納屋時計と12の針

あわやひまだる

1話:いつもと違う散歩道


ここは濱僕町( ハマボクマチ )。
町のど真ん中には1つ、とても存在感のある
役所が建っている。
そして、深夜の一時になると必ず、
1人の少年が町の役所に現れる。
その少年の名は、納屋 弌至( ナヤ イチジ)。
家も無く、いつも町を歩き回っている。

弌至はいつもどうりの
散歩コースを歩いていた。
そんな時、1人の少女が、
弌至の特等席のブランコに乗り、
何かぶつぶつと呟いていた。
弌至は何も考えずにその少女の元へ
歩いた。
そして少女の前にしゃがみこむ。
何も言わずに見つめてくる少年の事を
不思議に思ったのだろう。
少女は口を開いた。
「何」
弌至は返事もせず、ただ少女を見つめた。
よく見ると、少女は詩のようなものを
書いていて、
ノートのページにぎっしりと文字が
しきつめられていた。
ぎっしりといっても、少女の字はとても
綺麗で、大人っぽい字だった。
少女の実態を探るべく、
弌至が一言呟いた。
「ねえ、それ」
「え?」
少女は即座に反応した。
「何書いてるの」
「え、あの…」
急に話し出す少年にびっくりしたのか、
少女は動揺している。
「…あ、あの…君はだあれ?」
ようやく出た少女の言葉だったが、
弌至は無視し、質問を続けた。
「なんでこんな所にいるの」
時間帯的には、まだ少女ほどの子供が
出歩いていてもおかしくない。
けれどここは、町の外れの公園だったため、
人が全くいない。
1人で行動するのが好きな弌至にとっては、
お気に入りの散歩コースの一つだった。

すると、やっと少女は普通に話し始めた。
「私は小さい頃から1人なの」
かすかに聞こえた声は、確かにそう言っていた。
「え、どういう…」
「じゃ、」
問いかける途中で弌至の言葉はかき消され、
少女はその場を走り去ってしまった。


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