第一章(03)

　和室ダイニングにある座卓を三人で囲み、おのおのが朝食に手を伸ばす。子供用に用意したと思われるタコさんウインナーを、あんなはハシで口に運んだ。
「……じゃあまず、名前から教えて欲しいな」
　腹ごしらえもそこそこに、質問を切り出した。
「神代杏奈だよ」
「じんだい……あんな、か。漢字は？　あ、この紙に書いてみて」
　神…代…杏…奈……。子供とは思えない、相当な達筆だった。それにしても、神代……か。
「ねえ杏奈ちゃん。お父さんやお母さんは？」
　綺華はどう接していいのか決めかねているようだ。怖がらせないように努めて優しい口調で語りかける。
「……ママは……死んじゃった」
　うっ……最悪の展開。これ以上聞き辛くなっちまった。
「――おっ、お父さんは？」
　綺華は動揺しつつも話を続ける。
「いるよ、パパ」
　そう言って杏奈はオレを指差した。
「…………え？　ええっ？！　ど、どういうことよ！？」
　綺華はオレの胸ぐらをつかんで締め上げた。
「し、知らねーよ！　……あ、杏奈ちゃん、なんでオレがパパなんだい？」
「だって、ママが言ってたよ。パパは榊統詞っていう人だ、って。大海おじちゃんもそう言ってた」
「……統詞くん、どういうことなのかな？」
　綺華は胸ぐらをつかんだまま、ものすごい剣幕で凄んでくる。
「知らねーってば！　ってか、もしオレの子供だったらオレが八歳かそこらの時の子供ってことになるだろ！　ありえねーよ！」
「……まゆ毛がそっくりなんですけど」
　言われてみればそうだ。白髪にばかり目が行っていたが、まゆ毛の形がオレやオヤジにそっくりだ。今は整えているようだが、綺華のまゆ毛も同じように外側が太くなり少し尖るような特徴的なまゆ毛をしていた。
「――お、オヤジの隠し子、という可能性もあるぞ」
「うっ、た、確かにお父さんならあってもおかしくは……」
「あ、杏奈ちゃん。お母さんの名前を教えてくれるかな？」
「千梨だよ」
「！」

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