黄金の将《たった3人の軍団》

ごぼうチップス

第一章 15

ハーメス率いる生き残りの約6000は、無事だった大盾をかき集めルミエドル街道、つまり先ほどレムリが侵入してきた野営地後方に集まっていた。
「せーえーの」
「うおおおおお!」
重装歩兵を先頭に、大盾を構え密集陣形を組み土壁に突撃する。
土壁はまだ燃えておらず、だが炎は確実に迫ってきていた。
急がねばと、兵士たちは盾を構え土壁を崩そうと、ひたすら何度も突撃を敢行する。
「急げ、お前ら!火がそこまで来てるぞ!焼け死にたくない奴は必死にやれ!」



クロエ・ウェリンソンは戸惑っていた。
気を失い、先ほど気づいたばかりの彼女は非常に戸惑っていた。
「どうして・・・私」
彼女は藁ベッドの上にいた。彼女がベッドから上体を起こすと、自分が家屋の中にいる事がわかった。
「私、誰かに連れてこられたの?」
「あら、気が付いたのですか」
「えっ?」
「キーたちが貴女を背負って戻ってきた時は、驚きましたよ。森で狩りをすると言って出掛けていった二人が、こんな可愛らしいお嬢さんを拾ってくるんですから」
キー?誰?もしかして、スチームリザードに襲われていた?
「あ、あの」
「ああ、私?すみません、名乗ってなかったわね。私は、リアンよ。キーの母親なの」
「私、どれくらい?」
「ああ、貴女がここターン村へ運び込まれたのはたしか、日がてっぺんにあった時だから、お昼くらいかしら?」
「今は・・」
「日が沈みかけているから、夕刻時かしらね」
「そ、そんなに・・」
「あまり無理をして動いてはダメよ。怪我はないとは言え、倒れて運ばれ来たのだからね。ああ、そうだ。お腹空いたでしょ。パンが焼けたの、食べる?」
「えっ、あ、はい。ありがとうございます」
リアンはいったん台所へと行き、皿に乗せたパンと水を持って戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。頂きます」
パンを頬張ると、香ばしい香りとほんのり甘い味が口の中に広がる。
「お、美味しいです」
「そう、ありがとう」
パンを平らげると、リアンは何か言いたげにこちらを見ていた。
「あの、何か付いてましたか?」
「いえ、そうじゃないの。もしかして、貴女はフォルデギウスから来たのではないかしら?そう思って」
「なぜ、それを?」
「フォルデギウスで情報屋を営んでいると言う方が、数日前にこの村に訪れたの。色々近隣の情報を集めているそうよ。その時に見たの。彼の荷物袋にフォルデギウスの紋章の刺繍をね」
正確にはフォルデギウス王家の紋章だが、軍から支給される儀礼マントや、鎧の一部に紋章を入れる事を許されている。また、王家公認となった興行主や、事業主には特別に紋章の使用を許可している。
じゃあ、私の鎧に彫られた紋章を見たから?
「紋章を知っていると言う事は、リアンさんはフォルデギウスへ行った事があるのですか?」
「ええ、子供の頃に一度だけね。その時に見たの。その勇ましい獅子の紋章をね」
「正確には獅子ではありません。《デウセノクス》目のない神と呼ばれた、守護獣の紋章なのです」
「そうなの?」
デウセノクスは獅子の体に2本の尻尾。目はなく大きな翼を持ち、咆哮と強靭な鉤爪でフォルデギウスの地を守ったとされる伝説の霊獣の名である。
「でも、フォルデギウスの思い出は、私にとって特別だったのよ」
「良い思い出?」
「そうね。たぶんそう。あの人、ダレルと名乗っていたかしら?あの人に助けられてなかったら、私は今ここにいなかったもの」
「えっ?ダレル、ダレル様!?」
「ええ、そう名乗っていたわ。たしか」
そう言うリアンは、幼き頃フォルデギウスへと行った時の話をしてくれた。
両親と共にフォルデギウスの王国祭に行った時の話を。
村に比べて、フォルデギウス王国のとてつもない大きさに、子供ながら驚いた事。
祭りとそこで暮らす人々を見て、その煌びやかさに感動した事。
祭りに浮かれ、両親とはぐれてしまった時の事。
裏路地に迷い混み、怖い人たちに襲われそうになり、ある人に助けられた事。
両親と再会した時、ひどく二人が悲しんでいた事。
「私にとってあの出来事は、あの旅は本当に特別だった。村の人たちは行かなければそんな危ない目にあう事もなかったと両親を責めたけど、私にとってあの出会いは大切な思い出なの」
「あの、その助けてくれた人って?」
「ええ、ダレルと言う人。ダレル・フォン・テグナント、そう名乗っていたわ」
ダレル様、やはり。
「あの、お食事ありがとうございました。それに寝床まで用意してもらって」
「いいのよ。倒れて動けない人を助けるのは、当然だもの」
彼女はそう言うと、お皿下げるわねと台所へと向かう。
「くっ、体が重い。ノヴァ様、ノヴァ様たちは無事だろうか」








「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く