ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

005 ランク

「エリスに魔法を教えてもらうと良い」
「えっ、良いんですか?」
「こんな可愛らしくて教えがいもある生徒が持てるなら、私としても光栄だわ」


 ほのかがこの先どうするにしたって、使えるものは身につけておいて損はない。この世界で魔法使いを名乗れる冒険者は少ない。それだけで食い扶持には困らないだろうしな。


「それ以外にも、この世界のことは俺よりエリスに学んだほうがいい」
「そうね。アツシはあまり、そのあたりに無頓着だし」
「そうなんですか……?」


 否定できない事実だった。


「この子もアツシと同じと考えていいのね?」
「そうだな。このあたりの常識はほとんどないのも」
「そう。わかったわ」


 エルフは亜人だが、龍や精霊、悪魔など、物語で語られる伝説の生物たちに準ずる魔力を持っている。生まれながら魔法とともに育つため、その扱いも人間とは比べ物にならない。
 人族も魔法に支えられた生活を送っているものの、道具の補助なしで魔法を使えるのは全体の三割程度。道具よりも強力な、いわゆる“使い物になる”魔法の使い手はさらに少ない。この世界において魔法使いと呼ばれる人間は貴重な戦力だ。


「さて、その前に改めて登録作業の続きだな」
「あ、途中だったんでした」


 エリスから申告してあとはギルドの判断に任せられるわけだが、ほのかのランクはどうなるだろうか。


 ◇


「え……エルフより魔力が多い、ですか?」
「そうよ」


 報告を受けたリリアさんの顔が引きつる。
 エリスがいつの間にか用意した提出用書類を手に、リリアさんは再びギルドマスターの元へ走っていった。


「あの……アツシさん?」
「ん?」
「色々ありがとうございます。それで、今は何を……?」
「あぁ、この報告書をもとにほのかのランクが決まるんだ」
「ランク?」
「ギルドのランク付けはFからアルファベットをAまでさかのぼり、その上にSがある」


 ほのかが小さく、「ここでも英語が?」とつぶやく。確かによく考えたら日本語も英語も混ざってるのは違和感があるか。
 このあたりのことも、ほのかが現れてくれたおかげで考えられるようになるかもしれない。


「私もSランクだけど、今ここにいる中では私たちだけね」
「すごい……」
「私の勘が正しければ、ホノカちゃんもこちら側の人間でしょうけどね」
「それって……?」
「おまたせしました!」


 話に割り込む形でリリアさんが戻ってくる。ハァハァ息を切らしているところを見ると、急いで言って戻ってきたんだな。


「ゆっくりでよかったのに」
「い、いえ。これは私が早く来たかったので……少しすみません」
「なんでまた……」
「これです」
「これは……」


 ほのかのギルドカードが手に握られている。
 そこにはほのかの名前と


「Bランク……?」
「おめでとうございます!」


 リリアさんだけがテンションが高い。


「Bランクはそうだな……。プロの冒険者と呼ばれるラインだ」
「プロ……?いきなりですか?」


 ぽかんとした表情のほのか。


「エルフに異常な魔力と魔法適性の高さを認められてるっていうのが、それだけのものだってことだ」
「アツシの紹介だからというのも大きいわね」
「アツシさんって、そんなにすごいんですか?」
「話してなかったの?」
「自分から言う話でもないだろ」
「何の話ですか?」


 エリスの意味ありげな言葉にほのかが不思議そうに首をかしげる。


「アツシはね。Sランクの冒険者の中でも、特別なの」
「特別?」
「そんな大層なもんじゃない。日本人とかテイマーとか、変わった要素が多いからギルドに目をつけられてるだけだ」
「やっぱりアツシさんはすごい人だったんですね!」


 無垢なまなざしで見つめられると謎の罪悪感に苛まれる。本当にそんなに大したことはない。


「照れてるのかしら?」
「うるさい。一応、特Sランクってことにされてる。ただこれはSランクの上、って意味じゃなくて、ギルドの中で扱いを分けるためにそうしてるだけだな」
「何が違うんでしょう……?」
「一番は年金の受け取りがあるかないかだな。特Sランクは定期収入を捨てる代わりに、ギルドの招集を拒否できる」
「普通は呼ばれたら来ないといけないんですね……?」
「あぁ、Aランク以上の高ランカーは基本的にギルドの所属員って立ち位置だからな」


 もしくは国や貴族、大商人のお抱えになる。


「俺はほら、店があるからな」
「私も普段ここに出入りしているわけではないから、この方が都合がいいの」
「エリスさんも特Sランクなんですね!」


 ほのかがわかりやすく憧れの眼差しを向けている。


「お2人がおかしいだけで、ほのかさんのいきなりBランクスタートも十分異例の措置ですよ……?」


 置いてけぼりにされたリリアさんが不満そうにぼやいた。


「まぁいまこの場にはほのか以外いないくらいには珍しいな」
「そんなにっ!?」
「元の世界で言えばプロの選手とか芸能人みたいな感覚だからな。実際スポンサーがつくこともある」
「そうなんですね……」


 ほのかが感慨深げにうなずく。


「まあこれで、わざわざうちで働かなくても食い扶持は困らなくなったな」
「え……?」


 ほのかが俺を見つめる目は、捨てられそうな子犬を連想させた。


「こんな顔させておいて放って置くのもどうかと思うし、アツシがしっかり面倒見たほうがいいでしょうね」


 エリスの発言でほのかの顔がぱっと華やいだ。わかりやすいな……。


「いや、まぁそれはいいんだけどな。ただほのか、ほんとにいいのか? うちはわかってると思うけど、稼げないぞ?」
「生活はできているんですよね?」
「そうね。本当に困ったときは私が一緒にクエストに出てあげるし」
「ありがとうございます!」
「まあ……何かあればエリスに頼ればいいか」
「可愛い妹ができたみたいね」
「よ、よろしくおねがいします!」


 微笑ましい様子にひとまず、安心感を覚えた。


 ◇


「エリス、ほのかの生活用品とか、面倒見てやってくれるか?」
「ええ。もちろん」


 女ならではの買い物も出てくるだろうし、エリスが来てくれてほんとによかった。


「ということで、ほのかの給料な」 
「え? 私まだ働いてないですよね?」 
「前払いだよ。しばらくは仕事してくれるんだろ?」 


 ギルドは依頼を達成して報酬を得る仕事場でもあるが、生活に必要なものがすべてそろう便利屋である。この機会にほのかには生活に必要なものを買いそろえておいてもらいたい。  
   
「ありがとうございます …… 。大切に使います」 
「好きに使うと良い」 
「大切にすると言ったは良いんですが、私、この世界のお金の価値や使い方がわからないんですが …… 」 
   
 貨幣は各国で製造・流通される。この近辺だと帝国金貨も良く見るし、南の方の連合国では紙の製造技術が安定しているらしく紙幣もある。が、とりあえずここで使うギルド通貨の説明だけすればいいだろう。 


「めちゃくちゃざっくりなんだけど、金貨が1万円、銀貨が5千円、銅貨が千円。それ以下のものは数字の書いてある分かりやすいもので、800円、500円、100円、10円の硬貨がある」 
   
 一枚一枚見せながら説明する。 
   
「金貨や銀貨と、その数字の書いてある硬貨でデザインが全然違いますね?」 
「鋭いな。銅貨まではそのまま鉱物としての価値を持ってるから、それだけである程度財産として保障される。それ以下は硬貨そのものに価値はない。ギルドが価値を認めて流通させているから、認められた場所以外では両替もできないし、ギルドがつぶれれば無価値になる」 
「日本と同じですか」 
「そうだな。俺たちにとってはこっちの方が普通の硬貨かもな」 


 冒険者ギルドは各国各地にあるし、噂によれば海の中にまであると言われるほど大規模に展開された組織だ。つぶれるなんてことは考えられないし、実際多くの国ではギルド硬貨の価値を認めているので両替に困ることもないだろう。 


「ちなみに、見たらわかると思うけど金貨とか銅貨は汚れで色の区別はできないのも多い。大きさが違うことで見分けてるから、覚えといてな」 
「ほんとですね。気をつけます」 


 金貨に金が、銀貨に銀が使用されているわけではない。中に入っている鉱石がその価値を支える。魔法石にも使われる魔力の込められた鉱石。需要の高いこの鉱石は、それだけで十分な価値を持つ。違法だが場合によっては中の鉱石を取りだして売買を行うようなことすら行われていたこともあった。 


「この世界でのことは俺もエリスから教わったし、色々教えてもらうと良い」
「そうね。どうせならアツシの恥ずかしい昔話もたくさんしましょうか」
「ほのかの師匠としての依頼、報酬を出すのは俺だというのを忘れるなよ?」
「まあその当たりのことは食事をしながらゆっくりと話していきましょう」


 逃げるようにほのかを引き連れてエリスが離れた。
 入れ違いで隣に影が現れる。


「アツシさん、私もご飯、ご一緒しても?」
「あれ、もう仕事は終わりですか?」
「はい!」


 2人と別れたところでリリアさんに捕まった。
 話は聞いていたようだ。


「それならもちろん」
「ありがとうございます」


 2人で空いている席を目指し始めたところで、入口付近が騒がしくなった。


「ギルバードたちか?」
「お2人なら既に来られましたよ?」
「あれ?」


 いつの間にか報告に来ていたようだ。どうやらギルドマスターが気を回して別室で対応したらしい。


「じゃああれは……」
「おいおい、せっかくSランクパーティー様がこんな辺境地まで来てやったというのに、出迎えもないのか? このギルドは?」


 金髪やらヒゲやら靴の先やらがくるくるした、奇抜なファッションの男と屈強そうな取り巻きたちが現れた。





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