白の血族

九条一

第一章(23)

「……さて、手記の続きでも読んでみるか」
 昼メシを平らげてから手記の続きを開いた。
『――ここを読んでいる、ということは、あの地下室を見たのだろう。そう、お前の母親は無垢人だ。……お前が千梨と話しているのを見てなんとなくわかったのだが、お前は綺音のことをあまり覚えていないようだな』
 ああ、ほとんど忘れていたさ。白髪だったことさえ、覚えていなかった。
『私は綺音と結婚し、榊家に婿入りしてから無垢人と古代文明の関係性を疑うようになった。もう埋めてしまったが、あの古井戸の壁面には古代文字が刻まれていたのだ』
 あの鉄格子の向こう側か。なんで埋める必要があったんだ?
『お前も知っての通り榊家は代々この土地に続いている古い家だ。お隣さんの上岡家とともに、富士原市一帯を治めてきたと言っていい。ということは、古井戸の古代文字は榊家の先祖が彫ったと考えるべきだろう』
 ……その考え方はおかしくないか? いくら古い家と言ってもあの獄災以降にここに移り住んだと考えると、その古代文字はこの四百年のうちに刻まれたことになる。千年以上昔の遺跡にしか見つかっていない古代文字がそんなに新しいわけがない。
『お前の言いたいことはわかる。だがそれは違う。榊家は、獄災以前からここに住んでいる可能性が高い』
 あの獄災を生き抜いたというのか? あの大災害の中心地であるこの富士山のふもとで?

コメント

コメントを書く

「冒険」の人気作品

書籍化作品