桜餅師匠

ベルトと正門

和泉はある日、公園で日課のジョギングをしていると、軍服を全身大小のベルトで固定し着ている男性を見つけた。その男は体は小さいのに夜中に倒れていたので、和泉は見兼ねて声をかけた。
「僕、どうしたの。なんで倒れていたの。」
「?」
日本語はもちろん英語も通じず、和泉は会話苦戦する。少年だし、物騒なことこの上ない軍服全身ベルトで交番の預けようにも預けられないと判断した。なので、悩んだ挙句彼女はとにかく彼の精神を安定させることから始めた。
「あ、とりあえず家に行こうか。ほら、ついてきて。」
手を引くと素直についてきた。その微妙に醸す幼さに愛らしさを覚える。家に着くと家主の和泉より先に少年が座った。というよりへたり込んだ。どうやら安心しているようだ。
「ん、もしかして何かから逃げてるのかな。」
紙とペンを持たせてみると、絵を書いて説明してくれた。追手から逃げているというのは正解のようで、和泉は匿っている形になっている。
「なんかぁ、大変そうだね。」
しばらくして、軍服の少年は安心に安心が重なって崩れるように眠ってしまう。その後和泉は、少年が描き残した紙を見た。右上には、小さくもんという漢字。これには奇妙さを覚えた。しかし今はそれに触れず、寝た。
「おい表の住人。聞き取れるか。表の住人よ。」
野太い声に起こされた和泉は不機嫌そうにそちらを見る。そこには大人の男が居た。ちなみに彼も軍服に身を包んで、ベルトで固定している。
「あぁ、この言語で伝わったようだな。助かった。今から彼奴を連行する。国家反逆罪と軍間逃亡罪と殺人罪。裏ではこれらは全て重い。それではな。あぁ、こいつはこんな訳のわからない辺境に逃げてしまってからに。」
そう言いながら玄関の扉を開けようとする。和泉はそれをまだ寝ぼけたまま見届けていたが、しばらくして我に帰る。急いでその後を追うと案の定、彼が居た。
「ちょ、ちょっと待ってください。この少年が一体なにをしたんですか。ちゃんと説明してください。」
そう叫ぶと彼は親切に止まった。余裕があるのだろう。苛ついたのか、帽子を目深に被りなおして語気を強めていた。
「先程も言った通り、国家反逆と軍間逃亡と殺人だ。」
こんな少年が、そんな法を犯すなんて、そんなの間違っている。そう言いたかった和泉だが、遮るように彼はまた言葉を発した。
「しかし、まぁなんとも。貴様は哀れな表の住人だ。ここは我ら裏の住人の世界。裏と表が繋がっている正門があるのは貴様の家の出入口全てだ。これは良い形をした牢屋というわけか。おっと、現実を見せてはいけないのだったな。表の世界はちゃんとある。あるにはあるが、貴様はさしずめ敵国に捕らえられた姫、、、ということかな。失礼。私はこれで。」
和泉は混乱したが、彼が発言したヒントを組み立てる。組み立てるとそこにあったのは謎の虚脱感と絶望に近い落胆だけだった。

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