白の血族

九条一

第一章(10)

『お前も知っての通り、古代文字と我々の文字には密接な関連性がある。にも関わらず、古代文字の刻まれた遺跡があることすらあまり知られていない』
 確かにあれほど明確な文明の痕跡なのに、教科書で習ったことはない。石器や土器の遺跡については習ったが、古代文字について授業で教えられたことは一度もない気がする。
『私は古代文字研究の第一人者だと自負しているが、私より前に専門的に研究した者がほぼ皆無だというのも奇妙な話だ。なぜあれほど興味をそそられるモノを研究する者がいないのだ? これは何かしらの圧力があったと考えるべきだろう』
 圧力? 遺跡を調べられると困る人たちがいるということか?
『疑問は尽きないがこれだけは断言できる。神代家と遺跡および古代文字には密接な繋がりがある。そして、それは何らかの理由によって秘匿されている』
 オレは千梨を愛していた。そしてそれは一方通行ではなかった、と感じている。その千梨が古代文明について、オレにも話そうとしなかったのだ。ということは彼女の意思とは関係なく、何かしらのルールが存在していたと考えるべきなのかもしれない。
『遺跡を調べることが、神代家の秘密に近づくことになるだろう。そしてそれは彼女の意思に反することになるかもしれない。それでも神代家について知りたいのなら、夏休みに山中湖遺跡までくるがいい。お前なら受験勉強など必要なかろう』
 もちろん知りたいさ。それに今のオレにはもう杏奈がいる。杏奈の今後のためにも神代家についてもっと知っておくべきだろう。

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