


「私は大丈夫ですからね!」
「そうなの? ならもう少し条件を厳しくしましょうか?」


 言うが早いか、エリスの腕から何かがほのかに向けて飛んでいく。


「きゃっ!?」


 ほのかが避けようとしたその何かは、そのままほのかの肩で停止する。


「魔力を吸収する蟲をつけたわ」
「おいおい……」


 俺でも肩にずっと虫がついてるのは嫌だぞ……。
 まあエリスの言う蟲は概念であって想像できる虫たちとはちょっと異なるが、それでも嫌なものは嫌だろうな。


「その子は意思のないただの蟲だから、邪魔なら取ってもいいわ。取れるなら、だけど」


 ニヤリとエリスがほのかを挑発した。エリスがこの表情を浮かべるということは、この魔法は手加減なしということだろう。


「わかりました! やります!」
「Sランク冒険者の代名詞になってる魔法だぞ? 大丈夫か?」


 エリスの奇蟲使いの異名を体現するのがこの蟲魔法。実際の虫ではなく、そのイメージをもとにエリスが編み出したオリジナルの魔法だ。
 相手の動きを阻害したり、諜報活動につかったり、このようにデバフをかけたりと、何かと使い勝手のいい。


「なんとかやってみます。それにこれが本当の虫じゃないことはわかってますし、それなら何とかなります」
「そうか……」


 俺はわかっていても虫の姿をした魔力の塊が肩にいるだけで正直気持ち悪いが……本人が言うならいいだろう。


「眠るまでに取らないと、明日は一日裸で過ごすことになるわよ?」
「うぐ……その時は、アツシさん、お見苦しいと思いますが、エリスさんが来るまでは我慢してもらっても」
「いやいやその時は普通に服を着てくれ」


 変な意地を張って話がおかしな方向に飛んでいく。


「とにかくこれがエリスなりの課題なんだな?」
「そうね」


 いつの間にか盛り上がった地面から大きな虫が現れる。ムカデを機械化したようなメタリックなフォルムの虫がエリスを巻き取るようにその背に乗せた。
     これがエリスのもう一つの奇蟲使いのとしての力。俺と同じように、生き物を操って戦う。彼女のパートナーはほとんど俺がテイムして譲ったものではあるが、俺以上に戦闘やその他の生活の中で彼らの扱いが上手い。


「そのくらいのことは、その子ならすぐにできるでしょうし、そうでなくては困るのよ」
「随分期待してるんだな」
「もちろん期待もしているけど、あの子の適性と魔力はエルフのそれを上回る。であれば、エルフに出来ることくらい簡単にやってのけてくれないと」


 なるほど。


「ちなみにだけど、エルフはみんな服はこの魔法でまかなっているわよ」
「え?」
「もちろん私も、いま魔法を解けば大変なことになっちゃうわね」


 思わずその豊満な胸に視線が向かってしまう。


「残念ながら意識を失うようなことがない限り見えないけれど」


 エルフ、侮れない種族だ。
 言ってしまえばエルフはみんな……。


「それって裸に服を着てるだけで外に出てるってことか?!」


 今後エルフを直視することが途端に難しくなる。知り合いのエルフがエリスだけでよかったかもしれない……。


「あら、人間は違ったの?」
「アツシさん、落ち着いてください。裸に服を着ているのは人間も同じです」
「あぁ……」


 つい興奮してしまったらしい。
     アホなことを言いながら、ほのかのトレーニング2日目がひとまず終了した。



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