白の血族

九条一

第一章(28)

 ――その晩。

 自室に戻り、引き出しの中から手紙を取り出す。そして、中から一枚の便箋と写真を引っ張り出した。

『有缘自会相见』

 たった六文字だけ記された便箋。穴が空くほど何度も見たが、今日はなんだか引っかかる感覚があった。……そうか、杏奈の字とよく似てるんだ。
 やっぱり千梨が字を教えたんだろうな。

 ――二年前。

『――ツーペア! くっ、また負けかよ。……一体どうなってるんだ?』
 千梨の手札はスリーカード。これで八連敗だった。
 囲碁や将棋ならともかく、運の要素が強いポーカーでもまるで勝てない。もはや何かオレに見えてないものが見えているとしか考えられない。
『ふふっ、秘密です』
 オレがカードを切り、配っているのでイカサマはありえない。
 千梨の戦略は、セオリーをまったく無視しているように見える。一枚を残してチェンジし、できた手がストレート、ということもあった。次にくるカードが何か、わかっているとしか思えない。
 とにかくオレとは次元が違うことだけは確かだ。
『やめだやめだ。何か話そうぜ。……そうだな、学校の話でもしよう――』

 千梨はいつも笑顔で話を聞いてくれた。
 千梨のことも聞きたかったが、彼女の出自に関わることは話したくないようだった。あえて気まずい雰囲気になることもない。オレはただ、彼女の笑顔が見たかっただけなのだ――。

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