黄金の将《たった3人の軍団》

ごぼうチップス

第一章 13

レムリは今、敵の大将の目の前にいた。
ノヴァたちとはわかれて行動し、わざわざ迂回するための時間を使い、細工された囲いの土壁を通り、ようやくたどり着いた敵指揮官の場所。
レムリは偽装により、アドート兵に化けてハーメスの眼前に立っていた。
そして驚いた。
まさか、敵側にも魔装具保有者が存在し、その人間がまだ、あんな幼い女の子だなんて。
「さて、少なくともこちらへ向かってくる敵軍は、ルシアが倒してくれるだろう。問題はその後だ」
指揮官殿の言いたい事はわかる。
つまりはこうだ。
この半減した戦力では、どうあがいてもフォルデギウスを落とす事はできないだろう。
なら、どうするか?
この今戦っている戦場を、主戦場・・・にすればいい。
ルシアだっけ?あの子の最低限の戦果でもって、アドート本国に撤退する。
ここでの戦いをフォルデギウス本国内での闘いにすり替えればいい。つまり、虚偽の報告をするんだ。
俺たちの首を、証拠の手土産にな。
そう言う算段なんだろ?指揮官殿?
レムリの予想は当たっていた。
ハーメスはつらつらと、レムリの予想通りに、この闘いの事後処理計画を語ったのだ。
「・・・つまり、そう言う事だ。そして、ルシアが奴らを狩り次第、この地より我々は撤退する」
この男のあの子への信頼は絶大のようだな。
それほどまでに彼女の持つ魔装具は強力なのか?
「おい、どうした?何をボーッと突っ立っている?将軍の指示通り、人員が少ないんだ。残った工兵隊と共に、我々も撤退作業に移るぞ」
レムリが考え込んでいると、1人の兵士が忠告してくる。
「えっ?あ、はい。いえ、aye aye」
「たく、貴様も誇りあるアドート兵なら、言われなくとも直ぐに行動に移せ」
またも、アドート兵士さんにお叱りを受けると、レムリは仕方ないと、ていでもいいからやっとくかと渋々この場を離れる事にした。
「タイミングを見て、ノヴァたちと合流しないと。あいつらだけで、魔装具保有者との戦闘は厳しいだろうからな」
「おい、何をぶつくさ言っている?ほら、こっちだ」
「へ、へい。いや、aye aye」



「ふふ、お姉ちゃんたちどうしたの?ほら、もっと私と遊んでよ」
「くっ」
「ノヴァ様、お逃げください。ここは私たちが」
「何を言っているの?貴女たちだけで、勝てる相手ではないでしょう!」
「ですが、時間稼ぎくらいは私たちでもできます」
「ノヴァ様さえ、生き残ればまだ希望はあります。そして、テグナント卿と共に必ず勝利を」
「貴女たち、何で」
「ええ?また、お姉ちゃんたち、おしゃべり?私と楽しく遊んでいる最中なのに!」
「来るわよ!避けて!」
プーレガドーの強力な攻撃に、前に出ている数名が回避損ね、吹き飛ばされたあげく木々にぶつかってしてしまう。
「貴女たち!」
「グハッ!?」
「うっ」
「くっ、くそがぁ!」
ノヴァは怒り任せに、決死の突撃を試みる。
「ノ、ノヴァ様!?いけません!」
無事な隊員の制止を振り切り、ルシアとプーレガドーへの攻撃を敢行したのだ。
「ふふ、お姉ちゃん。こわーい」
ルシアはプーレガドーに更なる魔力を送ると、先ほどよりも巨大化し、ますます威圧感が増す。
「プーちゃん。もういいよ、その人たち飽きちゃった。殺っちゃって」
プーレガドーはその巨体をものともせず、スムーズな屈伸から凄まじい大ジャンプをしたのだ。
「なっ!?」
「ノヴァ様、いけません!!避けて!」
「くっ、間に・・」
プーレガドーはその質量により、落下スピードがかなりのものになっていた。
ノヴァはその勢いから態勢を戻せず、回避は不可能な状態に追い込まれていた。
ドーーーン!!
ついにプーレガドー本体による自由落下によりノヴァがいた地面に激突し、落下時の衝撃により、地面と辺りの木々が強烈に揺れるのだった。
そして、明らかにノヴァは、あの魔装具の下敷きになり、ミンチに成り果てているだろう。
何名かの隊員はその事実に、膝から崩れ落ち絶句していた。
「ノ、ノヴァ様・・」
「そ、そんな、こんな事って・・・」
「い、いや、いやーーーー!!」
「あははは!潰れちゃったね」
「「・・・」」
「プーちゃん、戻ってきて」
プーレガドーはその場を離れ主の元へ戻るため、またその巨体に似合わず、軽快な跳躍を見せる。
「ノヴァ様!?」
数名の隊員がノヴァの安否を確認するため、プーレガドーと彼女が先ほどまでいた位置へと駆ける。
「ノ、ノヴァさ・・・」
「えっ?」
「ど、どうなっているの?」
彼女たちはノヴァがプーレガドーの下敷きになった思われる地面を見る。
そこにはきっと無惨な姿になったノヴァの姿がある。だが、一途の望みに賭けそこへと駆け付けたのだが。
彼女たちからは予想外の声が上がる。
「ノ、ノヴァ様がいない?」
「そんな、たしかにそこには・・・」
「な、なら、どこへ?」
そんな彼女たちの驚きの声を聞いたルシアは、ニコニコしていた表情が一変する。
「えっ?」
よく見るといつの間にか、彼女の元へ戻ったプーレガドーは、最初のサイズへと戻っていた。
彼女たちヴァルキュリア部隊の面々の予想外の反応に、ルシアは抱きしめるプーレガドーに自然と力が入っていた。

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