幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら疎遠だった幼馴染が怖い 〜学年のアイドルが俺のことを好きだなんて絶対に信じられない〜

すかい@小説家になろう

高西家でご飯

「まなみー! 康貴くーん! そろそろ降りてらっしゃーい」
「はーい!!!」
「こら! キリが良いとこまでやってから……って聞いちゃいないな」


 まぁ2時間も集中してたら十分か。
 もう家庭教師も何度目かになるが、まなみは集中が持続する時間は短いものの、一旦やり始めれば普通に平均点を超える力があることはわかった。現状が赤点すれすれをさまよっているのは、集中するポイントがわからず何から手を付けていいか迷走していたせいだろう。


 まなみを追いかけて下に降りると、おばさんから晩御飯のお誘いを受けた。


「ま、もう康貴くんのお母さんにも連絡しちゃったから、うちで食べないとご飯がないんだけどねぇ」
「喜んでいただきます」


 拒否権はなかった。


 となると当然、こいつとも食卓をともにすることになる。


「なに?」
「いえ……なにもないです」


 怖い……。
 本当に俺何かしたんだろうか……。今度まなみに聞いたほうがいいかもしれない。
 いやでもまなみはまなみで「寂しがってる」だとかよくわからないことを言っていたので頼りにならない。


「ふふ……。ひさしぶりねぇ、康貴くんがここでご飯食べるの」


 本当に久しぶりだ。昔は高く感じたテーブルが今では低いくらいになっていて驚く。
 一方で、それだけ久しぶりでもここから見た景色を忘れないくらいには、当時はしょっちゅうここに来てお世話になっていた。


「康貴くんが久しぶりに来るからって、愛沙が張り切ってねえ」
「え?」
「ちょ! ちょっとお母さん!?」


 何を張り切ったかわからないけど久しぶりに素の愛沙を見た気がする。
 学校だとおしとやかなキャラになってるけど、もともとこういうのよく見てたなぁ。なんだか懐かしい。


「良いからほら、準備して!」


 顔を赤らめておばさんを急かす愛沙。愛沙自身もテキパキと食器を出したり準備を進めている。
 一方まなみは椅子の背もたれにこれでもかというほど身体を反らせてぐったりしていた。愛沙と比べればささやかながら、その体勢になると胸が目立つからやめなさい。


「もーだめ。つーかーれーたー!」
「あらあら。康貴くんしっかりこの子を勉強させてくれてるのねぇ」
「もちろんです」


 まなみがぐったりするくらいには仕事をしていることをアピールできたところで、俺もなにか手伝えないかと席を立つ。


「えっと、俺もなにか」
「あんたは座ってて」
「はい……」


 間髪入れずに愛沙の冷たい言葉が飛んできた。お前にこの家で自由にさせないという強い意志を感じる。


「あははぁ。康貴にぃ、役立たず〜」
「なにもしようとすらしてないまなみに言われたくはない」
「その通りね。ということでまなみはさっさとご飯をよそって」
「え〜。墓穴だった〜」


 そうは言いつつのそのそ動き出すあたり、なんだかんだまなみはいい子だった。
 いい家族だ。


 ほどなくして準備が整い4人で手を合わせて食事を始めたところでおばさんが声をかけてくる。


「そうそうー。それでね、康貴くん」


 顔を上げるとお箸を持ったまま楽しそうに微笑むおばさんがいる。


「この子ねぇ、今日康貴くんがうちで食べていくってわかったら、張り切っちゃってねぇ」
「!?」


 さっきの話の続きらしい。
 愛沙は唐揚げを口に咥えているせいで止めることができず、あわあわおばさんとこちらを交互にみて、最後に俺をにらみつけた。
 ただ、今回は口に唐揚げを咥えたままという間抜けな顔だったので、どれだけ鋭い目つきでも怖くはない。むしろなんか、可愛らしさすらある。顔も赤いしな。


「今日もほら、康貴くんが一番おいしそうに食べてる唐揚げ、この子がね」
「お母さん! 怒るよ!」
「あらあら」


 顔を真赤にして暴れる愛沙。急いで飲み込んだらしく水に手を伸ばしている。


「なによっ!」


 見てたら怒られた。怖い。


「いや、えっと……美味しいなって」


 褒めたら更に顔を真赤にして目を逸らされた。
 お前と話すことなど何もないとでも言うかのようだ。
 ただ、愛沙がわざわざ作ってくれたというなら、一言くらいはお礼を言いたくなった。


「ありがとな」
「どういたしましてっ!」


 ぎこちないながらも、久しぶりの会話が成立したかもしれない。


 その後はなぜか見張られるようにちらちら確認されながらご飯を食べることになって少し居心地が悪かったが、愛沙の表情はどこかいつもより柔らかく感じられた。





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