黄金の将《たった3人の軍団》

ごぼうチップス

第一章 8

レムリたちは今、大森林の最西端、少し進めば森を抜ける位置までようやくやって来た。
「・・・」
「どうした?」
「クロエ」
「気になるか?」
「だって、あの子を残して、ここまで来たのよ。心配しないはずないでしょ」
「・・お前、自分が言った事を忘れたのか?あの子なら、大丈夫。お前はそう言ったんだ」
「!」
「なら最後まで、彼女を信頼したらどうだ?それとも、あの言葉は嘘だったのか?」
「ち、違う!私は・・」
「彼女は、お前を最後まで信頼しているんじゃないのか?」
「・・クロエ」
「それにお前の部下は彼女だけじゃないはずだ。後ろを見てみろ」
「・・っ」
ノヴァ様、ノヴァ様。
後ろを振り返ると、ノヴァの部隊員たちが彼女の事を心配顔で見ていたのだ。
「貴女たち」
「どうだ?彼女たちを見ても、まだ弱音を吐くか?」
「・・・」
ノヴァは一呼吸入れ両頬を叩き、気合いを入れる。
「よし!」
「それで・・」
「大丈夫よ。もう大丈夫。それにあんたにいつまでも心配されるのは、シャクだしね」
「心配?・・してないが」
こいつ案外メンタル弱いよな。
レムリは心の中で、深い溜め息を吐く。
「それより、あれ見えるか?」
レムリは指を指し、視線を誘導する。
「さっきから見えているわ。テントでしょ」
「そうだ。アドート軍の野営テントだ」
レムリたちはすでにアドート軍のカストラ(野営地)が視認できる所まで来ていたのだ。
「どうするの?クロエは戻ってきていなけれど」
「情報は欲しいが、彼女がいつ合流できるかはわからん。動ける者でやるしかない」
「なら、直ぐに動く?」
「いや、ここで敵兵を何人か倒しても、意味がない。数で圧倒されてこちらが全滅するだけだ」
「それじゃ・・」
「敵の指揮官を叩くんだ。この軍隊の指揮官を見つけて、奇襲を掛けて一気に崩す」
「指揮系統を直接叩くのは賛成だけど、その指揮官をどうやって見つけるのよ?」
「これを使う」
レムリは自身の手甲を掲げてノヴァに見せる。
「これって、魔装具?」
レムリの魔装具。
『クラウ・ソラス・ヘリアンサス』は、金色に輝く手甲型の魔装具であり、ハイエンド機と呼ばれる代物である。
魔装具には大別して2種類ある。
特定の人物に合わせ作られた専用機であるハイエンド機。魔力を馴染ませれば、誰でも使用可能なノーマル機がある。
ハイエンド機は一言で言うと、最高級品。
性能はノーマル機を遥かに凌駕すると言われている。
「これを使えば、敵の指揮官が特定できると言うの?」
「正確には、違うけどな。まあ、使い方次第では、似たような事もできる」
「なるほど、それじゃあ、作戦は?あるんでしょ?」
「お前たち、ヴァルキュリア部隊は、何が得意なんだ?」
「えっ?」
「元々、俺一人でやるつもりだった。だから、お前たち戦力を計算に入れていない」
「だから、私たちの事を知りたいと?」
「ああ」
ヴァルキュリア部隊の部隊員たちはそれぞれお互いの顔を見て、少し戸惑いを見せた後、1人づつ口を開く。
「わたくしはケリーですわ。火の魔法を少々扱えますわ」
「はい。私はリーナです。弓が得意です」
「私は、地の魔法が得意です」
「私は・・」
レムリは20名からなるヴァルキュリア部隊隊員の得意分野を、一通り聞き終えると、荷物袋から一枚の紙とペンを取り出す。
「よし、だいたいお前たちの能力は把握できた。だが、各自の力をこの場で披露する時間はない。そのため、作戦はぶっつけ本番になるだろう」
ヴァルキュリア部隊の部隊員たちは、息を呑んでレムリの言葉を聞いている。
「だが、心配するな。お前たちが失敗しても、俺が作戦を完遂させる。理解できたか?」
「あんた、そんな言い方は」
「大丈夫ですわ。ノヴァ様」
「それじゃあ、即席だが作戦を立案した。お前たちはこの作戦通りに動いてもらう」
レムリは用意した紙に作戦の段取りを、隊員の名前と共に書いていく。



「以上が作戦の内容だ。各自は今言った通り、ツーマンセルで動いてもらう。わかっていると思うが、この作戦は相方が倒れれば、成功率は一気に落ちる事になる。つまりそれは、俺とこいつの負担が増えると言う事だ」
レムリはノヴァの方を指差して、彼女の反感を買う。
「指差すな」
「イテ、何すんだ!」
ふふふふっ。
二人のやり取りを見て、隊員たちから笑い声が漏れる。
「みんな、大丈夫よ。何かあれば、私がみんなを守るから」
ノヴァの言葉を聞いて、隊員たちから安堵の声も漏れるが、「私たちなら大丈夫です」とやれますと言う声と表情に、逆にノヴァの方が彼女たちから頼もしさを感じてしまう。
「さあ、おしゃべりはここまでだ。そろそろ作戦を始める。全員の準備が整い次第、開始するぞ」
「「「aye aye!」」」






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