納屋時計と12の針

あわやひまだる

2話:追いかけた先




「え、待ってよ!」
出した事のないくらい大きな声を出しながら、
弌至は少女を追いかけた。
そこそこ足の速い弌至でも追いつけない程の
速さで、少女はずっと前を走って行く。
「おーい!」
何回も叫んでいるんだから、絶対聞こえているはずだ。
急に走り去ろうとした上に、無視までしてくるなんて、弌至はさらに少女の事が気になってきた。
そして少し走ると今まで走っていた道とは異なる細い道が現れて、少女はその細い道に入っていった。
中学生くらいの子供がギリギリ入れるか、入れないかくらいの狭い隙間だった。
弌至は自分の小さい体を縮めるように
しながら、慎重に進んだ。

そして、弌至がやっと細い道をぬける時、
少し先にボロボロの小さな小屋が建っていた。
木製の建物だが、木の表面も荒んで腐っているようだった。おそらく出来て長い時間が経っているものだと思われる。

するとその小屋の入口にあの少女がいた。
「ただ今戻りました!」
どうやら誰かに声をかけている様だ。
少女が小屋に入って行くのを見てから、
弌至は素早く道をぬけ、小屋まで走った。
そして恐る恐る建物の中を覗いた。

しかしなにか悪い感じがしたので、中にはまだ入らないでおこう…
と、思った弌至は小屋の周りを見て回ろうと思い、その場から立ち去ろうとした。
その時、
小屋の中から声が聞こえた。
「そこに居るのは誰?」
あの少女だ。
弌至は、くるっと後ろを振り返ると、
さっき公園で会った時と同じように
少女を見つめた。
「あ、さっきの」
少女が弌至を指さして言った。
「なんでここにいるの?」
弌至が、公園で少女に質問したのと
同じ質問。

そしてやっと弌至は口を開いた。
「君の事が気になったから」

すると突然、少女の目つきが変わった。
少女は、ギロっとこちらを睨むように
目を尖らせたのだ。
予想外だったが、弌至は動じず、
また少女を見つめる。
少女は
「あなたって不思議ね」
と、言ったあと、弌至の手を掴み、
後ろを向いた。
そのまま小屋の中に連れていこうとしてるんだろう。弌至はそう思った。
案の定少女は弌至を小屋まで
連れていこうとした。
しかし、弌至は一歩も動かない。
弌至は踏ん張りもせず、
ただ突っ立っていただけだが、
自然と少女の力に勝てた。
これはどうした事だろうと、
少女は驚いた。
別に弌至に特殊能力など無い。
少女は
「こっち来て」
と、強引に連れていくのをやめた。
弌至は、しばらく考えた。
小屋の中には誰がいるのか。
何をしているのか。
自分を連れていって何をしようとしているのか。

そして、ようやく弌至は拒むのをやめ、
少女のあとを着いていくことにした。




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