白の血族

九条一

幕間一(03)

 ――その時、一頭の馬が駆けてきた。ひとりの武将を乗せて。

 忠告を思い出し、慌てて頭に布を巻いた。そして農作業に戻った。
「――おい、お前」
 私は気づかぬふりをして、農作業を進めた。しかし、その男はなおも近寄ってきた。
「おい、聞こえないのか?」
 もはや無視するほうが不自然だ。仕方なく、顔を見られないように返事をした。
「へえ、何でございましょう、お侍さん」
 武将は馬を降り、私の正面に回った。慌てて顔を背けたが、見られてしまったようだ。そして私も、彼の顔を見てしまった。
 彼は無垢人だった。青い目に白い髭。兜の中の髪の毛も、おそらくは白だろう。
 その時の私にはこの無垢人が誰か、知る由もなかった。
「お前、父親の名前は?」
「父、ですか? 弥平と申します」
「ヤヘイ……? 知らんな」
 彼の質問の意図がわからなかった。後々わかったことだが、私を自分の部下の娘だと勘違いしていたようだ。それほど無垢人は珍しい存在だった。
「まあいい。乗れ」
「……申し訳ありませぬ。畑仕事がありますので」
「儂が誰かわからんのか? リックだ、早く乗れ」
「……リック? 存じませぬ」
「…………ふむ、どうやらこの世界の純粋な無垢人らしいな。これは面白い」
 彼は有無を言わさず私に掴みかかろうとした。その瞬間――
「――ムッ!」
 彼は足を滑らせ、地に伏してしまった。彼は呆然として、自分に何が起こったかわかっていないようだった。

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