白の血族

九条一

第一章(18)

 デスクを少しずつ押して、地下室の扉を開けるスペースを確保する。最初に感じたデスクの違和感はこの扉を隠すためだったらしい。ということは、母さんが死んでから新たにできた地下室、ということになるのか?
 ランタン式の懐中電灯を脇に置き、床の扉に鍵を刺す。錆びついた様子もなく、軽くひねるだけで鍵が開いた。半回転の取っ手を持ち、慎重に引き上げる。
 
 ランタンで中を照らす。地面は深くないようだ。
 玄関から持ってきたスニーカーを履き、足を下ろす。深さは一メートル強、胸の高さまでで足がついた。
 かがんでランタンで照らす。三方向はレンガの壁に囲まれ、前方に階段が続いていた。足元にはオヤジのものと思われるスリッパが置いてある。
 慎重に階段を降りていくと、直立できる高さの通路が現れた。
 右手側には幅・高さが一メートル四方の空間があり、鉄格子が嵌っている。ランタンで中を照らすと、持ち上げるのに両手が必要そうな石がぎっしりと詰まっていた。
 石の隙間から上方に空間があることが確認できる。この高さだと、地上に繋がっているようだ。
 おそらく、庭にあった古井戸だろう。コンクリートの蓋が嵌められていて、子供の頃に動かそうとして失敗した記憶がある。
 周囲を見渡してみると、レンガの色が変わっていた。この古井戸から階段方向のレンガは新しい。つまり、後からオヤジの書斎の入り口まで繋げて井戸を埋めた、ってことか。
 そのまま先に進むと、少し開けた四メートル四方の空間に出た。高さは二メートルほどだ。空間の中心には地面を支えるためと思われる石柱がある。
 左手側に三段ほどの階段があり、少し高いところに女性の写真が飾ってあった。それは千梨によく似た白髪美女の写真――。

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